第69話 王の食卓
一応ネーミングには意味があります。
水の国、『アクアパッツァ』はその名の通り水の国だった。
西洋風の建物が並び、外の城壁からもわかる通り、ライトグレーやホワイトを基調としている様子だった。
それから、町の中心には大きな川が流れていて、その川を水路のように枝分かれさせていた。その上を進む船の中には、観光客用のもの以外にも、町の人達が普通に生活で使うバスのようなものもある。つまり、この町は水の流れを活かした構造と生活で成り立っていた。
「正直さー、水路を渡って方が早いし楽なんだよねー」
「そうなんだ」
「確か陸路を歩くと、1.5倍ぐらい時間が掛かってしまうんでしたっけ?」
「そうだよー」
「そうだよって、フェルル来たことあるの?」
「小ちゃい頃にね。あっ、あれ見てよ!」
フェルルが建物の屋根を指差した。
そこにあったのは、何でもない普通の雑貨屋さんの様だったけれど、よく見れば屋根の一部が欠けていた。
「まだあったんだ、あの傷」
「フェルルは知ってるの?」
「だってあれ、私が付けたんだよ」
「「えっ!?」」
「前にヒュエル兄さんが私を揶揄ったことがあって、ムカついた私がこの建物の壁を蹴っ飛ばして、追いかけたことがあったんだ」
「へ、へえー」
(意味がわからない)
「だってさ、あの時は私のアイスを横取りしたんだよ!」
「そんな人なの、ファルルのお兄さんって?」
「うーん、槍を持たせたら強いんだけど、最近だとちょっと毒されてるかなー」
「毒されてる?」
それは今のフェルルからしたらとの解釈と、とっていいはずだ。
そうでないと、ただの兄妹の一面になる。
「あっ、でもね私の方が強いよ!」
「それは聞いてない」
「なんだか楽しい家族ですね。でも、今は急ぎましょうか。そろそろ鮮度がガクッと落ちてくる頃です」
「じゃあ急がないとね。行こっ、2人とも!」
「ちょっと待ってよ師匠!」
「道、わかってるんですか?」
そんなのわからない。
けれど、それがわかっていながらフェルルとアイリスは私の後を追って、走る。ここまで私を突き動かしていたのは、新しい町に来たことへの興奮と、あまり過去のいさござがあった場所に長居したくない、人間の性からだった。
「ここかな?」
「ここですね」
「ここだねー」
私達は王の食卓と書かれた看板が目印のお店にやって来た。
そこは大通りから少し外れた路地の向こう側にお店が構えてあって、お店の雰囲気もお高い感じはしなかった。
だけどそれは庶民的で気軽に入りやすくて、私はありがたい。
早速私達はお店のドアを引き中に入ったが、あまりに静かでびっくりしてしまった。
「ここで合ってるんだよね?」
「確かにそのはずですが……静かですね」
「でもいい匂いがするよ」
確かに少し酸味のする香りがした。
しかしお店の中には他にお客さんの姿はなく、呆然と立ち尽くしていると、お店の奥から若い男の人が出て来た。
「いらっしゃいませ、3名様でじゃうか?テーブル席をお座りください」
「あっ、私達は客じゃなくて」
私が訂正しようとした途端、アイリスは先に席に着いた。
それから何を言うかと思えば、
「せっかくなので、いただきましょうよ。お任せでお願いします」
「お任せですか?」
「はい。お任せ3つ」
「かしこまりました」
男の人は少し躊躇った様子を見せてから、厨房の方に向かった。
私とフェルルはどう言うつもりかと思い、アイリスに尋ねた。
「どうしたのアイリス。急にさ」
「少し興味があったんです」
「興味って、ただ食べたかっただけじゃないの?」
「それもあります」
アイリスは開き直っていた。
だけだお昼時。お腹も空いて来たところだ。
私達はさっきの人が持って来てくれるのを待っていると、テーブルの上に貝や魚が入った、フレッシュなスパゲッティが置かれた。
「ルージュ貝のフレッシュスパゲッティになります。どうぞ、お召し上がりください」
「うわぁー、美味しそうだね」
「確かに美味しそう。ねっ、アイリス!」
「・・・」
「アイリス?」
アイリスは料理を真剣に見つめていた。
料理が好きだからこそ、真剣に取り組んでいた。
「た、食べよっか!」
「そ、そうだね」
少しギクシャクとした空気が流れる中、私とフェルルは先に料理に口をつけた。
すると口の中いっぱいに魚介類のあっさりとした味と、フレッシュで酸味のあるスパゲッティとが絡み合い、口の中で解けた。
「うわぁ、凄いフレッシュ感!」
「本当だ」
「如何でしょうか?」
「とっても美味しいです!」
「本当本当」
私とフェルルが絶賛する中、アイリスだけは終始無言だった。
それからゆっくりとスパゲッティを口の中に運び、ゆっくりと噛み締める。
「どう、フェルル?」
「これは貴方が作ったんですか?」
「ええ、そうですが。何かございましたか!?」
「単刀直入に言わせていただきます。美味しくないです!」
「えっ!?」
「何言ってんのさ、アイリス」
「この料理には大事なものが欠けています。それがなんだかわかりますか?」
「えっ」
アイリスの問いかけに、男の人は黙り込んだ。
そんな時だった。
お店の扉が開き、そこに現れたのは大柄な男の人だった。
ギクシャク感がより強まったお店の中で、私とフェルルは縮こまるしかなかった。
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