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第36話 初野宿

休息回。

 夜になった。

 私とシルフは小ちゃな焚き火を燃やして、(だん)を取る。


「こんな感じでいいのかな?」

「はい。火の加減は大丈夫かと」


 シルフはジッと火の番をしてくれている。

 私は棒を使って、焚き火が崩れたり変に燃え広がったりしないように工夫(くふう)する。


「はぁ、春だけど夜になると結構寒いね」

「そうですね。地域にもよると思いますが、このような山の中だと特に気温の変化は大きいでしょう」


 山の天気は変わりやすい。よくそう言われるけど、その原因は斜面(しゃめん)によって吹く、上昇気流(じょうしょうきりゅう)が原因らしい。

 そのせいで、雨や雷だったりが起きやすいそうだが、それと同じで、高さや昼夜(ちゅうや)によっては変わりやすいのだろう。と、適当なことを言っておく。


「今更ですが主人様、食事は如何なさるつもりですか?」

「ほえっ?」

「まさかとは思いますが、ご用意してないのでしょうか?」

「えっ?」


 何故かシルフの顔色がキラキラする。

 まるで、「任せてください!」と言わんばかりだった。


「もしかして、シルフ()ってきたいの?」

「い、いえ。ですが命令さえしていただければ、ご期待に添えてみせます!」


 と、シルフは鼻息を荒げる。

 しかしそんな期待を(くじ)ように、私は苦笑いをしてしまった。


「ごめんね、シルフ。実は、これ持っていてるんだ」


 そう言って、ビルドメーカーで改造した鞄の中から取り出したのは、パックされたウインナーだった。

 それからカットされた玉ねぎに人参(にんじん)、それからカボチャなんかが小分けされて入っている。


「簡単なバーベキューセットなんだけど、もしもの時に備えて、ミフユさんに用意してもらってたんだ」

「そ、そうですか?わかりました」


 シルフは目に見えて落胆(らくたん)する。

 そんなシルフの姿を見ると、少し私も大人がなかった気がして、気がひける。


「シルフ、また今度ね」

「はい」


 尻尾をダラーんとさせて、「くぅーん」と吠える姿は、飼い主にほっとかれた飼い犬みたいでした。



 夜も深くなった。

 急に温度が下がり、身体が寒い。私は毛布(もうふ)をビルドして、電気毛布に書き換える。とは言っても、電気はないので最初っからあったかい仕様だ。


「シルフも入る?」

「いえ、私は大丈夫です」


 そんなこと言われても、流石にほっとけない。

 私は毛布が駄目ならと、指輪を近づけるが、それを尻尾で弾かれる。


「えっ!?」

「主人様!」

「な、なに?」


 急にシルフがもの凄い剣幕(けんまく)になる。怯える私は、身を引き締めた。


「主人様を1人にはしません。ですので、お気になさらず」


 そう答える。

 多分、私のことを1人にしないためにと、自分だけ安全圏(あんぜんけん)に入るのを(こば)んだのだ。

 その優しさはとても嬉しい。まさに忠犬としか言いようがない。だけど、そんな使命感は私との間には必要ない。私が欲しいのはただ・・・


「シルフ、尻尾貸して」

「はい?」


 シルフは一瞬首を傾げてみせたが、すぐに私に尻尾を(ゆだ)ねる。

 そこで私は鞄から取り出したブラシを取り出し、ブラッシングをする。


 サラーサラー


 柔らかい(くし)が、シルフの尻尾にスッと入る。柔らかい。そして心地よい。私はうっとりする。


「如何、シルフ?」

「はぅー」


 シルフは、優しい吐息(といき)を漏らして、リラックスしていた。

 そんなシルフを抱えて、私はふと空を見る。

 たくさんの木の葉っぱに覆われて、夜空は見られないけど、きっと素敵な星達が踊っているんだろうなと、想像するのが楽しかった。

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