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第35話 山道なのに獣が襲って来ない?

獣は強い。ただそれだけ。

 私とシルフは山の中に入った。

 小川(おがわ)で少し休憩(きゅうけい)を取り、身体も心もリフレッシュした後だってので、かなり進みも早い。何より、シラフの足取りが軽快(けいかい)だった。


「うわぁ、本当に歩きにくいね」

「そうですね」

「大丈夫、シルフ?」

「はい、問題ありません」


 シルフに尋ねると、そう答えてくれた。

 山の中は、たくさんの木々に覆われていて、とても暗い。おまけに山道(さんどう)と言うこともあり、まともに整備(せいび)されていないので、さっきまでと比べるとかなりでこぼこしていた。


「まさにこんなに暗いなんて、これじゃあ夜は歩けないね」


 山の中は木々の葉っぱで囲まれている。

 周りをキョロキョロと見回してみると、太陽の日差しが全然入って来ていないのだ。

 それでも葉っぱにはしっかりと光が与えられていて、栄養(えいよう)はばっちりみたい。


「そうですね。早急(そうきゅう)と言うことでしたが、この調子ちょうしですと、二つ目の山の途中で野宿(のじゅく)することになりそうですね」

「野宿?私、やったことないけど大丈夫かな?」


 昔友達と一緒に、キャンプには行ったことがあるけど、今回はそんな準備していない。

 流石のシルフでも、1日で二つの山を越えるのは難しいみたいだ。


「申し訳ございません、主人様(あるじさま)

「ううん、気にしないで。私も野宿と言うか野営(やえい)楽しみだから」


 私はにっこり笑顔で、シルフにそう答える。

 するとシルフは安心したように、そっと息を吐く。


「それにしても……」

「如何なさいましたか、主人様?」


 私はふと疑問に思ったことを口にした。


「いや、さっきから全然モンスターが襲って来ないから。獣の1匹も襲って来ないし、そもそも気配がしないんだけど?」


 私はそう口にする。

 さっきから全く気配を感じない。途中ですれ違った人以外、ここまで一切(いっさい)の生き物の気配を感じていないので、首を傾げる。

 するとその疑問に、シルフは率直(そっちょく)に答えてくれる。


「ご安心ください、主人様。私がついています」

「如何言うこと?」


 シルフはそこから少し話し出す。


「私が気配を放っているので、誰も近づいて来ないのでしょう」

「それって、シルフの殺気(さっき)ってこと?」

「はい。強いものの気迫に弱いものは(おび)えてしまいますから。そのため、先程から姿を現さないのでしょう」


 確かに理にかなっているし、納得もいく。

 シルフはフェンリルと呼ばれる、とんでもなく強くて珍しいモンスターだ。

 そのブランドのおかげもあって、私はここまで安全に来ることが出来たのだろう。

 それがわかると、ハッとなって、私はシルフの頭を()でる。


「ありがと、シルフ」

「主人様?」


 シルフは不思議そうにする。


「ここまでずっと私のために気を張ってくれてたんだね。おかげで、助かったよ」

「いえ、それが契約(けいやく)()わした、私の役目ですから」


 シルフはそう答える。

 しかし私はそれにはムッとして、こう突き返す。


「シルフ、私はそんな目的で契約したんじゃないんだよ。シルフはシルフ。私は伯爵(はくしゃく)みたいな貴族(きぞく)じゃないんだから、もっとフラットな関係でいようよ。ってか、私はそうなりたい」


 私はそう答える。

 するとシルフは、


「主人様」

「そこもいつか直したいね。でもそれはいつかでいいから、役目とか使命感とか取っ払おう」


 前にフェルルに言った時みたいなことを言う。

 使い回しじゃない。私もフェルル同様、シルフにはそうなってほしいと、心からそう思ったのだ。

 それがいつになったら叶うのかはわからないけど、少なくとも私はそうありたい気持ちでいっぱいだった。


「主人様」

「なに、シルフ?」


 急に話しかけて来たシルフに、私は反応する。

 するとシルフはこう答える。


「私ももっと主人様から信用される存在になりたいです」

「シルフ!」


 それが嬉しくてたまらなかった。

 しかしまだまだ(かた)い。そんなシルフのことを少しだけ、ムッと思うが、シルフのその言葉に私は勇気をもらった。


「私もだよ」

「主人様……」

「うん」


 シルフが黙る。

 そこで何を言われるのか、待っていると、シルフは口を開く。


「少し黙ります。舌、噛み切らないように注意してくださいね」

「えっ!?うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 いきなり坂道になった。

 急なことで反応出来ず、私は舌を噛み切りそうになりながら、腹の奥から叫んでいた。

 絶叫(ぜっきょう)としか言えない悲鳴(ひめい)が山の中を駆け巡り、木の枝に止まっていた鳥達が一斉(いっせい)に、(はば)たきましたとさ。

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