第53話 正体
3章はこれで終わり。
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素揚げを美味しく食べていると、フェルルが突然口にした。
「そう言えばアイリス」
「はい、なんでしょうか?」
「さっきアイリス、自分のフルネーム、アイリス・ディアボロスって言ってたけど……」
「!?」
その瞬間、アイビスの手が止まった。
私は不穏な空気が流れ出したのを、嫌に察した。
「アイリス?」
「わかってたんですね、フェルルさんは」
「まあね。あれだけの魔力や力量。それにこの気配……流石にね」
「そうですか」
「でも一番は名前だね。これではっきりしたよ、アイリスは」
一体何の話だろう。
私はついつい気になってので、話の間を挟んだ。
「ねぇ、何の話してるの?」
「えっとね」
「私の正体についてですよ、クロエさん」
まあ、何となくそんな気はしてたけど、だからと言って何になるんだろ。
「気にしなくていいよ。それで、正体って?」
「私はディアボロス家の人間です。つまりは争いを鎮めた魔王の娘に当たります」
はぁ?なに言ってんの。
勇者に続いて今度は魔王?どれだけファンタジーなんですかね。
「えーっと、それは、本当?」
「はい」
今度はフェルルノ顔を見てみる。
すると、「ほんとだよ」と簡単に答えた。
「マジですか?」
この雰囲気はマジっぽい。
お互い首を縦に振りあっている姿が、もはや言い逃れができない状況だった。
「まあ、アイリスちゃんは魔王さんの?」
「ミフユさんは知ってるんですか?」
ミフユさんはさも当然のように、この状況を受け入れていた。
そこで私はもしかしたら知り合いなのかと思い、聞いてみるが、如何やら少し違うみたいだ。
「いいえ。私ではなく、母がですね。と言うことは」
「はい。改めまして、私の名前はアイリス・ディアボロスと言います。魔王、アイン・デモン・ディアグレファの娘です」
アイリスはペコリと頭を下げる。
その風格は先程までの美味しそうにご飯を食べる姿とは全くの別物で、高貴さを覚えた。
って、ちょっと待って。
「アイリスが魔王の娘なのはわかったけど、なんでディアグレファじゃないの?」
「えっ?」
「ほら、ディアボロスなんて、どこから出てきたの?」
私がそう尋ねると、アイリスは不思議と固まってしまいました。
しかし、すぐに口元を綻ばせ、クスッと笑いました。
「えっ、なに!?」
「い、いえ。そうですか、やっぱりクロエさんは少し変わった方なのですね」
「なにが!?」
いやいや、急に人のことを笑わないでよ!
私はアイリスに抗議を入れると、「すみません」と丁寧に謝られたので、何だか怒るに怒れなくなった。
「あっ、もしかしてだけど師匠って、魔王知らない?」
「うん」
「即答なんだ。まあそうだよね、勇者ってワードにも興味なさげだったし、まさかとは思ったけど」
「ごめんね」
「いいよいいよ。えっと、魔王っていうのはね」
フェルルは魔王について教えてくれた。
魔王とは魔族の王のこと。強大な魔力と戦闘力を誇り、魔族達の世界を支配しており、魔族達から恐れ崇められる存在らしい。
かつてとある魔王が、人間の勇者との激闘をきっかけに歪みが生まれたらしいけど、現在の魔王が人間の女性と婚姻を結んだことで、和解したらしい。
それがこの世界での魔王像のざっくりした歴史みたいだ。
それを聞いて私はこう思った。
「へぇー、凄いね」
「全然凄そうに聞こえないんだけどー」
淡々としていた。
と言うかどうでもよかったし、興味もないから仕方ないんだけど。
「じゃあディアボロスってのは」
「はい。母の姓です」
はい、納得しました。合致しましたよ。パズルの欠けたピースがパチッとハマった音が、聞こえてきました。
「なんだ。結構普通だね」
「普通って、師匠は勇者と魔王の娘。そんな大物が目の前にいて、何にも思わないんだね」
「うん」
私は即答した。
「だって、そんなの付属品的なおまけみたいなものでしょ。そんな肩書きなんか私興味ないし、むしろそんなので踊らされてる方が馬鹿らしいよ」
「師匠」
「クロエさん」
なんだなんだ。急に空気が変わったぞ!
2人の目が私をじっと見ている。
嬉しいのか、悲しいのか。どっちなのかわからないような目の色だった。
「しゅ、修羅場?」
ビクビクしながら待っていると、フェルルとアイリスはにこやかに笑った。
そして、
「やっぱり師匠は師匠だよ!」
「はい。クロエさんは良い人です!」
笑っていた。自然に笑っていた。
一体なんで笑っているんだろう。
私には知る由もなかったけど、今はそっとしておく。
一つ気がかりなのは、どうしてアイリスが1人で旅をしていたのかだけど、そのことも今は聞かないことにしておいた。
少なくとも今は、目の前に並んだ美味しいものを食べることに集中しよう。
次回から3.5章。




