第73話 エレメス・アクアパッツァ
4章おしまい!
3日後。
私達は王の食卓にやって来た。
ついこの間、エレメスさんと約束した今日この日、お店は休業で、オーザさんの姿もない。立て掛けには“午前中は休業”とのことで、午後からは営業再開するらしい。
「遅いねー、エレメスさん」
「うん。何かあったのかな?」
待ち合わせには特に時間の指定はなかった。
私達は静かなお店の中、いつもの席に座りリラックス状態で惚けていた。
「でも、エレメスさんどんな感じで来るのかな?」
「いっそ、変わった格好だったりしてね」
「変わった格好って?」
「例えば騎士の鎧を着たたりとか、爵位を持って現れたりして」
「あはは、それなら面白いね」
なんて、口々に話をしていると、突然フェルルとアイリスが何かに気がついたのか、視線を扉の向こうに移した。
反射的かつ機敏な動きに翻弄され、私は何があったのか尋ねる。
すると、先に口にしたのはアイリスだった。
「来ましたね、エレメスさん」
「うん。それにしてもこの気配……なるほどね、師匠当たったみたいだよ」
「えっ!?」
当たったってなんのことだろう。
首を傾げる私。すると扉が開き、そこに現れたのはエレメスさんだった。
「こんにちはエレメスさん……えっ!?」
「やぁクロエ君。こんにちは。それから2人とも、元気そうで何よりだよ」
現れたエレメスさんは気さくに話してくれた。
だけだそれよりも目を引いたのは、その格好だ。
白いマントを羽織り、腰には金属製の重くて高級感のあるベルトに鋭い剣を差していた。
はたまたマントの下には水色の下地に、赤い帯を身に付け、気品が溢れていた。
それはまるで絵本の中の貴族像で、私は呆気に取られてしまった。
「如何したんだい、クロエ君?」
「いや、その。貴族みたいだなって」
「あはは。そうだね。僕もこんな格好、本当は好きじゃないんだよ。君達は如何かな?」
「まあ、似合ってるんじゃない?私、貴族とかそっち系好きじゃないんだよねー」
「似合っています。それに、気配も気品を纏っているようですね」
「うん。見せかけだけどね。さてと」
エレメスさんは羽織っていたマントをテーブルの上に乱雑に置いた。
堅苦しいシャツの首を緩め、ため息混じりだった。
それから話は本題に入るため、エレメスさんは私達に小さな墓を差し出した。
「改めて、この間はありがとう。おかげで家族との間に生じた問題が解決したよ」
「それで戻っていたんですか」
「うん。弟との間にいざこざがあってね、それを解消するためもあって僕はここで答えを探していたんだ。でも、料理が好きなのは本当だよ。それで答えが見つかった。弟と話し合って、それでこうして君達の元に顔を出せたんだよ」
「よかったですね。それで、これは?」
「これは僕から君達への褒美だよ。少しでも何かの役に立てばいいなと思ったんだ。是非、受け取ってくれないかな」
黒くて高級感とシックさが見え隠れする箱。
私達はそれぞれ、小さな箱を受け取り中を開けてみると、そこには金色のメダルが入っていた。
しかもずっしりとしていて、本物の金だとすぐに察しがつき、私は目を丸くした。
メダルの表面には、『アクアパッツァ』のシンボルで魚の描かれていて、かなり作りがよかった。
「あの、これは」
「登魚のメダル。アクアパッツアにおける、最高名誉の証を証明するもので、これを見せるだけで、この国との貿易が有利になるだけじゃなくて、商業利益が30%上昇と、30%の値引きなどの有益がもたらされるんだよ
「へぇー」
「それだけじゃないよ。このメダルは特注でね、内側に魔法が練り込まれているから、城にも自由に出入りできる優れものなんだよ」
「城にも……はい?」
エレメスさんは何を言っているんだ。
私は固まってしまった。
しかしフェルルたちはと言うと、これまた当然のようにスルーしていて私は止めに入った。
「ちょっと待ってよ。エレメスさんって、もしかして凄い人なんですか?」
「どうしてそう思うのかな?」
「だって、ねー」
私は目出るとエレメスさんの顔とを交互に見比べる。
するとエレメスさんは薄っすら笑みを浮かべると、一言だけ答えてからキッチンに行ってしまった。
「言ってなかったね。僕の名前は、エレメス・アクアパッツァ。これからもよろしくね」
「は、はいぃー!?」
1人お店の中で声を上げていた。
しかし誰にも迷惑をかけるでもなく、私は1人お店の真ん中で立ち尽くしていて、その様子を呆れるでもなく、
「そんなことより師匠」
「ここでお昼済ませていきましょう」
「あっ、うん。2人は変わらないんだね」
「「はい!」」
そこだけハモらなくてもいいのにと、取り残されてしまいました。
だけど手の中にはずっしりとした重みと熱が伝わっていた。
「まあいっか」
キッチンの方からいつもの格好で現れたエレメスさん。
その顔は清々しく、誰もあの人がこの国の王族なんて知る由もない中、明るく楽しくそれから忙しく働く姿が素敵に思いました。
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