第48話 アイリス
そこにいたのはゴスロリ服を着た女の子だった。
ゴスロリって言うのは、ゴシック・アンド・ロリータっていう日本のサブカルチャーで、フリルやレースが付いた、ふんわりとした少女趣味全開のデザインの服のことらしい。
と言うのも、中学の友達で、そう言うのに詳しいことがいた。いやぁー、思い出すだけであの夏のコミケ会場は凄かったなー。
「あ、あの。もしかして水がかかってしまいましたか?」
「ううん、大丈夫だよ。それよりも……」
私はフェルルが私を守るように剣の柄に手を掛けて、前に出ていることが訝しんだ。
「どうしたのさ、フェルル」
「師匠、あの子ヤバいよ」
「ヤバい?」
「うん。とんでもなく強い。私と同等かも」
へぇー、そりゃ凄い。
勇者であり、最高クラスの騎士であるフェルルがそれだけ警戒する相手なら、強さとしてかなり信用できる。だけど、一体全体同等クラスってのは、なんでだろうか?
「その、私はアイリスと言います。先程はすみませんでした」
「だからそれはいいよ。ねっ、フェルル」
「・・・」
「フェルル?」
私がフェルルに声をかけると、フェルルの表情は固くて、怖かった。
私は小さく首を傾げ、先に自己紹介をされたので、それに倣って、こっちも簡単に自己紹介をしておく。けれども、少しだけ歯切れが悪い。
「えーっと、まだ自己紹介してなかったね。私はクロエ。シロサワ・クロエ。よろしくね」
「それから……」
隣ではムスッとした顔のフェルルの姿。
しかし私はそんなフェルルの頭に軽くチョップを入れると、こっちに視線を移した。
「なに、師匠!?」
「はい、そんなムスッとした顔しないの。自己紹介しよ」
「だけど!」
その時だった。
「危ない!」
そう言ってアイリスが斧を振り下ろした。
すると衝撃波が起きて、私達の脇を通り過ぎる。すると、背後にいた熊の姿をしてモンスターを気絶させていた。
「嘘ー、気づかなかったよ」
「私も、注意が追いついていなかった」
フェルルも冷や汗をかいていた。
「大丈夫でしたか、お2人共!」
「うん。ありがと、アイリス」
「ありがとう」
フェルルも渋々って感じだ。
「いえ、当然のことをしただけですから」
アイリスは柔らかな笑みを浮かべる。
その表情が可愛くて、清楚系でほんわかさせられた。
「ほらね、フェルル。私達を助けてくれてんだよ。それに、私達が争う必要もないでしょ」
「それもそうだね。ごめん、考え過ぎてた」
「いいよそんなの。フェルルは私を守ろうとしてくれてたんでしょ?それだけで十分なんだから」
「師匠ー」
フェルルはうるうる目元を濡らした。
そんなフェルルの頭をそっと撫でると、フェルルは素早く切り替えて、アイリスに自己紹介する。
「ごめんねアイリス。さっきは警戒して」
「いえ、構いませんよ」
しかしアイリスは気にしていない様子だった。
「改めて、私はフェルル・エーデルワイス。ここにいる、シロサワ・クロエの弟子で騎士だよ!」
「ちょっと、なに言ってるのさ!」
「だってー!」
私はもう一回テイッと、今度は額にチョップを入れる。
すると痛がる素振りを見せ、それがまた可愛くて、アイリスも口元に手を当てて、笑っていた。
「やっぱり笑顔が可愛いね」
「えっ!?」
別に口説いてる訳じゃないけど、視線が熱かった。
だけどすぐさま意識を切り替え、アイリスは私達に尋ねる。
「それで、クロエさん達は何しにここに来られたのですか?」
「えっとね」
「サイレントフィッシュを捕りに来たんだよ!」
フェルルはそう答える。
するとアイリスは手を合わせてこう言ってくれた。
「それでは、一緒に捕りませんか?」
「えっ、いいの?」
「もちろんです!」
アイリスは笑顔でそう言ってくれたので、私達は甘えることにした。
さてと、じゃあ私達も本格的にサイレントフィッシュを捕りますか。とは言っても、斧なんか使わない方法でね。
この子の斧って、実はめちゃ重なんだよね。




