第42話 ラービット
「フェルル、そっち行ったよ!」
「OK、見えてる。ってうわぁ!」
私とフェルルは森の中に来ていた。
2人してここにやって来たのは、当然クエストだ。今回は、ギルドに食材系しかなかったので、ラービットと言う兎のモンスターを捕獲しに来ていた。
「は、速い」
「うわぁ、もう面倒だなー」
ラービットとは、ラードのような脂身が特徴的なモンスターで、こってり系好きからは大変好かれているそうだ。
それだけリピーターが多いので、報酬も破格だったのだが、あまりにも素早すぎて、なかなか捕まえられなかった。
「さっきから私達の手が届かないところばっかり」
「しかも木々で入り組んでる。うわぁ、すばしっこいなー!」
フェルルでもイライラするみたいだ。
さっきからラービットは、盛り上がった木の根っこの部分を駆け回っていて、なかなか捕まえることが出来ない。
このままじゃ逃げられる。そう思い、先回りしてみてもすぐに左右に逃げられてしまっていた。
「うわぁっと!」
私は追いかけようとして、躓いて転んでしまった。
顔から思いっきり地面にぶっかったので、そこそこ痛い。怪我はしていないみたいだけど、鼻先が痛い。
「大丈夫、師匠!?」
「うん。でも、このままじゃ逃げられちゃうよ」
「それか、日が暮れてるかもね」
流石にそれは困る。
一体どうしたらいいのか、私が悩んでいると、指輪の中から声がした。
「主人様」
「その声、シルフ?」
指輪の中から語りかけたのは、シルフだった。どうしたんだろ?
「主人様、ここは私にお任せください」
「えっ!?」
思ってもみない言葉が返って来た。
それは嬉しい。今は人手が足りないもん。いや、狼の手も借りたいんだよ。
「ありがとシルフ。じゃあお願いできる?」
「わかりました」
私は指輪の中からシルフを呼び出した。
「シルフ、あの兎なんだけだ」
「見えていましたので、問題ありませんよ。あの兎を捕縛すれば良いのですね」
「うん。できるの?」
「もちろんです」
何とも頼りになる答えだ。
私はパッと明るくなって、フェルルと顔を見合わせる。流石にフェルルも、自分達じゃ武が悪いことを理解していたので、ここは素直にシルフにお願いすることにした。
「じゃあシルフお願い」
「あんまり傷つけちゃ駄目だよー」
「わかりました。お任せください」
そう言うと、シルフはラービットを瞬時に捕捉して、勢いよく駆け出した。
そのスピードは圧巻で、森の中を々縦横無尽、縦も横も関係なく、高さすら使って駆け上がる。
「速い!」
「それだけじゃなくて、ほら聞いてみて」
フェルルに言われて、耳を澄ます。
すると、シルフの足音がほとんど聞こえなかった。兎は耳がいいから、気づかれないためにわざと足音を消しているんだ。
それだけじゃない。盛り上がった根っこを巧みに渡っていく。足場の悪さをものともしない。
「もしかして、シラフがやっちゃう?」
「だろうねー。ほら、行った!」
フェルルのテンションがグンと上がった。
見れば、いつの間にか超接近していたシルフが、ラービット目掛けて飛びかかっていた。
「ガゥっ!」
シルフはラービットを背後から襲う。
そして次の瞬間には、シルフの背中が堂々たしていた。
「う、動かないよ?」
「あっ、戻ってきた」
立ち止まっていたシルフが、のそのそとこちらに戻ってくる。
その口はラービットの首根っこに噛み付いていた。
「ま、マジですか?」
私はシルフの手際の良さに、目を丸くする。
「はい、主人様」
「あ、ありがと」
シルフの腕があまりに良すぎて、私は言葉を失ってしまった。
だけど、フェルルは隣でテンションがぶち上がっていた。
「師匠師匠、今の凄かったよね!パッと移動して、シュンシュパって木々の合間を横切ってさ、それからドン、バッ、シュン!って感じで、カッコいいよね!私ももっともーっと速く動けたら、速攻で倒して、師匠のアシストに回れるのになー」
「そ、そっか。でもフェルルは今のままでも十分強いから、私も安心できるんだよ」
「師匠?」
「それと、擬音もばっかりだと何言ってるかわからないから、もうちょっと、言葉を変えよっか」
「はーい」
何だかシルフの活躍が流されてしまったみたいだけど、実際にはそんなことはない。
私はシルフとフェルルの頭を自然と撫でていました。
今回はシルフが大活躍のお話でした。




