第55話 まずは罠張りから
原始的な手法です。
私達一行は、揃って、シイタケノシシがいそうな山にやって来た。
そこは結構な傾斜と大きな緑色の葉っぱが生い茂る、森だった。
「この辺にいるのかな?」
「どうかな?多分、いると思うけど」
「少し待ってください」
アイリスは地面を入念に調べ始めた。
目を凝らしながら、ジーッと観察し続けるその姿は、蟻を観察する子供みたいだった。って、そんなこと言ってる場合じゃなくて、聞かないと。
「アイリスなにをしてるの?」
「足跡を探しているんですよ。猪の足跡は特徴がありますし、残りやすいですから」
確かに、よくニュースでもやってったっけ。
猪の足跡ってわかりやすい形をしているし、幅とか大きさとか、地面の食いつき方とか、色々と残りやすいから、特定しやすいんだと思う。
って、アイリスって結構マメなんだね。
「私達も探そっか」
「そうだね。じゃあ私はこっちを探すよー」
「じゃあ私はこっち……って、この山全部調べるの!?」
そこで私は気になった。
まさかこの山全体を調べるってなると、流石に時間がかかりすぎる。そんなの効率が悪いし、いくら時間があったって、足りないよ。
「いえ、流石にそこまでは」
「でも出来るよね」
「はい」
「いやいや、私はできないからね!」
フェルルとアイリスは出来るかもしれないけど、流石に私には無理だ。
ここはとりあえず目星をつけるだけと言うことで、簡単に探ってみる。すると一つ気になるものを見つけた。
「あれ?ここの枝、折れてる」
「本当ですか!」
アイリスが私の元に駆け寄る。
ゴスロリ服が汚れることを顧みずに、観察すると、確かに不自然に若い枝葉が折れていた。
何かに踏まれたような感じで、それを見て私とアイリスはピンと来た。
「ここだね」
「ここですね」
とりあえず猪の通り道を見つけた。
と言うことは、ここが縄張りの可能性は十分に考えられるし、だとしたら、罠を張っておいた方がいいかもしれない。
猪は一応夜行性なので、適当に誘き寄せる餌》と罠を張っておけば、自然とかかるだろう。
そうすれば無傷だ生捕りができるはずだと、踏んだのだ。
「どうしたのさ、師匠にアイリス」
「あっ、フェルル。ちょっと頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」
私がそう尋ねると、フェルルは目をキラキラさせていた。
「フェ、フェルル?!」
「師匠が私に頼み!全然いいよ、むしろその言葉を待ってたんだよ!」
「そ、そっか。あ、ありがと」
「お礼を言うのはこっちの方だよ!で、なになに!もしかして、ドラゴンを1人で討伐して来いとか!」
いやいやそんなこと言わないって、そもそもそんな無駄な争いしたくないから、私。血の気多くないからね。
とか言いそうになったけど、一旦本題とズレるので置いとくとして、私はこほんと咳き込んでから、頼みごとをした。
「動物を狩って来てほしいんだ。あっ、動物系のモンスターね」
「動物系?鹿とか、熊とか?」
「うん。熊は流石にやりすぎだけど、そんな感じ。今日の夜ご飯と、猪を誘き寄せる餌にするんだ」
私はそう説明した。
今晩はここに張ることにした。夜のうちに向こうがここを通る可能性は十分あるので、罠が引きちぎられる前に、捕まえよう作戦を決行しようと言うことだ。
「そこで、シイタケノシシが確実にここを通るようにするために、匂いの強い餌を置いておきたいんです。本当は果実でもいいんですが、やはり味と匂いがつきやすいものの方がいいと思いまして」
アイリスが細く説明を加えた。
するとフェルルは「わかったよ。じゃあ早速行ってくるね!」と頼もしく言ってくれて、森の奥に向かって走り出した。
「凄いねフェルル。こんなに足場が悪いのに」
「流石に勇者様ですね」
「そうだね」
本人に言ったら怒られそうだけど、やっぱりフェルルは凄かった。
私は何度も何度もそう思うことがあり、多分これからもそう思うのだろうね。




