第43話 美味しいとは言わないらしい
「はい、納品完了ですね。クエストは完了です。お疲れ様でした」
「「ありがとうございます」」
私とフェルルはさっき倒してきたラービットを、ギルドに納品した。これでクエスト完了。報酬もいっぱいもらえたら、かなり嬉しかった。
だけどさ、よれよりもさ、
「あの、クレアさん」
「はい、どうしましたか?」
「さっきよりもギルドの中、匂いが充満してますよね?」
クエストに出かける前と違い、明らかにギルド内がいろんな料理で溢れていた。
そのおかげか、ギルドの中は美味しそうな匂いが充満していて、食欲をそそり、それからとんでもない空腹感が襲ってきた。
その一方で、匂いが混ざり合って、たまに変な匂いもする。フェルルはそのせいで、「うっ」ってなってるし、シルフなんてもってのほかだった。
「そうですね。たくさんの冒険者の方々が、クエストに出かけられる前、後に拘らず、ギルドの共有スペースで、お食事を取られていますね」
「いいんですか?」
「はい。ギルド内での飲食は禁止されていませんので」
クレアさんはこんな状況なのに笑顔を崩さない。だけど今着ている制服に匂いがついちゃう気がするけど・・・まあいっか。多分それも覚悟してるんだ。
「それにしても凄いよね」
「フェルルなにが?」
フェルルは不思議そうな顔をしていた。
腕を頭の上に置いて、噛んでいる。
「だってさ、その人が美味しいって言ったら流行るんでしょ?それだけの影響力があるって、絶対何かあるよ」
「何かって?」
「例えば“勇者”みたいなこと」
あぁ確かにそれもそうだ。
でもフェルルが勇者だって知ってるいるのは、ごく一部の人間のはずだ。フェルル自身がそう言ってたか。間違いない。
後それから、クレアさんがフェルルの言葉の一つ訂正したがっている。
「フェルルさん、一つ間違っていることがありますよ。その方は確かに来店はされますが、「美味しい」とは一言も言わないそうです」
「「えっ、そうなんですか(なの)!!」」
私とフェルルは驚いて、クレアさんに顔を近づける。クレアさんは“どうどう”と手を横に振る。
私達は顔を離すと、クレアさんの話の続きを聞くことにした。
「美味しいって言わないんですか?」
「はい。あくまでも噂ですが、その方が来店したお店は繁盛します。そう言ったもののはずですよ」
「じゃあジンクスみたいな感じなんですね。でも、それじゃあお店の魅力は伝わらないんじゃないですか?」
「食べっぷりがいいらしいですよ」
「それだけ?」
「今のところは」
何だかアバウトな答えだった。
そんなふわふわした感じで流行らせるなんて、存在自体がインフルエンサーみたいなものだと、私は感じていた。
「でも、そんなに食べるのになんで美味しいって言わないのかな?」
「うーん、なんでだろ?もしかして、本当は美味しくないとか?」
「おそらくそれは違うと思いますよ。これもあくまで噂の範疇を出ませんが、その方は“本当に美味しものに出会った時”、美味しいとは言うのではと、多くの料理店で、躍起になっているそうですよ」
それだけ多くを巻き込めるのも凄いけど、その信念も本当だったら凄すぎる。
私達はクレアさんからそんな話を聞いて、少しだけミフユさんに話してみようと思った。ミフユさんなら、どうするんだろう。
そんな期待が込められていた。
困ったインフルエンサー




