第41話 料理店が繁盛しているって!?
「そんな話を聞いたんですけど。なにか心当たりとかありませんか?」
私はいつも通り、ギルドに来ていた。
そこでクエストを探す手前、クレアさんとお喋りをしていた。
話題は昨日お店で聞いた、料理店の話だった。
「そうですね。確かに最近、色々な料理店が賑わっているみたいですよ」
「やっぱりそうなんだ。でも、なんでですかね?」
「うーん、冒険者さん達から聞いた話では、最近になってある人が食べた料理店は流行ると言う噂が広まっているみたいですよ」
何それ?
有名ブロガーがやっていそうなことじゃないですか。と、口を滑らせそうになったけど、話が通じないのがわかっていたので、黙っておく。
「つまり、その人が立ち寄ったり、美味しいって言ったら、流行るんですか?」
「そうですね。噂では、本当に美味しいお店と失礼ですが、美味しくないお店を見極める力が凄いらしいですよ。だから、皆んな信用するんだそうです」
「へぇー」
それは凄い影響力を持った、インフルエンサーだ。
私は感心するけど、心の何処かでは“単純”だとも思ってしまった。
「でもそれって、単純だよね」
「フェルル?」
ふと隣にはフェルルがいた。
クエストボードから、依頼書を選んできた後で、その手には依頼の紙が握られている。
「師匠もそう思うでしょ」
「思ったけど、そんなこと言っちゃ駄目だよ」
「なんで?」
「だってそれが良いって思ってる人からしたら、ウザいって思われちゃうよ」
まあ人間そう言う生き物だから、仕方ないんだけどね。
「それよりフェルル、今日はどんなクエスト?」
「それがね、さっきから色々見てるんだけど、食材の採取ばっかりなんだ」
「食材?」
「うん。採取と調達と、配送しかないんだよねー」
フェルルは目に見えて落ち込む。
表情があどけない明るいものから、つまらなそうな暗い顔になってしまう。
「そっかー。でも、ついこの間まではそんなクエスト、少ししかなかったのにね」
「本当だよ!もう、なんでこんなことが起こってるの!?」
フェルルはむしゃくしゃして、そんなこと言う。
しかし私はこう考えていた。これっていわゆるトレンドなのかな?
つまり、そのインフルエンサーの人の影響でたくさんの人が色々な料理店に入るから、食材が足りなくなる。
だから緊急で冒険者に依頼しているのかも。
見ればほとんどが相場以上の報酬だった。これは間違いない。
「そんな凄いインフルエンサーがいたなんて。ネットもないのに、口伝えだけで……」
この世界にはインターネットなんて、もちろん存在しない。
だから口コミ評価もなければ、写真なんて存在しない。それでもこれだけ影響を与えられるのだから、きっと天性の才能の持ち主なのだとピンときた。
「すみませーん!」
そんな時だった。
ギルドのドアが開けられて、やって来たのは普通の人だった。しかし手には何か持っている。紙袋?
「マントルさんはいますか?」
「おー、ここだ!」
そう言って手を挙げたのは、ガタイのいい屈強そうな男の人だった。
見た感じ冒険者で、後ろには物騒な斧がある。その周りでは仲間の冒険者達が、ウキウキ笑顔で彼の到着を待ち詫びていた様子だ。
「注文にありました、マスタードサンドになります」
「おう、これこれ」
「またのご利用お待ちしております」
「おう、また使わせてもらうぜ!」
そう言い残すと、立ち去ってしまった。
しかし注目はその紙袋の中身だ。とんでもない、香りの豊かなマスタードの匂いがする。
鼻の奥をくすぐって、食欲を掻き立てた。
「ね、ねえ師匠あれって」
「うん。サンドイッチみたいだけど、美味しそうだね」
冒険者ギルドの中が、マスタードの香りで支配される。
今の人は、宅配の人なんだ。いわゆるウー○ーとかだと思った。
「私が知らないだけで、そんなのまであったんだ」
「最近になって、流行っているそうですよ」
「へ、へぇー」
クレアさんは私にそっと教えてくれた。
その間もギルド内をマスタードの香りでいっぱいになる。でも本当にいい匂いだった。じゅわりと口から涎が出そうになるのを、必死に抑えるのでした。
こう言うことってあるよね。




