第70話 納品は完了したのだが・・・
書くことない。
恋愛ものの短編を書きました。新しい、婚約破棄代理人をテーマにした話です。
扉から入って来たのはかなり大柄な人だった。
目元はかなり細く、豊満な体付きが特徴的で、エプロンとコック帽をかぶっていたので、すぐにお店の人だとわかった。
「あれ、お客様?」
「あの、私達ファストの冒険者ギルドから、ハルさんのクエストでやって来ました」
「ハルさんから!そうですかそうですか。それはご苦労様でした。自分、ここ王の食卓でオーナー兼コック長を務めさせていただいております、オーザといいます。そちらにいるのは、うちで勉強中の若輩者にございます」
「エレメスと言います。僭越ながら、先程はわたくしがお客様におだしした料理の味が満足いかなかったようですが、是非とも参考までにお聞かせ願えますか?」
エレメスさんはアイリスに尋ねた。
するとアイリスは噛み締めたスパゲッティの麺を噛みほぐすと、エレメスさんに見せる。
「美味しくないと申し上げてしまったこと、悪く思います。ですが、味や職材の調理工程には何ら問題はないかと思います」
「ありがとうございまっす」
「ただ一つ。この料理には、重要なスパイスが欠けていました。それが欠落しているせいで、せっかくの料理の味が半減しているように感じたのです」
「重要なスパイス?」
エレメスさんは固まってしまった。
自分に何が足りなかったのか。スパイスとは何なのか。必死に考えているのが、容易に窺えた。私も少し考えてみたが、おそらくアレだ。
「重要なスパイス?」
「はい。とても重要なものですね。少し言い方を変えるとすれば、“最高”とでも通用します」
「最高……」
「すみません。私にはわかりません。是非とも答えの程、お教えいただけないでしょうか?」
エレメスさんはお手上げのようで、アイリスに答えを求めた。
怒るでもなく、自分のことを完全に下に見ている言い方をするアイリスを尊敬しているみたいだった。
しかし答えを聞くのを止めたのは、他でもないオーザさんだった。
「やめておきたまえ。その答えは、自分で見つけなくちゃならない」
「自分でですか?」
「そうだとも。そうだよね、お嬢さん」
「はい。この答えに辿り着けるか否か、自分自身の手で切り開けるかどうかは、その人次第ですが、それでもこの答えに辿り着けるのと付けないのでは、雲泥の差があると言えます」
アイリスはそう評した。
しかもオーザさんはその答えに納得していて、何度も首を縦に振る。
肝心のエレメスさんは、まるで見当もついていない様子で、
「食材の品質かな?」
「それも大事ですが、その味を生かすも殺すも、ここにかかっているはずです」
アイリスは右腕をトントンと叩いて、ジェスチャーをして見せた。
その様子をじっくり見ていたオーザさんは、アイリスに尋ねる。
「お嬢さんは、料理が好きなのかな?」
「はい。作るのも食べるのも大好きです。だからこそ、“本物”に嘘をつきたくないんです」
そう言い切った。
ここで私はちんぷんかんぷんになってしまって、解釈の受け取り方が分からなくなった。
しかし隣に座るフェルルは何となく察しがついたみたいで、「あー」と声に出したが、私に教えてはくれなかった。
「師匠はわからなくてもいいよ」
「なんで!?」
盛大に驚いてしまったが、誰も何も言わず、さも当然のように流されてしまった少し悲しくなった。
だけど空気のように溶け込んだ私は、若干この陰惨とした空気から解放され、ギクシャクとした熱と冷の対比がまたくっきりと見えてしまった。
(早く帰りたいんだけど)
この空気にいたたまれなくなった私は、心の中では悲鳴交じりに現代っ子らしく、逃げたくてたまらなかった。
しかしこの状況からそう簡単に逃げるなんて許されることもなく、なぜか私達はアイリスとオーザさんの激論を3時間近く聞かされる羽目となった。
その頃には痺れを切らして、ぐでーんとなる私と、何ら姿勢を崩さないフェルル。それから悩み、考え込んでまるで石像のように固まってしまったエレメスさんに分けられていました。
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