第28話 騎士団の不満
今回は蛇足回。
私はフェルルとシルフと一緒に町まで戻って来た。
しかし町に入る前に、シルフは立ち止まる。
背中に乗っていた私だったが、降りることになった。
「どうしたのシルフ?もう町の目の前だよ?」
「いえ、私はあまり人間とは」
そっか、シルフの怪我の原因は私達人間のせいだもんね。
嫌になるのも、仕方ないよ。
そこで私はその考えを受け入れることにした。しかし、ここからシルフだけ外に置いておくことなんて私には出来ない。
「ですので、こちらを」
そう言ってシルフは自分の古くなって、剥がれてしまった爪を差し出す。
「これって、シルフの爪?」
「はい。先程の主人様の力は拝見させていただきました。そこで、こちらの品を指輪に加工し、私を格納してください」
「えっ!?」
かなり凄いこと言ってる気がする。
だけど、こうしてただ見つめ合ってるだけじゃいけないので、ここはシルフの意見に従おう。
「わかった。じゃあやってみるね」
本当に出来るのかは知らないけど、とにかくやってみる。
すると爪を指輪に加工することは出来た。
しかしそこから、空間を生み出すことは難しくて、出来なかった。そこでフェルルはポケットから赤い小さな宝石を取り出す。
「だったら師匠、これを使って」
「いいの?これ、高そうだよ」
「ただの魔石だし、こんなの大したことないって。ほら、早く早く!」
急かすように私に宝石を押し付けた。
そこで私は宝石を加工して、空間を広げられるか試してみる。すると如何やら上手くいったみたいで、ブラックホールみたいな真っ暗闇が突然創られた。
「これでいい?」
「はい、ありがとうございます。それでは、何かあればお呼びください」
「うん」
シルフは暗闇の中に入った。
すると暗闇は閉じてしまい、手元には宝石が残る。そこで私は指輪と宝石を組み合わせておくことにしました。
騎士団支部に戻ってきた私達。
そこで待っていたのは、ラディアさんだった。彼女はゆったりした格好で、ソファーに腰を下ろす。
「やぁ、持って来たんだね」
「そりゃそうだよ」
相変わらずフェルルの言葉には若干の棘があった。
そこで私は代わりに話に入る。
「それで、白百合は採ってきてくれたのかな?」
「はい。これですね」
私は鞄から取り出した。
すると、目を丸くして顔を近づけるラディアさん。
「こ、これが白百合なんだね。しかし、この下の塊は何なんだい?」
「はい、発泡スチロールです」
「は、はっぽう?」
私が変化させた土が、自分の知らないものになっていて、驚きと興味が混同し合う。
「う、うん。まあそれは置いておこうか」
「それは同感」
「あ、あれ?」
2人の意見が合ったのはいいことだけど、だからと言って、私がせっかく作った発泡スチロールを、間に挟まないでほしいな。
「それで、これでクエストは完了」
「いや、それは少し違うんだ」
「如何言うことですか?」
「実はね、今回はこの幻の白百合を探して来てもらうだけではなくて、この白百合を使った、ある薬を作ってほしいんだよ」
「「薬?」」
私はポカーンとした顔で、フェルルはいかにも面倒くさそうな顔をしていた。
でもでも、薬って言われてもそんなの話が違う。私達は、あくまでも幻の白百合を採ってきてほしいとしか聞かされていないのだ。
「その点については、私のミスだ。それに本来はこちらで予定していたことだったものを、それが叶わなくなってしまってね。だからこそ、君達に追加で任せたいんだよ」
「「無茶苦茶だー!!」」
私もフェルルも抗議した。
しかしラディアさんは、無茶振りをしてくるばかりで、私も嫌いになりそうだった。
「私も申し訳ないと思っているんだよ。でもね、これは騎士団本部の方の責任でね」
「責任転嫁しないでください。とにかく、私達はもうこのクエストから降ります。フェルルもいいよね?」
「うん。私は最初っから、乗り気じゃなかったもん」
「じゃあそう言うことで。あっ、クエストはやったので、報酬は貰っていきますよ」
私とフェルルは隊長室を出ようとした。
しかしそれをラディアさんは引き留める。
「まぁ待ってくれないか」
「まだ、何か?」
「金なら出そう。何なら、冒険者ランクを上げたって構わない。それに結果次第では、時期はずれるが、必ず大きな品を贈ろう」
「いや、そんなことで引き受けるわけないですよ。それじゃあ」
しかしラディアさんは、私とフェルルの腕を掴んだ。そして泣きそうな顔になる。
「お願いだよ。私だって、私だってこんなことしたくないもん。上の命令だからって、世間や風潮に流されて、結局下の人が苦しい思いをするんだ。上の人間なんて、ろくな仕事もせずに甘い汁ばっかり吸って、部下のやったことを自分の手柄にしてのうのうとしてる。そんな奴らの集まりなんだよ、社会なんて!」
「う、うわぁ」
私は目をとろんとして、口を半分開ける。
ラディアさんの精神が崩壊した音がした。た、確かに会社の間の人間。いわゆる、中間管理職は大変だってドラマやアニメで言うもんね。
それにしても、ラディアさんってこんな人だったんだ。何だか同情しちゃうよ。
「わ、わかりました。だから、離してください!」
「ほんとぉー?」
甘くて可憐な乙女ボイスを放つ。
うっ、と顔を引き攣らせてしまったが、すぐに平常を取り戻す。
「は、はい!」
「そうか。では、よろしく頼むぞ」
「ほえっ?」
急にラディアさんは元に戻った。
もしかして今のって、嘘?私は呆気に取られてしまった。
その横でフェルルが、
「はぁー、切り替え早いなー」
とか言っていたのを聞いて、さっきのが本心なのだと知って、安心しました。




