1話 転生ドラゴンの唐揚げ
大陸の東に位置する森にある日一体のドラゴンが襲来した。それは森の管理人により即座にギルドや周辺各国に報告され、数日後無事に討伐された。
管理人は素材を剥ぎ取り、討伐に参加した国とギルドに発送手続きをしてようやく森の地下にある自宅に帰った。
しかし、休んでいる暇もなく、すぐに本来の仕事にとりかかる。
「さて、今日は何にするかな」
***
時刻は夜。住宅街では各家々から美味しそうな匂いが漂ってくる夕食時だ。私の目の前にも出来立てのご飯があるが、まだ食べるわけにはいかない。私は彼に説明し始めたばかりなのだ。なんとか、冷めてしまう前に終わらせたい。
「この世界には多くの生き物がいるが、その種類はおそらく君の世界と全く異なるものだろう」
『あ、あのでっかい虫とか?たしかバタラって名前の』
「かも知らんな。私たちの世界では一般的に見かけるものだが…君がそういう反応をするのであれば、おそらく君の世界にはいない生き物の1つだろう」
テーブルに乗った料理を挟んで会話している彼は、私が蘇生用に作っていた魔術具に憑依している。ちなみに、蘇生してから復活したのがばれないように姿を変えようとしていたので、彼の見た目は白く長い髪に目も白、肌も白という純白のマネキンのようになっている。にしても、ここまで器用に動かせるってことは、彼が言っていることは本当らしいな。
『うん、似たようなのは見るけどあの大きさはさすがにラノベでしか見たことないな』
(…ラノベ?)
「…その中でも魔力を基に活動する生き物、魔物がこの世界には存在する」
『俺が転生したドラゴンも魔物だもんね』
そう、こいつは最近討伐されたドラゴンの魂で、ドラゴンとして生まれる前の記憶があると言う。
「ドラゴンは魔物の中で高位種だ。だが、高位種であろうとも魔物に分類される以上、具体的な特徴は他の弱い魔物と変わらない」
『それって核のことか?』
「そう。魔物は頭や心臓といった肉体のダメージとしての急所の他に、魔力を扱う中枢の核が急所になる。核を破壊できれば、体内の魔力が乱れ、魔物は死ぬ。急所が1つ他の生き物に比べて増えているわけだが、魔力を外に放出することで人間が扱う魔法のような攻撃もできるし、肉体の強化も可能だ」
『うん。でさ、結局森の管理人だっていうあんたの仕事って何なの?』
(あ、つい話が逸れてしまった…)
「まあ、人間に有害な魔物は討伐されるんだが、その魔物がアンデット化しないようにその魂を癒し、肉体を処理するという仕事だ」
『でも、あの量のドラゴンの肉を処理するの大変だったんじゃないか?』
「ああ、大変だった。久しぶりにあの量の肉を調理したな。ほら、冷めて美味しくなくなる前に食べてくれ」
『ん?調理?』
「ドラゴンの肉を調理したのは何年ぶりだろうか。取り敢えず、定番の唐揚げに照り焼き、サラダも作ってみたぞ」
『え、この、料理って、俺の死体でできてる…?』
「死体と言われるとちょっと嫌な気分だが、間違ってはいないな」
『…あんた、やべーな。人に自分の肉食わせるなんて』
「しかし、調理している分マシではないか?」
『いや、確かに言われなきゃ自分の肉ってわかんねーけどよ!でも分かっちまったんだから食べづれーだろ!』
(わがままなやつだな…)
「そんなこと言ってないでさっさと食べろ。正直一人でこの量のドラゴンの肉を調理するのは大変だったし、さらにこれを消費するのも大変なんだぞ」
『嫌だよ!元人間っていう概念でちょっと食べようとか考えたけど、やっぱり自分の体だと思うと無理!』
「そもそも、あなたにこうやって食べさせようとしているのは、あなたの記憶を戻すためなんだからな」
『……』
(やっと大人しくなったか?)
「アンデット化する魔物は他人に冥界から呼び戻されない限りは前世に未練や強い思いをもって留まっている。まあ、例外もあるが、その魂たちは死ぬ直前の思いに囚われて、それ以外の楽しい思い出や本当の思いを忘れている」
『本当の思い…なんのことだ?俺は忘れてることなんてねーぞ。おととい何食べたかは忘れたが』
(それは私も忘れる)
「あなたはおそらく例外だ。ドラゴンとして生きる前の記憶を持っている。全く同じ魂が二度体から乖離して今ここに居るとなると、あなたは神から何か力を、いや、使命を授かってるな」
『そういえばそんな感じの夢を見たな。どんな力がほしい?って言われたから“どんな生き物にでもなれる力”がほしいって言ったんだけど、使命かー。うーん、なんだっけ?』
「それを思い出すために食べろと言ってる」
『んー、なんか靄がかかったみたいに思い出せん』
「だから食べろと言っている」
『なんだっけかなー』
「いや、さっさと食え!」