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第61話 依頼主は?

新しい章に入りました。

ストックが1話分少ないので、どこかで1日休みます。ごめんなさい。

 よく晴れた昼下がりの午後。

 今日も変わらない風景が続く、『ファスト』の町並みは、相変わらず賑やかだった。

 大通りではまだ昼間なので、冒険者相手ではなく、町の人達に商売をするお店の人達。それでも普段から冒険者の格好のまま生活をしている冒険者も多いからか、剣やら槍やらを装備した人達の姿がぽつぽつとある。

 そんな大勢の人達の合間を、私達は今日も変わらず、冒険者ギルドに向かっていた。


「遅くなっちゃったね」

「でも師匠。まさか、あんなにお客さんが入ってくるとか思わないよね?」

「それは、間違いない……とか言ったら失礼だよね。でも、繁盛(はんじょう)してるのは良いことだよ。やっぱりアイリスも厨房に立つようになったからかな?」

「そんなことないですよ。私は、ミフユさんのレシピ通りに作っているだけですから」


 アイリスはいつも通り謙遜し始める。

 けれど、それは完璧に作れるアイリスだからで、料理が下手な私が作っても、全く同じにはならない。

 それもそのはずで、ミフユさんの料理は経験がものを言うものも多いから、それも相まって、私は絶対に厨房には立ちたくない。そう思っていたのは、秘密です。


「でもさー、ミフユさんの顔色前より悪いよね」

「うん。食堂は流行るのに、誰1人泊まりに来ないもんね」

「ちょっと寂しいです」


 アイリスが手伝い始めてから、より一層食堂は繁盛しているが、それは食堂の名前だけが名実ともに、上がっているだけで、本来ミフユさんがやりたかった宿屋の経営はズタズタになっていた。

 それがわかっていたからこそ、私達は冒険者としての活動だけじゃなくて、ミフユさんの手伝いに入ってたんだけど、それもあってか、今日は冒険者ギルドに行くのが遅くなっていた。


「午後から来たけど、結構人がいるね」

「そうだね。いっつも午前中に来てたけど、午後からは、皆んなぼーっとしてるね」

「それだけ頑張ったことじゃないですか?」

「そうかなー?」


 フェルルはジトーっとした目で他の冒険者の人達を見る。

 対して、アイリスも「あっ」と小さく声を上げた。2人には私にはわからない何かがわかっている。いや、見えているんだ。


「ねえ、2人とも。何かわかるの?」

「えーっとね、“堕落(だらく)”?」

「はい。皆さん疲れていますね」

「へぇー」


 感想はしょっぱかった。

 それ以上に、私が言えることなかったし、それに何もわからないのに、分かったふりをしてるのって、嫌なだけだった。

 2人と私の違いが何なのかはわからないけど、ひとまずその話は置いておくとして、私達はいつも通りクエストボードの前まで寄っていた。


「うーん、今日は午後からだから、少し軽めのクエストにしようよ」

「師匠がいいならそれでもいいよ。でも、もし気が変わって、ヤバそうなのだったら任せてよ。私とアイリスでやるからさ!ねー」

「はい。私も、最近腕が鈍っていないか、心配で」


 腕が鈍るって、2人とも私よりも強いのに、そんなこと言わないでほしい。とかなんとか言えないが、少なくとも2人はやる気十分だった。

 だったら野営覚悟で、少し遠くの強そうなモンスターを相手にしてもいいかもな、と考えていると、不意に聞き慣れた声がした。


「あっ、クロエさん。それに皆さんも」

「クレアさん」


 そこにいたのは、書類をたくさん抱えたクレアさんだった。

 その表情はいつも通りの笑顔だけれど、瞳の奥は疲れていた。


徹夜(てつや)ですか?」

「あっ、はい。実は、大変なクエストがあるんですよ」

「大変なクエスト?」


 私はこの時、一つ嫌な予感がした。

 クレアさんのこの話の展開の早さ。きっと何かある。だけど、私はクレアさんの顔色を窺う前には、体調のことを心配して、すぐに聞いていた。


「はい。でも内密なクエストで。普通の冒険者さん達には任せられないものなんです」

「そうなんですか」

「それでですね、ちょうどクロエさん達を探していたんですよ。その依頼主さんからの指名なんです」


 なるほど、最初から私達に声が掛かる予定だったらしい。

 受けるか受けないかは別にして、私は一体誰からなのか気になった。


「まさか、また騎士団じゃないよね?」


 フェルルは速攻でその話に振る。

 しかし首を横に振ったので、一番の気苦労の種は消えた。

 でも、だったら一体誰が。

 頭の中を空っぽにして、考えていると、不意に聞き慣れない声がした。


「僕だよ」


 クレアさんの背後(うしろ)

 そこにいたのは、兎の耳を生やした、少し背の低い女の子だった。

 だけど表情ははっきりしていて、朗らかな表面の裏には、何処か変な感じがしていた。

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