第31話 なんやかんや納品
私とフェルルは次の日、ミフユさんの手によって完璧に調合された薬を騎士団支部に持っていった。
するとそこにはラディアさんの姿があり、昨日の態度と何にも変わっていなかった。
「やぁ、来たね」
「やぁ、来たね。じゃないって。師匠」
「わかってるよ。はい、こちらが頼まれていた薬です」
私は少し飲み口が細長くなっている、オシャレな瓶をテーブルの上に置いた。
するとラディアさんは目を見開いて、「本当に持って来たのか」とぽつぽつ言葉を募らせる。
「その言い方ってことは、信じてなかってってことになりませんか?」
「うん、そうだね。私も完全にこのクエストが達成されるとは思っていなかったよ」
ありゃりゃ、この人言っちゃったよ。
でもそう言われると何だか納得がいく。本来とは異なる、いわばイレギュラーなクエストの追加だったからか、焦っていたけど、元を辿れば、そっちのミスなんだもんね。うん。
「しかしよくやってくれたよ。でも、これをフェルルが作ったのは思えないんだが」
「如何言うこと!」
「だって君より、私の方が調合は上手いからね」
ラディアさんは挑発するのうに、フェルルの顔を流し目する。
それにピキンと来たのか、フェルルの気配が変わった。しかしそれを速攻で止める。
「フェルル、ハウス」
「くぅーん」
犬か!
私はそう思ってしまったけど、言葉には出さなかった。しかしラディアさんの言い方も悪い。
「ラディアさん、そんな言い方やめてください。次言ったら、これは返してもらいますからね」
「それは困るな。わかった、もう言わないことにするよ」
「そうしてください(余計な敵を作らなかったらいいのに……)」
そう考えた。
と言うわけで、私は再度テーブルの上に瓶を戻す。
それから、この薬を作った人の名前は言わないことにする。関係ない人を巻き込むのはよくないからね。
「しかし、本当によくやってくれたよ」
「ちなみにその薬って、何に使うんですか?」
「それは秘密なんだ。一つだけ言えるのは、国にとって大切なものということ。あぁ安心して欲しいのは、別に悪いことに使うわけじゃないよ」
「それはそれで安心しました」
若干、良くないことに使うんじゃないかと危惧していた。
そんな犯罪の片棒を担ぎたくなんかない。
「さてと、これで本当にクエストは完了だ。よくやってくれたね」
「もうこんな面倒なこと、懲り懲りですけどね」
「あははっ。まぁそんなこと言わずに、今後も頼むよ」
「遠慮するよ!」
フェルルは反発した。
だけどその気持ちもわかる。本当はさっさとお金を貰って、帰りたいところなんだけど、ラディアさんは紅茶を餌に話を長引かせた。
しかし、私達は出来るだけ早く話を切り上げると、騎士団支部を後にする。
「今回のお手柄は、やっぱりミフユさんだよね」
「だよねー。ミフユさんがいなかったら、今回のクエストは失敗だったよ」
「うん」
それにしても、なんでミフユさんは冒険者辞めちゃったんだろう。
色々気になるところはあるけど、気にしても仕方ないし、あんまり詮索するのはよくないので、今回は“偉い”ってことで、帰るのでした。
これにて2章終わり。




