第30話 『麗しの舞雪』(ビューティースノー)
今回はその過去がちょっとだけわかりますよ。
ブクマとかしてくれると、嬉しいです。
そろそろ晩御飯の時間だ。
私の部屋で2人揃って喋っていた私達だったが、ミフユさんの手作りご飯を食べるために下の階に降りた。
「ミフユさーん、今日の晩御飯なんですかー!」
「あっ、クロエちゃんにフェルルちゃん。今日は、パエリアよ」
「「はーい」」
私達は前よりも仲良くなった。
“さん”付けから、“ちゃん”呼びになっている。
「やったー!ミフユさんの、パエリア美味しんだよね」
「そうなんだ。私はあんまりパエリア自体食べたことないけど、楽しみです」
「ふふっ。期待に応えられるといいけど」
ミフユさんは柔らかに笑った。
うっとりしてしまいそうになる、白い肌と、そこに噛み合った笑い方が、とっても素敵な人だ。
「それじゃあ食べましょうか」
「イェーイ!」
「フェルル、ちゃんと手を合わせていただきますって言おうね」
「はーい」
そんな子供っぽい感じと、家族団欒な雰囲気が心地よい。
しかしふと私は気がついた。このテーブルの上に置いていたはずの白百合がなくなっている。代わりに置かれているのは、パエリアの入った薄いお鍋だ。
「ミフユさん、ここに置いてあったはずの白百合の花、如何したんですか?」
「あれですか?」
「はい、あれです。もしかして飾ってます?」
「でも師匠、ここには花瓶はあるけど、ほら」
確かにこの部屋には花瓶がある。
しかし中に生けてあるのは、別の花だった。ってことは、捨てちゃったのかな?それは困る。もし、他に花瓶があるんだったら、早く取ってこないと。
「あっ、それでしたらこちらに」
そう言うと、ミフユさんが差し出したのは小さな瓶だった。
瓶をテーブルの上に置き、中を覗くと、そこにはとろみのある液体が入っていた。
「あ、あの、ミフユさん?」
「すみません。実はあの後戻ってみたら、テーブルの上に依頼書と一緒に白百合が置かれていて、ふと盗み見てしまったんです」
「それは別にいいですけど」
「それから私、つい昔の癖で、調合してしまったんです。本当に、勝手なことをしてしまったと思って、後から反省しました」
「「……はあっ!?」」
私とフェルルは全くおんなじ間で、驚いていた。
声を上げると、ミフユさんは目をぱちくりさせる。一体どうやって、私達がお手上げだったものをミフユさんがやったんだ。それにさっきミフユさん、
「昔の癖って?」
「あっ、はい。私、昔は冒険者だったんです」
「初耳なんですけど」
「私も私も」
そう答えると、「はて、言ってませんでしたっけ?」と首を傾げるミフユさん。そんな話、一言も聞いてないよ。
「それはすみません。でも、これで調合は出来たはずなので、明日にでもギルドに持っていってください」
「ちなみに、ミフユさんのランクって?」
冒険者にはランクがある。
特定のクエストを達成したり、有名になればどんどん上がっていくシステムだ。
「私ですか、ちょっと待ってくださいね。まだ更新が切れていない、冒険者カードがここに……あぁ、ありました!」
そう言って、私達に見せてくれたのは、まだまだ使える冒険者カードで、そこにはSランクとあった。
「え、Sランク!」
「それって最高クラスの冒険者の証だよ!凄いなー」
「いえいえ、私は調合だけですから!」
謙遜するミフユさん。
いやいや、SランクはSランクだよ。それに今の話だと、調合だけってことは、一本でここまで来たってことになる。本当に凄い。凄すぎる。
「あっ!」
「なに、フェルル!?」
急にフェルルが叫んだので驚いてしまった。
「思い出したよ。前にクレアさんから聞いたんだけど、昔、とんでもなく調合が上手い冒険者がいたんだって」
「それってもしかして!」
「うん。ミフユさんのことだよ、多分。それに、確か二つ名もあったはずだよ」
「二つ名?」
冒険者や騎士なんかには、二つ名って言うのがつけられることがあるらしい。
それはその人のことを表しているもので、これがつけられたら、とんでもなく有名な証拠と言える。いわゆる異名みたいな、ものだった。
「それってどんなの?」
「ちょっとフェルルちゃん、それだけは!」
「えっとね、確か『麗しの舞雪』だよ!」
「カッコいい」
「はううっ」
素直にカッコいいと感じた私。それから恥ずかしくて、顔を覆うミフユさん。
その間でフェルルはドヤ顔をしていた。
でもまあこれで、騎士団からの要求には舐めるはずだ。それにしても、ミフユさんにそんな異名があるなんて、本当に驚きでしかなかった。
ミフユさんはパエリアが冷めきってしまうまで、恥ずかしさのあまり、顔を上げられなかったのが、ほんわかかわゆかった。




