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第五章  真実

 入学から3週間、ゴールデンウィークを前にして成績考査のテストが行われた。


「普通、中間テストって5月末とかだよね、こんな入学式終わったばかりで成績考査するなんて」


昼休みにヒロミは不満を漏らしながら相変わらず大きな弁当から大きくご飯を箸で掴み大きく口をあけて食べる。


「まぁ~一応進学校だからな、2人は成績大丈夫なのか?赤点とるとゴールデンウィーク補習だって聞いたけど」


千陽は勉強をともにしているから学力はおおよそを把握しているけど、クラスの違う2人は大丈夫なのだろうか?


「下僕に心配されるほど落ちぶれてなどおらぬ。それより、下女は大丈夫なのか?」


苦手としている日本史の教科書を見ながら、千陽は飯を食べていた。


「あぁ、千陽なら、日本史とか社会系を丸暗記するばなんとかかな。理数系は得意だし、英語なら俺が教えて貰ってるくらいだし」


「へぇ~チーちゃん、英語ペラペラなんだ?」


「うん、だから新婚旅行の通訳には心配ない」


「あははははははっ、なにそれ~」


「あっ、海外旅行の心配の間違いだ」


教科書と、弁当に集中しているはずの千陽の顔が真っ赤に染まっていたのには気がついたが黙っておいた。


結果は翌々日、貼り出された。


一位  神峰時見

二位  袋田龍輝

三位  磐城広巳

四位  二島千陽


勿論、俺たちのグループ順位ではなく、学年ランキング。


「はぁ?ミーって頭良かったのか?なんか今人生で一番の敗北感を味わっている気がする」


廊下に貼り出された順位を見て、思わず言葉に出すと、後ろにいたヒロが、


「ミーちゃん、もっと上の学校も余裕だったんだけど、ここをあえて選んだんだよ」


「なぁ~高校までどこ行くとか約束した覚えはないぞ?」


「あははははっ、確かに幼稚園生でどこの高校に行くとかは約束していないよ。ただ単に家が近いからだよ。でもね、ミーちゃん降霊術使って、リュウちゃん達がどこに行くか占ってたよ」


「こわっ」


「偶然なんだろうけどね、あれそう言えばチーちゃんは?」


「机に突っ伏しているよ。ひたすら暗記の一夜漬けをしたらしくて、頭の中で徳川歴代将軍が整列して行進してるってさっ」


「あはははははっ、家康さん先頭かな?」


そんなくだらない会話をしていると後ろには、貼り出された成績表を見るために同学年生徒が集まっていた。


振り向いて教室に戻ろうとすると、その人だかりはモーゼが海を割ったかのように進む先が開かれた。


そして、視線をひしひしと感じた。


格好で目立っている俺たち4人のグループが上位を独占してしまったのだから、そうなるだろうな。


奇異を見る目は、『どうして私は、俺は、こんなふざけた格好のやつらに負けたんだ?』


そう目が言っているようで少しだけ、すっきりとする。


って、ミーに負けたのが釈然としないが。


アニメや、漫画やラノベに出てくるゴスロリキャラは、補習地獄と戦う戦士なはずだろうに。

 


 ゴールデンウィーク連休初日、真夏じゃねえか?


そんな思わせる強い日差しが降り注ぐ中、国営ひたちなか海浜公園の入り口に並んだ。


毎年ニュースや観光・情報番組で取り上げられ、ゴールデンウィークには茨城有数の観光名所となっているネモフィラの丘を一目見ようと県外各地から人が押し寄せた。


海外からも多くの人が一目みたい景色として訪れる丘。


ひたちなか海浜公園のゴールデンウィークはネモフィラだけでなく、色とりどりのチューリップに菜の花の絨毯、マリンゴールドなど色とりどりの花が咲き、まさに春の楽園。


広い園内では子供達が走り回ったり、ボールなどで遊ぶ姿が多く見られる。


様々なイベントも行われ各地からテイクアウト販売車や出店が出店され、ちょっとしたグルメイベント化している。


開園と同時に入るために朝早く家を出たが、各地から来ていた観光客がすでに長蛇の列を作っている。


中に入ってしまえば広い園内なため、舞浜の遊園地のように密集した状態にはならないのだけど・・・・・・。


「こんな天気で、よく、んな暑い格好して来られるな?」


相変わらずゴスロリフリフリのミーに言うと、日傘を見て、


「魔力を注ぐ日傘は夏の炎天下など効かぬ。竜王が吐く炎だろうと防ぐ最高の防具」


「はぁ?」


ゴスロリとは正反対に位置するような爽やかな、ふんわりとした薄いピンク色のワンピースにホットパンツ、つばが広いお洒落麦わら帽子?のヒロミが笑いながら、


「ミーちゃんの日傘の中、見て見なよ」


言われるがまま、しゃがみ込んで裏を拝見すると、ハイテクだった。


「ん?はぁ?なんだこれ、ずっけーぞ、おい」


日傘の中、日傘の親骨を中心にして、扇風機が回っている。


頭の上から風が来ると言うハイテク日傘、ポチッとミーが柄のボタンを押すとミストまで出た。


「魔力で動かしているからズルではないのじゃ」


「どうせ、電池だろ?」


「五月蠅い、魔力で動かしているのだ」


苦笑いで見る千陽は、七分丈のパッツリとしたお尻から足のラインがくっきりとわかる白いジーンズに、薄い紫色の袖なしシャツ、特に柄はない白い野球帽を被っている。


「チーちゃん、ちゃんと日焼け止め塗った?ミーちゃんまでとは言わないけど、日傘さした方が良くない?」


千陽はヒロミに日焼けの心配をされると、


「え~めんどくさい、べとつくから良いよ。そういうの嫌いなんだよね。自然体が一番だって」


「日焼けして大変なことになっちゃうよ?リュウちゃん、塗ってあげなよ」


ヒロミは俺に日焼け止めを渡してくる。


「俺じゃなくてミーに渡せよ。こう言うのは女同士で塗るんだろ?」


「我は手がベトつくから嫌じゃ。っていうか、なぜに勇者は甚平なのだ?祭りでも行くのか?」


渡された日焼け止めを千陽に渡すと千陽は仕方なく、自分の手で腕に塗っていた。


俺の格好は甚平にスポーツサンダル。


お祭りで出没するお父さんって出で立ち。


「夏場は甚平が普段着、楽で良いぞ」


「涼しそうだよね。僕も買おうかな~」


「だよね~俺も欲しいなぁ」


ヒロミと千陽と羨ましがっていた。


美少女の甚平姿、実は好き。


ヒロミは男だけど、長い髪をサイドテールにして甚平はきっと似合うだろう。


似合うと言うより俺が好きな夏の女子。


「千陽は浴衣のほうが似合いそうだけどな?手足長くてスラッとしているから、甚平はあまり似合わないだろ?」


「リュウちゃんとおそろいを着たいけど」


「好きにしたら良いさ、でも隣は浴衣で歩いて欲しいかな」


「ん~なら、トッキーいっしょに着ようよ」


千陽はミーも誘うと、ミーは、


「今からレースを買って縫わなければ・・・・・・」


ぼそぼそと浴衣改造計画を独り言で言っていた。


苦笑いを見せるヒロ、ミーのフリフリって手作りなのね。


列が動き出して中に入ると、青々とした緑と、赤白黄色と様々なカラフルなチューリップが出迎えてくれた。


「チューリップってさ、気にしていなかったが子供の頃より派手になったよな?」


「あ~確かに。花びらの形もいろいろ増えたからじゃないかな?って、そう言う記憶はあるんだ」


「なっ、なんだか都合良い記憶だよな」


少ししんみりとしてしまうと、気を使ったのか、


「うわ~綺麗だよ~」


ヒロミはお手本ヒロインのごとく、手を胸元前で軽くパチパチと拍手をして喜んでいる。


まるで、世話している従業員の皆さんに、ありがとうと感謝の気持ちを込めているかの拍手、でもそれが不自然じゃなく自然体に見えてしまうところが、美少女男の特権?


「うむ、我の庭だ、綺麗であろう」


「いつから、海浜公園はお前の庭になった?」


そうミーにツッコミをすると、


「数千年昔から」


「数千年も昔だったら、この辺はきっと海の中だろうよ!」


千陽はそのボケとツッコミが面白かったらしく、一人ツボって大笑いをして回復する。


「ねぇねぇ、早く行こうよ、ネモフィラの丘」


俺の手をぐいぐい引っ張る。


「待て待て待て待て、ネモフィラの丘は遠いから自転車借りるから、ミーとヒロはどうする?」


「あ~僕たちは園内車に乗って行くよ」


ヒロミはミーの服と厚底ブーツを見て言う。


海浜公園内はカートと呼ぶのかな?機関車を模した車に引っ張られて進む乗り合いカートがあり、そちらのバス停を指さした。


「なら向こうで合流な」


千陽と自転車を借りて、サイクリングロードを走ってネモフィラの丘へ向かう。


国営ひたちなか海浜公園はとても広く、歩きでネモフィラの丘に向かうと結構な距離になってしまう。


それもまた新緑や花々を楽しむのには良いのだろうけど、ただ開園から時間がたつとネモフィラの丘が人の丘になってしまう。


特に写真映えが人気の昨今は、こぞって人の少ない丘を撮影しようと開園と同時にダッシュが始まる。


俺たちは入園口脇のレンタサイクルで自転車を借りる。


「うわ~気持ち良い~」


海風と新緑の空気はとても気持ち良く、千陽はただ自転車で園内を進んでいるだけで喜んでいた。


サイクリングロードを進むと人が増え始める。


入園と同時に猛ダッシュした人達だろう。


みんながお目当てとするネモフィラの丘。


空のブルーとネモフィラブルーが一体化する丘。


時折その丘の上にある鐘がカンカンカンとカップルや家族連れで鳴らされていた。


匂いは・・・・・・花の臭いではなく、実は美味しそうな匂いが漂ってくる。


丘の近くでは出店が料理の匂いを漂わせている。


もし、そこから漂ってくる匂いがなく、人もいなかったら、きっと異世界と思える光景だろう。


魔法使いのお嫁さんが白いドレスで裸足で歩いていても不思議ではない丘。


それほど幻想的な景色。


「人、凄いね、でも、確かに綺麗」


「だから言ったろ?人が多くても綺麗な景色だ。茨城県民なら、ちゃんと自分の目で直に見て自慢して欲しいかな」


「なにそれ~って、そう言えば、茨城県って魅力度ランキング最下位が続いているんだって?おかしいよ。こんな景色だってあるし、美味しい物いっぱいあるのに。海に山に農産物もいっぱいなのに理不尽だよ。忖度が働いているんじゃないの?茨城県は首都東京に近く農業も漁業も工業も盛んな土地だから、最下位にしても痛くないだろ?って、他の県だと洒落にならないから、わざと最下位にしてるんだよ」


「千陽もそう思うだろ?俺もそう思う。なにか陰謀が働いているんじゃないかと」


大半の茨城県民は自虐的に最下位を使っているが、実は腹の中では忖度、陰謀説を疑っている。


「はははははっリュウちゃんと気が合う。ねっ、それより一緒に写真撮ろうよ」


スマートフォンを片手に自撮りをしたいと言ってくる千陽。


画面に収まるように肩を組んで、千陽は右手を伸ばして角度を探っていた。


ヒロミ達を待てば撮ってくれるだろうに。


写真がデジカメからスマートフォンに変わってからは、見知らぬ人に頼むのは少々気が引ける。


スマートフォンは様々な情報を持っているから他人様にそうやすやすと預けられない。


パシャパシャと撮す画面は満面の笑みの千陽。


喜んで貰えて嬉しい俺も満面の笑みで画面に写ると、千陽は横顔にチュッとして、それも写真に収めていた。


「うわっ、あいつら男同士でキスしているぞ」


せっかく楽しんでいたのに水を差す雑音。


「めっちゃイケメンとヤンキーのカップルっておもしれぇ~な」


俺たちにスマートフォンが向けられると後ろから、そのグループに扇子が投げつけられる。


「痛ってぇな、なにすんだ!」


4人組男子グループ、きっとナンパ目的にでも来たのだろう。


「うわ、結構可愛い娘じゃん、俺たちと遊ぼうぜ」


当然扇子を投げつけたのはミーで、その隣には美少女にしか見えないヒロミ。


お兄さん方、その2人カップルですから。


「高貴な我がなぜに盗撮するようなゲスと戯れねばならぬ?」


相変わらず高飛車に返すミー、


「ゲスとはなんだ、てめぇ~女だからってふざけんなよ」


ミーの差していた日傘を振り払おうとする盗撮野郎は宙を飛んだ。


「はい、正当防衛成立と。リュウちゃんは手出しちゃだめだからね。あの時みたいにならないように、お父さんからしっかり習ったんだから、今度は僕が守る番だよ」


「なにが僕だ、ふざけんなよ」


さらに3人がヒロミとチーに殴りかかろうとするとヒロミは流水のごとき動きで避けて足を掛けたり、宙に飛ばしたりして、あっという間に4人を倒してしまう。


「嬢ちゃんかっけー、おい、お前らこれ以上女に手を出すなら、俺が相手してやる」


家族連れで来ていたと思われるムキムキの40前くらいの男性がすごむと、周りも、


「警備員さんを呼べ」


「こっちです警備員さん」


そう大声がちらほら聞こえた。


すると絡んできた4人は逃げていった。


「嬢ちゃん凄かったな、だが、危ないときは逃げるってのを覚えないと、とんだ怪我するぜ、気をつけろよ」


「僕は男です」


ヒロミは大きな声で言うが、その喧嘩に割って入ってくれたお兄さんは、目を大きく見開いて、大声を出して笑い、そのまま家族の元に行ってしまった。


「ヒロ、お前凄いな」


「うち、合気道の道場だよ?それも忘れていたのね。リュウちゃん何回か遊びに来てたじゃん」


「そうだっけ?」


「そうだよ。小学校に入ったら入門するって言っていたのにさっ。って、それより、チーちゃん大丈夫?」


千陽はせっかく楽しんでいたのに水を差されたせいか酷く落ち込んだ顔になり、


「ごめん。俺のせいで不快な思いさせてしまった人がいたんだね」


「俺はいやじゃなかったけどな」


「え?」


ほっぺにキス、恥ずかしいけど嬉しかった写真、せっかく楽しんでいたのに。


「下僕1、我は喉が渇いた。血を欲する」


「うん、わかったよ、ミーちゃん。リュウちゃん、チーちゃん、僕たち屋台の方に行ってるからね」


ヒロミとミーは丘近くにある出店コーナーに向かった。


俺は千陽の手をグイッと握り、丘のてっぺんに登った。


一面ネモフィラに包まれた丘、丘の頂上には幸せを願う鐘が置かれている。


周りを見渡せばネモフィラブルーを埋め尽くす人がいる。


そんな世界でも俺たちには2人の空間になる。


「なぁ~そろそろ隠している昔話、聞かせてくれよ」


3人は俺に隠している出来事を覚えている。


千陽のスマートフォンの待ち受け4人。


それは俺と千陽とヒロミとミーだ。


きっと4人は親しい友達だったはず。


「リュウちゃんが覚えていないなら思い出して欲しくない出来事なんだけどね」


「でも俺は知りたい」


「そっか、そうだよね」


丘に置かれた木で作られた仮設ベンチが一つ空いておりそこに千陽と腰を下ろした。


千陽は俺の右手を指を絡ませてくる。


ちょっと震えが伝わるが、その手をぎゅっと掴む。


「話すよ。単純なことだよ。さっきみたいな出来事があったの・・・・・・」


千陽は幼稚園であったイジメを語り始めた。


そしてある日、俺は我慢に耐えかね、いじめっ子達と大立ち回りをした。


そして、極度の疲労で風邪をこじらせ高熱で入院した事を口にした。


「でね、卒園式にはなんとか出てこれたんだよ、リュウちゃん。その時にね、俺・・・・・・ううん、私は引っ越すことを伝えたんだよ。だけど、リュウちゃんの耳には届いていなかったみたいで。それにね、トッキーやヒロミちゃんと大きくなったら一緒にデートしようって約束したんだよ。ダブルデート、幼稚園児なのにませた約束したよね」


「そっか、俺はなんとか約束守ること出来たんだ」


「リュウちゃん、昔っから約束守る守らないって凄く気にしていたもんね。だから今日のデートは特別・・・・・・デートなんて言っちゃってごめん。こんな男っぽい女とデートなんて嫌だよね?」


俺はまったくそんなことを思っていなかったが、さっきの雑音もやはり千陽には気になる言葉だったのだろう。


外見とは裏腹に千陽の心は繊細な女子。


っとに、ここで俺はけじめをちゃんと付けておかなければな。


「なぁ~千陽、これから大切な話をする」


「えっ?うん」


「一回しか言わない、そして誤解しないよう最後まで聞いてくれ。上手く言えるかわからねぇからな」


前置きをしっかりする。


それほど今から口にする言葉は、俺にとって重要で、人生で最初で最後になってほしい言葉。


「うん」


千陽は左手にグッと力が入った。


「俺は千陽、お前を親友だとしか思えない」


「やっぱり普通の女の子の方が良いよね?」


握っていた手がちょっと千陽の力が抜けていくのが伝わってきた。


だけど、それを俺はしっかりと握り返す、どこにも行かせないかのように力強く、逃げないように。


「だから最後まで聞けって、俺は『愛』って、よくわかんないんだよ。だけどさ、誰かが突然消えるって悲しみは想像できる。いや、経験した。千陽お前だよ」


「親友が消えたんだもん当然だよ。引っ越し前日が卒園式だったし、ごめんね、寂しい思いさせちゃったよね」


「違うから良いからちゃんと聞けって。これプロポーズなんだから」


「えっ?」


横に並んでいた千陽は俺の方に体ごと顔を向ける。


俺もそれに合わせてしっかりと目を見つめた。


「俺は、千陽を失うのはもう絶対に嫌だ。お前とずっと過ごしたい。ずっとの意味は、そのだな一生一緒にって事だ。わかれよ」


「ちょっとちゃんと言って」


「お前・・・・・・千陽を失う悲しみに名を付けるなら『愛』が当てはまるんだよ。俺の愛の言葉はお前にしか当てはまんないんだよ」


「え?じゃ~付き合ってくれるの?」


「付き合うとか付き合わねえとかも良くわかんねぇけどさ、お前が他の男の物なるなんて考えられないんだよ。だからさっ、一生一緒の親友になってくれよ」


「わかんないよ。そんなんじゃわかんないよ」


「将来俺と同じ籍に入る親友になってくれ」


「まどろっこしい言い方だね」


照れ笑いを見せながらもジッと目を見続ける。


「わかってる。今、言う」


「うん」


俺はベンチから立ち上がり、


「千陽、愛してる。付き合ってくれーーーー。これで良いんだろ?」


大きく叫んで振り向くと千陽はパッと立ち上がり、


「俺もリュウちゃんが好きだーーーー抱いてくれーーーー」


俺達は空と大地のブルーが一体化した幻想的な丘で愛を叫んだ。


俺が考えられる最高のリア充告白スポットで。


こんなリア充イベントを現実にすることがあるのかと、ずっと青春ラブコメライトノベルを読んで妄想していたが、本当にこんな日が来ようなんて・・・・・・。


ネモフィラに見入っていた人達、しゃがんで写真を一生懸命撮っていた人達が立ち上がって、俺たちに注目した。


『わぁーーーー素敵ーーーー』


『ねぇねぇ、ママ男の人同士だよね?』

『シッ、そう言うこと言っちゃだめ』


『うわ~リアルボーイズラブ初めて見た』

『すっごいイケメンくんだよ。羨ましい』


『うわ~これ次のコミケに出す本のネタに出来るよ』


『えっ、今の声、女の子じゃなかった?』


様々な声が現実に引き戻してきた。


「千陽・・・・・勘違いされてる」


「良いじゃん勘違いされたって」


「そうだけどさっ、なんか、恥ずかしい」


「もう少しだけこうさせて」


俺は少しだけ俺よりも男っぽい背の高い幼なじみの胸に抱かれた。


まっ、こうなるよな。でも良いんだ。


千陽は千陽だから。


丘の下から、


「私って女がいながらーー」


ヒロミが冗談のつもりで叫び、


「我の下僕のくせに他の女とくっつくとは何事かーー」


イチゴかき氷を持ったミーも叫ぶと俺たち2人は冷ややかな視線が集中した。


「お前ら、冗談でもやめてくれーー、俺はこのイケメンに見えてしまう美少女千陽と付き合うんだからなぁ」


『え?あの子、女の子なの?』

『すっごいイケメンだと思っていたけど』


『がはははは、匂いで女だとわかっていたぞーーーーーー』


先ほど喧嘩に割って入ってくれたお兄さんが叫ぶと、隣の奥さんと娘さん?に後ろから背中を平手で叩かれ、


『恥ずかしいからやめてちょうだい』

『パパの匂いフェチキモい』


怒られていた。


俺は千陽と丘の上の鐘を勢いよく何度も何度も鳴らした。


「ここに誓うよ。千陽、お前はずっと俺の横にいる、一生のパートナーだ」


「そうだね、彼女彼氏夫婦、そんな言葉より一番合う言葉だよね、俺たちなら」


俺の彼女は俺より背が高く、そしてイケメン、実は良妻賢母を夢見る古風な女性だ。


まだ始まったばかりの高校生活なのにリア充になろうとは。




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