第38話 勾玉の首飾り
今回はマガタマムラのお話なんだな。
荷馬車を助け、私とシルフは村を目指して急いだ。
途中、襲ってくるモンスターの姿はなく、快調に進めた。そのおかげで、まだ太陽が真上に来る前には、村に辿り着くことが出来た。
「シルフ、あの村だよ」
「わかりました」
シルフは村の門前までやって来る。
2本の木を立てて、入り口っぽくしていた。
村の入り口には、村の名前が書いてある。
「『マガタマムラ』?」
マガタマって、あの勾玉だよね。私は中学の時の歴史の教科書に載っていた、クルンと丸まっている、変な形をした石を思い出す。
よく観光地なんかで、アクセサリーとして350円ぐらいで売っているやつだ。
「シルフはどうする?」
「指輪の中で待機しています」
「でもそれじゃあクエスト違反してるって、言われちゃうよ。今回だけは、我慢して一緒に来て」
「わかり、ました」
明らかに、シルフは嫌がっている。
しかし私の言葉を命令と思い込むことにして、従ってくれた。ごめんね。
「それじゃあ行こうか」
「はい」
私とシルフは村の入り口をくぐった。
村の中はかなり静かで、家の数も少なかった。
しかし村の中では畑で野菜が育られていて、側では、畑作業に勤しむ人の姿がある。
「すみませーん!」
「ん?」
畑作業から少し離れ、私達に気がついた。
「なにかようかー?」
「この村の村長さんの家って、どこにありますか?」
私はそう尋ねる。
すると畑作業をしていた男の人は、「この道を真っ直ぐだ」と教えてくれる。
私は、「ありがとうございました」とお礼を言いペコリと頭を下げると、シルフを連れて、畑前の道を歩く。
「親切な人だね」
「そうですね。全ての人間が、こうであればよいのですが」
「そう上手くいかないよ」
人間嫌いなシルフからしてみれば、正義も悪もないのかもしれない。それでも、優しい気持ちに触れることで、少しは考えも変わるかもしれない。
「シルフ、私のことは好き?」
「もちろんです」
「じゃあフェルルや、ミフユさんは?」
「主人様ほどでは、ございませんが」
「そっか。じゃあ、もっと好きになれるように頑張ってもらわないとね」
私はにこやかに答える。
しかしシルフは目を丸くしていました。
「ここかな?」
「ここですね」
私とシルフは言われた通り、真っ直ぐ道を進んでみると、そこには確かに一軒、他の家よりも大きな家があった。
村っぽい感じ。昔話に出てきそうな村長さんっぽい家の外観だ。
「すみませーん、冒険者ギルドから薬を預かってきました」
私がドアをドンドンと叩くと、ガサガサと軋んだ音を立てて、勢いよくドアが開かれる。
「冒険者ギルドから!」
「はい。えっと、薬です」
「おう!待っていたんじゃ!」
中から現れたのはいかにもなお爺さんだった。
その人は、私が鞄から薬瓶を取り出すと、奪い取るみたいに持って行ってしまった。
私とシルフはぽけーっとしていて、その場に立ち尽くすが、10分ぐらい経つと、お爺さんが戻ってきた。
「いや、ありがとう。冒険者さん」
「いえいえ。それより、大丈夫ですか?」
「うむ。孫が数日前に熱を出してしまってな。薬を買いに行こうにも、孫を放っておくわけにもいかず、いやぁー、本当に助かったわい」
そうだったんだ。
確かに、お孫さんを1人にして、買い物に行くなんて出来ないよね。
話によれば、その子の両親は出稼ぎに行っていて、今はいないらしい。そこで私達に白羽の矢が立ったのだ。
「おや、そちらはフェンリル様かの?」
「はい。私の相棒の、シルフです」
私はシルフは毛を撫でた。
するとお爺さんは、「うむうむ」と首を縦に振ると、思い出したように何かを差し出す。
「そうじゃ、これを持っていくといい」
そう言って渡されたのは、勾玉が3つも付いた首飾りだった。
「あの、これは?」
「この村の特産品じゃ。お礼に持って行ってくれ」
そう、押し付けられる形で手の中に握りこまされた。
勾玉は色がついているとか、ガラスみたいに綺麗だとかじゃなかったけど、なんだか趣があって、私は結構気に入った。
「ありがとうございます。大切にしますね」
「そうしてくれるの、嬉しいわい」
私とシルフは無事にクエストを完了し、よくわからないけど勾玉のアクセサリーをもらった。
後は街まで帰るだけ。
私とシルフは今度は躊躇うことかく、全速力が戻るのでした。
そうしてギルドに戻る頃に、私達を待っていたのは・・・




