第5話 勇者とか意味わからんて
伊達と読みます。
「そんなことよりフェルル。さっき勇者とか言ってたけど」
「そうだよ。私は女神様からのお告げをもらって、勇者になったんだ」
女神様の名前を出されて何の返答も出なかった。もっとこう、王様だとか教会の偉い人だとかだったら鼻で笑ってたけど、これは馬鹿にできない。だって女神様はホントにいるんだもん。
「あの時は私も驚いたなー。朝目覚めたら、いきなり勇者になってるんだもん。それからはもう大変で大変で、身分を偽るためにわざわざ辺境の町までやって来て、冒険者になったんだもんねー」
聞いてるだけで重たい話感が増して来た。
これは相当厄介な話に巻き込まれてしまったぞと心の中で嫌気がさした。
「それで冒険者か。キャラの渋滞がエグいね」
「キャラの渋滞?」
「詰め込みすぎってこと」
多分こう言ってもわかったりはしない。だって独り言で「私そんなに食べてないけど」とか全く違う発想をしていた。
「まあそんなことはさておき、とりあえずこの人達どうしよっか」
私は地べたに寝そべってグデーンとしている男達を一目見た。
すると何処から取り出したのかフェルルの手には頑丈そうなロープが握られている。
「とりあえずこれで縛って、後は走って持ってく」
「ん?走って持ってくって何処にさ」
「もちろん町までだよ。あっそっか、師匠は町がどっちにあるかわかんなくて森の中を迷ってたんだね」
ズバリ言い当てられてしまった。
心にグサリと突き刺さる一言に怯えながら、私はフェルルの手伝いをした。
手際よくロープで男達をぐるぐる巻きに縛り付けると、何をするのかと思えば本当にフェルルは10人近くいる男達を一度に背負い込んだ。
「じゃあ行こっか師匠」
「マジでその格好で行くの?」
「うん。変かな?」
「変って言うか……ねぇ」
正直に言おう。超変だ。
だってフェルルは可愛いしめちゃ痩せてるのに、どこにそんなパワーがあるのか不思議だった。
「ん?もしかしてだけど、師匠は私がなんでこんなに力持ちか気になるの?」
「うん」
「それはねー、気になる?」
「う、うん」
えらい貯まるな。
私は頬を優しく掻いていた。
「教えてよ、フェルル」
「簡単だよ。鍛えてるから」
「あー、そうですか」
普通なこと言われちゃったよ。そりゃあそうだよね。勇者だし騎士ってことはそれだけ身体が資本になるから、毎日ちゃんとトレーニングしてるってことだもんね。
「ちなみにフェルルは毎日どんなトレーニングしてるとか、聞いてもいい?」
「いいけど、まさかやらないよね?普通に死ぬよ」
「じゃあ遠慮します」
いやいやだったらエーデルワイス家はどんな毎日トレーニングをしてるんだよ。ってか何歳からしてるのかめちゃめちゃ気になったけど、これ以上は今は踏み込んでは駄目そうだった。だってフェルルの目が嫌に生々しいからだ。
「うっ、な、なんだ!?」
「あっ起きちゃった」
そんな話をしていると縛り上げた男の1人が起きてしまった。
これ以上長話は駄目だと感じたので一旦話を切り上げて、私はフェルルに頑張って付いていくことにした。
「それじゃあ行くよ」
「できるだけゆっくりね」
「いいよ師匠。師匠に合わせてあげるね」
「ありがと」
とっても助かる。
私は一旦顔を見合わせると、フェルルが走り出すタイミングで私も走り出した。結構速い。こんなの強化された身体じゃないとすぐに壊れちゃう。
そっか、だからさっきもあんなに動けたんだ。納得した。
「嘘っ!?私のスピードについてこれるの」
「まあ、なんとかね」
これでもギリギリだ。流石はフェルル、勇者で騎士の肩書きは伊達じゃないんだと強く実感した。