第62話 ファストのギルドマスター
いよいよギルドマスターの登場だ!
兎の耳、小柄な体型。そこにいた少女は、笑顔で佇んでいた。
何よりもそのはっきりとした大きな目と、その奥から感じる妙な感覚が魅力的だった。だけどそれが何なのかわからない。もしかしたら私だけ気付けていないだけで、何か恐ろしい・・・
「ちょっと、何黙ってるのさ。もしかして調子でも悪いの?」
「えっ、あっ、そんなことないですよ!」
急に声をかけられて、戸惑ってしまった。
この飄々とした態度。小さな身体からは信じられない程に、頼もしい存在感。
一体この人は何者なんだ。心の底から、興味を抱いた。
「あっそっこ。まだ自己紹介がまだだったね。僕は、ハル。ハルっていうのは、皆んなからそう呼ばれてただけで、本名はハルラウラ・ロウーサ。元冒険者で、今はここファストのギルドマスターをやってるんだ。よろしくね」
ハルと名乗った少女は、ニコリと笑顔をした。
さっきまでの気配を内側に留めたまま、私達に向けられたその表情は可愛かった。
しかしさっきから変なことがある。
いつもなら絡んでくるはずの、フェルルとアイリスが無言で、立ち尽くしている。
「フェルル、アイリス?」
私は左右を見回した。
すると、そこにはいつもと変わらない表情のフェルル達の姿がある。しかしどこか違う。さっきから立ち尽くしていて、微動だにしない。それどころか、表情は変わらないが、不穏な気配を発していた。
「2人ともどうしたの。なんだか怖いよ」
「師匠、この人強いよ」
「ほえっ?」
フェルルはそんなことを言った。
いつもの明るい声ではなく、最初会った時のような堅くて深みのある声音で、何処となくこの威圧的な態度は、ハルさんに放っているみたいに見える。
「ねぇ、アイリス。フェルルが……」
「この気配。間違いないですよ」
「間違いないって。そんな不安なこと言わないでよ」
「あはは、やっぱり君達面白いよね」
アイリスもフェルルと同じだった。
威圧的な態度を放ちながらも、ハルさんのことをじっと見つめて、目を逸らさない。それどころか、ハルさんはそんな私達を面白そうに見守っていた。
「はい、皆さん落ち着いてください。とりあえずこの方がファストのギルドマスターで、元は最強候補と評されていた冒険者です。ちなみに私よりも2つ歳上です」
「ってことは22……」
「ミフユのことを知ってるんだったら、察しがつくはずだよ。ちなみに僕は、身長と体重も変わっていません」
「いやそこまで聞いてないですけど……」
「あはは。そうだね。でも、ノリ悪いよ」
何故か怒られてしまった。
クレアさんがせっかく断ち切ってくれたおかげで、不穏な空気はなかったことになっていて、ゆったりとした和みやすい空気感に包まれていた。
「それよりハルさん。クロエさん達にクエストがあるんですよね」
「そうなんだよ。これは他の人に頼めなくてね。本当は僕が行ってもいいんどけど」
「それは駄目ですよ」
クレアさんが凄いこわい顔になって、ハルさんに詰め寄る。
流石に形相には敵わなかったのか、「あはは、冗談だって……」と目を逸らしていた。本当にこの人がギルドマスターなのか、怪しくなる。
「あっ、君がクロエ君だね。君がパーティーのリーダーみたいだけど……ちょっと奥で話さない?」
「えっ!?」
「隣の2人もそんなに警戒しないでいいからさ。それにここ、“戦闘禁止”なんだけどなー」
ハルさんの目付きが変わる。
見れば、フェルルもアイリスも武器の柄に手を掛けていた。先手を取って、ハルさんは2人を静止させると、武器を収めた。
「はい。それでいいんだよ。さっ、行こ行こ」
「あっちょっと!」
「クレア君。君、寝不足みたいだね。今日はもう休んでいいから、体調を整えておいてね」
「あっ、はい!」
「ふふっ。じゃあ行こう行こう!」
私達はハルさんに促され、冒険者ギルドの奥の部屋に通された。
そこはカウンターを通って行かないといけない、いわゆるバックヤードみたいなもので、少しわくわくした。
それよりもフェルルとアイリスがここまで警戒する相手。一体本性はどんな性格の人なんだろうと、探りを入れるのは性に合わないから、それ以上踏み込みはしないけど、兎にも角にも優しそうな人だった。兎だけにね。あー、面白くないかー。
ハルさんは実は強キャラの予定。
本気を出したら、フェルル以上かも?




