第46話 フェルルって、やっぱおかしい。
フェルルは強い。だって最強クラスの騎士で、勇者様だから。
私とフェルルは早速、町の外に出た。
今日はクエストの予定はないので、完全にサイレントフィッシュを取りに行くだけだ。
サラミズ川は、『ファスト』の町の北側にあるらしくて、一旦東から回って、北側の山奥にあるサラミズ川に向かうこととなった。
「サラミズ川って、ちなみにどんな川かな?」
「うーん、確か軟水のとっても綺麗な透明度の高い水が流れてるんだって」
「へぇー、じゃあまた水浴びとかしたいね」
「あはは。今度は先にタオル渡してよね、師匠」
「はいはい」
私とフェルルはそんな楽しげな会話をしていた。走りながらだけど。
「主人様、私に乗りますか?」
「そうしたいけど、フェルルだけ走ることになるから今回はパス」
「わかりました」
指輪の中から聞こえてきたのは、シルフの提案の声だった。
しかし今回はそれをパスしたので、フェルルは嬉しそうな反面、シルフは何処か寂しそうだった。
「師匠、この先は道が二手に分かれてるから、気をつけてね」
「よく覚えてるね」
「地図は覚えてきたからね」
「あはは。流石、勇者様だね」
「もー、皮肉言わないでよ!」
フェルルは両腕を思いっきり振り上げて、ぶんぶん振るった。可愛い。子供っぽいところが、そうだよ。
「でも、そこはからかわないでよ!の方が、ポイよね」
「えっ、なにが?」
「あはは、なんでもなーい」
私はフェルルより一歩先を走った。
しかしすぐに追いつかれる。全く、フェルルって凄すぎでしょ。転生者の身体について来られるなんてさ。と、規格外のフェルルの身体能力に呆れてしまった。
「あっ」
そうこうしていると、私達は二手に分かれそうな道に辿り着いた。
二手に分かれそうというのは、まあ簡単な話です。
「木が倒れてるね」
「うん」
道の真ん中を塞ぐように、大きな木の丸太が、一本倒れていた。
そのせいで、道が半分塞がっていて、完全に片道しかない。しかも塞がっているのは、平坦な道の方で、残っているのは、木の数が多い山の方に続く道だった。
「もしかしてこの丸太のせいで、食材が運べないのかな?」
「うーん、多分。一応回り道をしてファストに運ぶことはできるけど、近いのはこっちだから、たぶんそのせいで時間が掛かってるんだよ」
確かに今地図を速攻でビルドして、見てみたら、回り道をすれば他の町からでも物を運ぶことはできる。
だけど明らかに遠回りになっていて、そのせいで食材やら何ならが、町の中に入ってこずに、食材とかの値段が跳ね上がったんだ思う。
「この間の雨のせいかな?」
私はそうフェルルに促す。
この間ゴロゴロ雷が鳴るほどの、大雨だった。
木の折れた部分を見てみれば、焦げたように黒い。多分だけど、雷が木に落ちて、そのままこの道を塞ぐように倒れたんだ。
雷は高いところに落ちるから、雷が鳴っている時は、雨宿りのためでも木の下に入っちゃいけないのは、このためらしい。
よくテレビのバラエティや情報系の番組で、やってたよね。
「どうしよう。この木は流石に避けた方がいいよね」
「うん。じゃあ早速」
「えっ!?」
私が振り返ると、剣を構えたフェルルの姿があった。
両手ではなく、完全に片手で力を抜いている。にも拘らず、その迫力はとんでもなくて、一瞬びびってしまった。
「師匠、どいて」
「あっ、はい」
私は腰が引けた状態で、木から離れると、思いっきりフェルルは剣を振り下ろした。
その瞬間、強烈な風圧が発生して、もくもくと煙が起きる。巻き起こされた、砂が煙幕みたいになったみたいだ。
「うっ、えっちょっと、マジで!?」
私は砂が収まるのを待ってから、倒れた木を見てみると、木っ端微塵に砕けて、なくなっていた。
あまりに呆気なさすぎる。
しかも当の本人であるはずのフェルルは汗一つ流さずに、「ふぅ」と吐息を吐いただけだった。
「こんなんでいいかな、師匠?」
「う、うん。流石フェルル、勇者様だね」
「だからやめてって」
プクッと頬を膨らませるフェルル。
でもでも、今回のは流石に私の方が正しいよね。フェルルの力を再確認した私は、冷や汗をかきながらも、フェルルの案内と強引な先導に連れられて、山の方に向かうのでした。




