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第三章 普通

「おはよ」


目の前には息の荒い熱った顔の千陽、


「おうって、またか?」


「うん、一発済ませた」


「布団汚すなよ」


「マーキング」


「うわっ、本当に濡れてる」


「ちょっと熱が入り過ぎちゃって、へへへっ、ちゃんと洗うから」


裸で布団に潜り込んでいる千陽は、すっきりした顔をしてナニが終わったと喜んでいる。


朝から元気だな。


パンツを穿き、ブラとシャツが一体型の下着を身に着けると千陽は俺をベッドから引き釣り下ろして、シーツを剥がし始める。


変な朝だな。


『普通』に起こして欲しい。やはり普通の起こし方ってなだろう?


幼なじみが普通に男の部屋に起こしに来る。


その段階で物語だけの出来事で『普通』に、起きるイベントではないだろう。


『普通』を調べるにはアンケート調査で大多数になるか?どうか?なんだろうけど、そんなのは聞かなくても大体想像は付く。


異性の幼なじみが起こしに部屋まで来る。


ましてや布団の中に潜り込んでくるイベントはアンケートをすれば少数派。


『普通』ではない。


兄妹ならあり得るだろうけど、絶賛お年頃まっただ中の妹とは、口をきかなくなって二年近くになる。


これも普通なのだろうか?まぁいずれは成長して変わっていくんだろうけど。


「じっと見てどうした?欲しい?」


綺麗なお尻を向け、ピンクのパステルカラーのシマシマパンツを尻の線に指でパチッと合わせ直すと言う。


まさかの神行動をしている千陽と目が合ってしまった。


考え事の視線が熱視線に見えたらしい。


「あげようか?」


「いらないからなっとに、恥ずかしげもなくよく俺の前ですっぽんぽんになれるよな」


「リュウちゃんだからだよ」


「ん?」


「だって昔も庭でビニールプールで裸で遊んでたじゃん、それにお祖父ちゃんに連れられて温泉行ったりしてたじゃん」


「あっ、そうだよ、そうやって裸で遊んでいたり、夏場、ランニングシャツで短パンで遊んでいたよな?だから千陽のことを男だと脳にすり込まれているんだよ。あ~なんか少しは思い出してきたぞ。ちょっとすっきりする」


「朝立ちもすっきりしとく?」


「するかバカ、着替えるから先行けよな」


「も~このラノベみたいに寝ている間にチュッチュしちゃう義妹になっちゃうぞ」


そう言うと俺の本棚の一冊のライトノベルを見せた。


「読んだの?」 


「うん、気になって電子書籍で買ってみた」


「やるなよ」


「さぁ~今朝はしたでしょうか?」


「したら、絶交だからな」


「わかってるよ、リュウちゃんが約束事を大切にするのくらい」


そう言って今日はぴっちりした白のズボンを穿き、薄いピンク色のYシャツを着て、


「お味噌汁温めて置くからね」


そう言い残し香も残して部屋を出て行った。


一部がびっしょりと濡れたシーツを抱えて。


約束ごと、幼稚園の4人、なんかしたような、していないような・・・・・・。


千陽をなぜ男だと思い込んでいたかの理由が解決したのに新たなモヤモヤが生まれた。




『事実は小説より奇なり』


日本史の教師はそう語りながら、教科書から横道にそれた話をしていた。


黒板にはびっしりと重要点を書きまくって、生徒にはそれを写させながら自分は違う教科書には載っていない歴史の話。


頭に入れるべき物が、黒板なのか、教師の話なのか混乱するからむしろ黙っていて欲しい。


俺の現在進行形、人生という歴史は事実はライトノベルより奇なり。


奇の原因、隣の席に座る千陽を見るとウツラウツラとしている。


朝っぱらから人の布団で、自慰にふけっているから眠いんだろ。


そう言ってしまえば千陽なら、きっと開けっぴろげに教室でも『気持ち良かった』とでも言いそう、もし言われれば誤解を大きく生むだろう、さらに孤立化が進むだろう、二人して。兎に角、ウツラウツラと船をこぎ始めてしまった千陽に消しゴムを千切り投げつける。


「起きてろ。日本史苦手なんだろ?」


千陽は歴史・古典・現代文などの教科が苦手で理数系は俺と同等だった。


海外の生活の授業差。


「てへっ」


と一度笑って顔をパンパンと軽く叩くと、眠い目をこすりながら黒板をノートに写し取っている。


その横顔はドラマのワンシーンのように美しい。


男だったら絶対人気俳優だな。


俺もノートを写し取っていると、千陽が挙動不審になった気がする。


また居眠りでもしたのか?突然落っこちたようにガクッとなるあの面白い現象でも発生したのだろう、そんなに気にもしなかったが、放課後、


「リュウちゃん、今日は先帰ってて」


帰り支度をしていると珍しく言う。


「なんだ、ミー伝手で女友達出来たか?どっか部活でも見ていくのか?」


「だと良いんだけど、リュウちゃんの相棒再放送視聴時間の邪魔はしたくないから先帰っていて良いよ」


どこか切なく戸惑いの多い残念な笑み、作り笑いを浮かべていた。


気になるが、なにかあれば相談してくるだろう。


「そう言うなら、先帰るけど大丈夫か?なんかあるなら一緒に残るぞ、どうせ録画してるし」


「うん、大丈夫、一本遅い電車では帰るから」


一本、都会と違い1時間置き、学校近くにファストフード店などもないので、1時間の時間つぶしは難しい。


「なにかあるなら言えよ」


俺はそう言い残して先に家路についた。


珍しく妹の滝音が帰宅時間が重なり久々に妹一緒に夕飯を食べると凝視された。


昨今ほとんど口をきいていない妹滝音、避けられている感がある。


ご飯茶碗を左手に持ち右手の箸でご飯を持ちながらジッと見つめてくる。


今日の夕飯は母さんは料理を並べると、近所の会合に出かけた。


その為、2人だけ、夕方のニュースの音が鳴り響く食卓、いつものこと。


夕方のニュースを横目で見ながら黙々と食事を済ませるのが日常になって長い。


今日もそんな夕飯だと思っていたら、滝音の視線、


「お兄ちゃん、彼氏にフラれたの?」


突然なにを言い出したのか理解するのに戸惑った。


彼女ならまだしも彼氏?聞き間違えか?


「はぁ?今なんて言った?彼氏って言ったか?」


唐突に言われる言葉があまりのことで固まってしまった。


「ごめん、今の気にしないで、いくら何でもデリカシーなかった。ごめん」


「はぁ?なにか勘違いしてないか?」


「良いったら良いって。もう一言話かけただけで嬉しそうに餌をあげたら喜んで尻尾振っている犬みたいに興奮しないでよ。妹に興奮するなんてキモいから。ご馳走様」


自分の使った食器を片付けてとっとと行ってしまう。


これ以上関わっても、ろくな返事も戻ってこないだろう。


罵倒されるのが良いところ、こじらせれば出て行くなど、この多感な時期にはあり得るのでそっとしておく。


実の兄妹だろうと一枚の壁が見えるようだ。


まるでレジなどに設置されている透明なアクリル板の向こう側にいる妹は、どこか遠く、他人だ。


将来、この思春期と言う名のアクリル板が取り払われる日は来るのだろう。


開けない思春期はない。開けない暗闇はない。開けない冬はない。


ただ無理矢理に踏み込めば、氷河期の壁になってしまうかもしれない。


今はじっと静観が一番。


俺も食事を済ませて、食器を片付けているとスマートフォンが鳴る。


千陽からのメッセージで、


『ちょっとだけ良いかな?来られない?それとも部屋行って良い?』


スタンプも絵文字も顔文字もないメッセージは、連絡業務的で無機質。


メッセージアプリなんて連絡をする道具なのに改めて見ると不思議に感じる。


絵文字やスタンプがないとこんなに無機質で冷たいのは、画面の中の文字だから。


直筆のはがきや手紙だったら絵文字やスタンプもなくても、ここまで冷たくは感じないのだろうけど


『皿洗ったら行くから。服は着てろよ』


手を上げる萌えヒロインスタンプと共に送ると、


『は~い、下ノーパンノーブラでだぼシャツで待ってる』


『バ~カ』


まあ今更か、むしろ見せる物ならとことんまで見てやる。


一度ガッツリと見てれば、むしろ恥ずかしがるのでは?そんな打算をしている。


俺が堂々と『よし、今夜のおかずに目に焼き付けてやる』とでも言えば恥ずかしがるはず。


千陽、外見はイケメンだが実は中身こころは、女の子。


呼び鈴を鳴らして開けられた扉の向こうは、今朝学校を行ったときと同じ服の千陽。


顔は悲しげでうつむきがち、気怠そうであたかも着替えるのがめんどくさかったのか、今帰宅したばかりなのか。


ただ、違う匂いが少しだけ混ざっているのは友達と遊んだせいだろうか?


しかし、顔は今朝とは少し違っていて、モヤモヤとうつむく目。


死んだ魚、そう表現したくなる。


発泡スチロールの氷詰めにされて店頭に並んでいる魚のような焦点はいまいち合っていない。


茶の間に入り、こたつに入る。


千陽は昆布茶を入れて、干し芋を皿に盛って出してきた。


「丸干しじゃん」


「うん、お祖父ちゃんが昼間来て、いっぱい置いていったから帰りに持って行ってね。おばさん達におすそ分け」


干し芋が名産として有名な茨城県でも丸干しは高級品、贈答用によく使われる。


柔らかく、ねっとりした干し芋は昆布茶と良くあった。


「で、なんかあったのか?用はこれだけじゃないんだろ?」


廊下に向かう襖脇にスーパーの袋に入れられた俺が持って帰るべき干し芋に目を一度向け、千陽に視線を戻す。


干し芋が理由なら、明日の朝でも良い。

入学以来、毎朝勝手に部屋に押しかけてくるのだから。


「うん、実はね、授業中、手紙回ってきたの気がついた?」


千陽はこたつの中で俺の足に自分の足をわざとくっつけて、ボソリと言う。


「手紙?あぁ女子が好きなあれか?ずいぶん懐かしい遊びだな、まだやっているのか?」


「だよね。スマホのメッセージで良いもんね」


その一言と表情で楽しげな手紙でないことは、想像できた。


女子はなぜに、あのような無駄なことが好きなのだろうか?


授業中に回す意味も大してない内容の手紙。


遊びなんだから大目に見てあげなよって言われそうだが、中学校時代度々、中継地点となっていた俺は、はっきり言ってウザいと感じる遊びだった。


手紙を回すのが面倒で止めたら止めたで文句を言われ、先生に気がつかれてしまえば、それも文句を言われた。


「悪口でも書いてあったのか?」


内容を聞き出そうと質問すると、千陽は首を横に振り冷めた作った笑いを一度し、


「むしろ、そのほうが良かったんだけどね。キモいとか書かれていた方が」


「あぁなんとなく察した。女の告白か?」


コクリと静かに頷くと涙をぽたりとたらした。


「断られるほうも辛いだろうけど断る方も辛いんだよ。憧れるんだろうね、『お姉様』みたいな存在?女性向けの漫画雑誌そう言う内容の多いし」


「宝塚に入れそうだもんな千陽なら、もちろん男役で」


「はははっ、やっぱり男役か。でね、違うクラスの女の子が同じクラスの子を通して告白してきたの。付き合ってくださいって。俺にはさっそう言う同性との願望ってないんだよ。だから、ちゃんと、ごめんなさいって断ったんだけどね、その子泣き出しちゃって・・・・・・やっぱ真面目に告白してきた子のそう言う姿見ると心が痛いよね」


「俺には男も女も告ってきたのがいないから、わかんない経験だがな、まぁ~男には告白されたくはないけど」


昆布茶をゴクリと飲むとジッと見つめていた千陽が、


「バ~カ鈍感主人公」


「千陽の物語の主人公は、お前だろう?」


「俺の物語の主人公はリュウちゃんだよ」


「だったら、チート能力を持つ主人公になりたいよ」


「パンツを奪い取るような魔法使って?」


「あいつはチートではないな。そんな冗談言えるなら大丈夫だな?」


「・・・・・・うん」


男らしい千陽が返事が小さく告白を断る勇気を出すという行動は、人の痛みを考えられる千陽にとって辛い事なのだろう。


肩に手を回し、ぎゅっと抱きしめてやると、必死に堪えていた感情が爆発してしまったのかワンワンと泣く。


「仕方ねぇな。親友として付き合ってやるよ」


一時間もワンワンと泣くと俺のシャツをぐしょぐしょにして、


「冷たい」


「自分の涙だろ」


「リュウちゃんにこすりつける体液」


「バーカ」


にへっと笑う千陽は少しはすっきりしたようだった。


「小学校高学年の頃からよくあるんだ、こういうの」


冷めた昆布茶を飲み干して語り始めた。俺の知らない海外での学校生活。


「海外でもあるのか?」


「むしろ海外だからこそじゃないかな?日本より同性愛って一般的だし」


「そうなんだ・・・・・・」


「俺さっ、こんなんだから女の子に好きになって貰えちゃうんだよね、もう、それは認めるよ。今まで何回もあったし、過ぎたる謙遜は嫌味でしかないのはわかっているから。みんな百合に憧れる年頃なのかもしれないし」


女からの告白、自慢にしか聞こえないが千陽の体もだが、心は実はちゃんと女、知っているよ、そんなこと。


そう口にしてしまえば、きっと何かは失い、なにか新しい物語が始まるのだろうが、その一歩を踏み出すには9年の間を埋めるのには、まだ日は浅すぎる。


せっかく戻ってきた親友を失う言葉になりかねない。


その一言は言えない。


「好きですって言われるたびに、ちゃんと誠心誠意断っていたんだけどね。ある日ね、突然、誰も声かけてこなくなったの。男も女も」


「海外でもあるのか?いじめ?」


「うん。ふった女の子がもて遊ぶだけもて遊んだとか、好き放題に噂流してさっ」


「それを信じる奴らはクソだな」


「やっぱり外国人って壁がもともとあったから余計にね」


「で、高校は日本に?でも、よく同じ学校になれたな?」


「やっぱり聞いてなかったんだ?おばさんに手紙で聞いたもん」


「え?」


「リュウちゃん絶賛反抗期で、おばさんと話さなかった期間だったみたいだよ?愚痴が書かれた手紙返ってきたもん。で、高校はどこに進学予定だよっと教えてくれたんだ、意外に偏差値高いとこ選ぶから大変だったんだからね。帰国子女枠なかったら絶対無理だったよ」


確かに今の滝音みたいな期間が俺にもあった。


家族と距離を取ってしまった時期。


暴れるわけではない、兎に角何かがむずかゆく、苛立ち、何かが腹だたしく、原因不明のイライラがあり両親と距離を取っていた。


ほとんど家で口をきかなかった。学校でも話す機会がなかったのだから、一日中声帯が活躍することがなかった日もあるくらいだ。


今でも、その時期の苛立ちを説明せよ!と、言われると難しい。説明しがたい。


中学二年から三年秋頃までの短な期間だったが、それに名を付けるなら、きっとそれが思春期なのだろう。

残念ながら思春期症候群には巻き込まれなかったけど。


巻き込まれていたら、助けてくれる誰かと出くわして親友になれたのだろうか?


千陽は助けに来てくれたのだろうか?


「狙って来たとは、お見それしました」


「ふふふっなにそれ。でも帰ってきてやっぱり良かったかな。リュウちゃんはリュウちゃんだったから、それにヒロミちゃんとトッキーにも再会できたし」


「俺は千陽が変態行為さえしなければ別に女だろうと男だろうと気にしないがな」


「したくなっちゃうんだもしょうがないじゃん」


「なんでなんだよ?」


「すりこみ?」


「あれか?鳥が卵から出て初めて見た物を親だと思う現象か?」


「かな?はははははっ、違うんだろうけどね。凄く安心するし、必要なの。ねぇ~一緒に風呂入らない?」


にまっと歯を見せる千陽の目は腫れ目で心が読めなかった。


「ちゃんとタオル巻くからさっ。あっ、スクール水着着るよ」


「男物じゃないだろうな?」


「うっ、バレたか!って持ってないからね男物。あっ、スクール水着そのものを持ってないや、青春ラブコメを愛するリュウちゃんの為に買った方が良いのかな?」


「無駄遣いするなよ、スクール水着は幼児体型だから似合う、千陽なら足を強調するようなハイレグ的なのが似合いそうだな、エナメル素材なんか似合いそう、って寂しいなら特別だ、今日は風呂の外で待っててやるよ。入ってこい」


「え~特別なら一緒に入ったて良いじゃん。学校で言わないからって言っても無理なんだろうね。ごめん、脱衣所には居て欲しいかな・・・・・・」


「あぁ、居てやるからしっかり温まってこい」


風呂に入った千陽はシャワーの音がやたらと長かった。


シャワーの音だけで泣き声は消えなかった。


ワンワンと大声を出しながら叫んでいた。


うん、隣の家に聞こえそうだよね。


千陽の辛い過去の思い出と感情は、今日の出来事で隠されていた心の傷を再び開けてしまったのかもしれない。


いくら泣いても足りない、春の嵐のごとく涙の雨は降り続いた。


心の傷か、俺なら千陽のその傷の包帯になってやりたい。


千陽の傷ならどんな傷だって、しっかりと押さえてやる。


「ここにいるから好きなだけ泣け」


聞こえているかいないかわからないが呟いた。


しばらくして、すっぽんぽんで腰に手を当てて丸出しで出てくるいつもの千陽に戻っていた。


肌を玉のように弾き流れ落ちる水滴は、もう涙ではないだろう。


とても綺麗でちょっと見入ってしまうと、


「おっ、俺の裸にやっと興味持ってくれたか?一発する?」


「バーカ、っとに少しは恥じらったほうが萌えだっちゅうねん」


「なら、股間だけ隠す?」


手を股間に当てふざけて見せていた。


「湯冷めする前にちゃんと拭け、バカ」


千陽の裸はエロと言う意味でなくて素直に綺麗だ。


引き締まり手足が長い。そして、乳首はピンクだ。


褒めると絶対図に乗るから言わないけどね。


変態発言を胸を張って出来る千陽に安心して家に帰ると、静まる家でプシュッとリビングから音が聞こえた。


「なんだ、父さんか」


風呂上がり姿の父さんは湯上がりの一杯を開けた所だった。


「なんだはないだろ。残業から帰ってきて、至福の一杯なのにってお前の方が帰りが遅いってどういうことだ?高校生になったからって夜中までほっつき歩くなんて許さないからな。ラノベじゃないんだから」


ビールをグビグビと飲む父さんから『ラノベ』の単語が出たことに驚く。


確かにライトノベル、青春ラブコメの主人公達はやたらと小遣いを持っていて、ファミレス当たり前、舞浜遊園地当たり前、深夜家を抜け出すの当たり前、門限なんてないの同然、補導もされない。


「なんだよ?ラノベ読んでいるのかよ?」


「うんや、夜中の会社帰りにテレビ付けるとやっているんだよな、甘い甘い青春ラブコメ、それに一人ツッコミ入れながら観てる。俺もこんなラブコメしたかったってな」


「そっか」


父さんの青春ラブコメはあまり見たくはないな。


「で、なにしてた?こんな時間まで」


「隣だよ。ほら千陽んとこ、いろいろあるんだよ。悩み事をちょっと聞いてた」


ホッと力んだ肩を緩めて、ビールを再び喉に流す父さん、


「そっか、隣の二島さんの所なら仕方ないな。一人暮らしだし海外帰りだから力になってやれよ。父さんの会社にも帰国組は多いからな。子供が馴染まないって話はたまに耳にする。あまり時間が遅くなるようなときは家を使いなさい。母さんも二島さんの奥さんとは長いだから、頼まれているからな、それだったらほっつき歩いていることにはならないからな」


「千陽もそうみたい。ちょっと感情爆発してたから胸貸してやった」


「おっ、おう、胸をか?ん、うっうん・・・・・・そうか・・・・・・泣きたいときにそばにいてあげられる親友って良いことだと父さんは思うぞ。泣きたいとき、語りたいときにそばにいてあげる、話を聞いてあげられる親友・・・・・・そう言う男になれよ。今だって父さんにも、そういう古い仲間はいる。一生の友人、相棒、見つけられると良いな。さて、父さんはもう寝る」


飲み終えたビールの空き缶をゆすいでシンクに逆さにして置く父さんは、意外にマメだ。


「おやすみなさい、体には気をつけてくれよ」


「がはははははははははっ心配するな。孫を見るまでは死なん」


「孫ね?滝音に期待してくれよ」


どうしても自分が誰かと付き合って結婚することが想像できない俺は、孫の期待は妹に譲りたい。


ツンデレと言うか、絶賛反抗期中の妹だが実は外見は俺の妹か?って言えるほど可愛い。


兄妹のひいき目ではなく、実際可愛いから。


「あぁそうする。父さんはお前がどんな人と恋愛しても応援してやるからな」


その言葉は、なにか不思議な重みを感じたが、その意味を聞こうとする前に寝室に行ってしまった。



~二島千陽~


 君は俺にとっては誰よりも温かい存在、手放したくない者、二度と失いたくない者。


ずっとずっと一緒に居たい存在、誰にも渡したくない存在、そんな感想を言っても胸は貸してくれるのだろうか?


きっと君は警戒するよね。


すぐそばにいるはずの君は、遠く遠く海外にいる家族より遠い。


なのに近い。すぐに手の届く距離にいるのに、遠く感じる。


それが9年間と言う『時間』と言う壁なのだろう。


海外にいて憧れていた君の方が近かったかな・・・・・・。


夢見ていた君は、一緒にお風呂に入ったら、裸で布団で抱き合ったり、そんな事ばかり夢見ていて距離は間違いなく0だった。


エッチな事がしたいんじゃない、ただ、君の温もりを直で味わいたい。


俺・・・・・・私の一方的なギュっではなく、君に力一杯ギュっとしてもらいたい。


どうすればそこまでの関係になれるのだろうか?精一杯、私は頑張っているのに。


『押しても駄目なら引いてみな』


そんな古くさい恋愛文句をちょっとだけ音をと思ってつけたテレビから流れてきた。


攻めすぎたかな。


今までの穴埋めをしたかった俺・・・・・・私は焦りすぎていたのかもしれない。


三年間同じ道を歩むはず。


隣に見える部屋の明かりを消えるまで私はずっと見続けた。


まるで、流星群を見るような希望に輝く明かりを。





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