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第二章 学校生活

 奇異を見る目がそう簡単に変わることがないことを知っている。


しばらく、千陽に声を掛ける者はいなかった。


俺がなぜその目を知っているか?簡単だ。


厨二病を発症してしまった俺は一時期、今考えると『痛い』が言葉として合うファッションに身を包んでいた。

漆黒の悪魔か?堕天使か?コスプレか・・・・・・。


その時の周りの目は奇怪な者を見る目だった。


親はと言うと、

『自分が来たい物なら好きに着ろ。ファッションなんて物は自分が好きな物が一番だ』

特に父さんは普段着が、ヤンキー風の上下のジャージを愛用していたので、とよかく言える格好ではない。


今でも休日はそのジャージ。


俺はと言うと、厨二病は抜け出したが派手好きに転向、特に和柄刺繍が好き。


ジーンズには和柄の刺繍が入っている物を愛用している。


今日も虎が刺繍されたジーンズを穿いているが、千陽はその事にふれることはなかった。


人の噂は七十五日などと言われるが、目の前の奇異に慣れるには何日かかるのだろうか。


奇異と言う目ならまだよい。


それが、悪意の目に変わらなければ。


様々な差別撤廃が言われている昨今だろうと、そんなのは社会と言う枠組みのきれい事。


学校という閉鎖された空間では、珍しい者=悪とされてしまう。


ただ好きな服装をしているだけでも。


「っとに、外見がなんだって言うんだ」


「まぁ無理もないって。それに一緒に風呂入ったって言ったほうのが衝撃的だったんじゃないかな?」


「それは千陽があんなこと言うからだろ」


「だって、あぁ言えばリュウちゃんの周りに女の子寄ってこないでしょ?ねぇ~言わないから内緒にしとくから、またお風呂一緒に入ろうよ」


ケラケラと笑う千陽を今日突き放すのは心が痛く出来ずに、


「変な事しなければ考える」


「約束するぞ」


「変なとこで男らしく胸を張るなっちゅうねん、それとこうして手をつなぐのもやめてくれないか」


「え~別に良いじゃん。昔もずっとつないでいたし」


「だいたい俺は今から小便に行くんだぞ、女と連れションなんて聞いたことない」


「リュウちゃんが望むなら立ちションだってしてみせる」


「バカか?」


「女の子だって立ちションしようと思えば出来るんだよ、そんなグッズも売られているし」


「マジか?」


「女の子は立ちションに憧れるんだよ、そう言えば知ってる?女の子用立ちション便器もあるらしいよ」


「はぁあああ?」


「売られたかどうかまでは忘れちゃったけど、真面目に開発はしていたって、T●TO」


「流石T●TOだな、お尻洗浄機能開発で全社員のお尻の穴の位置を計測したとかは都市伝説で聞いたことはあるけど」


トイレの前で手を振りほどいて男便所に入ろうとすると腰に手を当てクイッと腰を前に突き出す千陽。


「ぬわぁぁぁ、俺の幻想をかき消すな、やめろ、その姿見せられると想像してしまう」


「そそられる?それともリュウちゃんの部屋の萌え萌えとか言う系のあれのヒロインで想像した?なんだかなぁ~だよね」


妙に変な声まねを語尾に付けてクイックイッと腰を振る。


「あの神ヒロインはんなこと言わねえからな!兎に角便所はちゃんと女子便所入れよ、立ちションするなよ」


俺は鼻息をフンッと吐き、千陽の手を振りほどいて、便所に入ると!?


二度見をしてしまった。


美少女が立ちションを済ませて便器から一歩下がり離れ

チャックを上げている。


腰まである黒髪ロングの緩いウエーブ、耳に引っかけた長い髪から覗かせる横顔をチラリと見ただけでわかる美少女。


美少女が立ちション???


千陽が言うように出来るのか?


少し混乱して5分くらいして忘れていた尿意を思いだし急いで小便をして出ると、先に女子便所から出て待っていた千陽が、


「長かったね。うんちには付き合えないかも」


「女が堂々と、うんちとか言うな。ほら、電車の時間だから帰るぞ」


外では部活動の勧誘が盛んにされていた。


「部活は入らないの?」


「入るつもりはないな、帰宅部で良いよ。帰ってラノベ読んでいたい。千陽は?」


「うん・・・・・・」


歯切れの悪い返事、入りたい部でもあるのだろうか?バスケやバレー、弓道なんか似合いそうだ。


「俺に気にせずやりたいのあれば入れば?」


「勉強がね、ほら付いて行くのやっとになりそうだから」


「あぁ、海外ブランク?」


「まぁ~そんなとこ」


「宿題くらいなら一緒にやって教えてやるぞ」


「ヤル」


「今、変な脳内変換しなかったか?」


「殺る」


「益々変な変換しただろ?」


「ごめんごめん冗談。さっ帰ろう帰ろう」


俺はさっき見た者が何かの勘違いだと思うことにした。


そんなことより、バカを言える親友が隣で歩いている。


内心は嬉しい。


家に帰って着替えて千陽の家に行く、約束の宿題を一緒にするために。


「なぁ~もっと隠してある服ないのか?布面積大きいの」


千陽はホットパンツに薄いTシャツ。しかも、首元はガバガバと開いている。


女と知ってしまうとやはり意識してしまう肌の露出。


「ん~楽なんだよね。って言うかリュウちゃん、やる気ビンビン?」


「やめろその言い方っとに、俺も誤解は先に解いとくぞ。千陽の露出した肌は素直に綺麗だと思うし、緊張しないと言ったら嘘になるな」


ポッと真っ赤になる千陽はバカスカと肩を叩いて、


「あははははははははっ、気使わなくて良いから」


大笑いをしていた。


足フェチなのは隠しておこう。スラリとした足はいろいろと凶器だ。


なんでこいつはこんなモデル体型に育ったやら。


殺風景な畳の部屋、茶の間でこたつに入りながら宿題を一緒にやる。


「なぁ~寒いんだったらジャージとか羽織れよ。もう春だぞ?桜終わりだぞ?」


「日本の春は寒い」


「なら、温かいの着れば良いだろ。っとにわかんねぇな。こたつ眠くなんねぇ~か?」


「眠いなら寝て良いよ。ここからは問題自力で解いてみるから」


そう意気込む千陽を横目に体を横にする。


朝、変な起こされかたをしたせいかやたら眠い。


それに春眠暁を覚えずだったかな、うとうととする。


優しく甘い匂いがとても気持ち良く気持ち良く。


ズボンのポケットから何かのアプリが通知を知らせるバイブの振動がしてそれに気がつき目を開けると、


「うわっ、なんだよ」


俺は千陽に抱かれて寝ていた。


「起きちゃったかぁ~あと少しでキス出来たのに」


「うわっ、してないだろうな?俺のファーストキス奪ってないよな?」


「キスまだなんだ?」


にんまりと笑いやがる。


「悪いかよ」


「ううん、その初めてを俺が奪う」


そう言って無理矢理顔を近づけてくる。


肩を掴んで阻止。


「冗談でも、本当にやめてくれよ。俺だってこうファーストキスには夢があるんだから、遊びでなんてしたくない」


千陽は親友、付き合うとか考えていない。


男女の友情が存在するかしないかは、性的な関係になっているかいないか?だとも思っている。


「ごめん、ロマンチストなんだね」


「うっせ」


諦めたのか、顔を近づけるのをやめたが下半身がもぞもぞする。


「お障りも禁止」


「親友の体を触る親友、良いじゃん」


「良くないって、お前は女で俺は男、っとにそう言うことは彼氏としろよ」


「彼氏いないし、俺みたいなのに出来ると思うか?」


「出来るんじゃないか?」


「なってくれるの?」


見つめてくる千陽がニンマリと笑った。


「そう言うことはふざけてでも言うな。千陽は親友、良いな」


「ふざけてないのに・・・・・こうしているくらいは駄目?」


俺の胸に顔を埋める千陽は、静かにただ普通に優しく胸に顔を埋めている。


家族と離れて一人暮らし、寂しいのだろうと。


そして、学校の出来事。

教室では気にしていない素振りの一日、心は張り詰めていたのかもしれない。


「ハグだけだからな。他は駄目だからな」


「うん・・・・・・」


静かにしばらく胸の中で深呼吸をしているようだった。


しばらくするとまたブルッとスマートフォンが振動する。


千陽が手を俺のポケットに入れスマートフォンを取り出してくれると、母さんからのメッセージで、


『夕飯、千陽ちゃんの分も用意してあるから。私、カラオケ父さん飲み会』


兎がバイバイするスタンプ付きで送ってきた。


「母さん、今日も俺たちの飯の支度してくれたって」


「うん、もう少しだけ」

「なぁ~猫の匂い嗅ぐ飼い主みたいだぞ」


「はははははっリュウちゃん猫」


「ほらもう行くから、腹減ったから」


「リュウちゃん良い匂いするんだもん」


「お前もな」


胸元から顔を離した瞬間に抱かれていた手も力が抜けたので、こたつから這い出る。


「こたつにのぼせたのか?顔真っ赤だぞ。風邪引くから上着羽織ってこいよ」


ピンクのだぼっとしたパーカーを羽織る千陽、オシャンティーだな。


俺の家に帰ると、妹は先に夕飯を済ませたらしく、風呂からスマートフォンで流しているであろう音楽が妹の鼻歌交じりに聞こえてくる。


俺と千陽で夕飯を食べていると、音楽は止まり足音が近づいてくる。


リビングの戸が開くと足音はすぐに止まり、千陽を凝視していた。


「わぁぁぁぁ、イケメンイケメンがいるすっごいイケメンがいる」


「滝音、人を指さすのは失礼だぞ」


風呂上がりの飲み物を取りに来たであろう妹は頭を拭きながら入ってきたが、千陽の格好良さに逃げていった。


単純に知らない人だからパジャマの無防備な姿は見せたくないのかも。


それをパッと見た千陽は、苦笑いをし、


「あはははっ、兄妹同じ反応するって面白いね。滝音ちゃん流石に覚えてないよね、俺の事」


「無理だろ、俺だってわかんない変貌ぶりだったんだからさ」


「赤ちゃんだったしね」


「今、絶賛反抗期だから、そっとしておいてる」


「そんな年頃なんだ」


「中二だからな」


「日本には中学二年生がかかるって奇病があると聞いたけど、それ?」


「日本特有の中学二年生だけ罹る病気があったら見て見たいよ。風土病か?千陽、それ間違ってるからな。ただのオタク化するのが、そのくらいの年頃、いろいろな力を持っているとか、自分が特別な存在なんだとか、自分に変なキャラ設定しだして演じ出すんだよ。ラノベや漫画やアニメに一歩でも近づこうとするの、それが厨二病、思春期の変異種だ」


「なら、リュウちゃんは治っていないんだ」


「うっせっつうの、なんで俺が治ってないんだよ」


「だって部屋の本棚美少女が表紙の物語ばかりじゃん」


「青春ラブコメが好きなだけなんだよ。趣味だ、ほっとけ」


最近飯を誰かと食べる機会が減っていた俺にとって、千陽との飯はこんなバカなやり取りでも楽しかった。


テレビに一人でツッコミを入れてるより、どれだけ建設的か。


夕飯が済むと、千陽が食器類を綺麗に洗ってくれた。


「このくらいはさせてよ」


「まぁ~そう言うなら頼むよ」


「リュウちゃんはテレビでも見てたら?」


「なら、お言葉に甘えて撮りだめしてある深夜アニメを」


異世界転移して、チートスキルは死んでもリセットされてセーブポイントに戻るというちょっと痛い経験を多くする主人公、愛するヒロインを王様にするために不器用ながら悪戦苦闘する物語を見ていると、


「へぇ~メイドさんかぁ~可愛いよね~」


「千陽もこう言うフリフリした服とかは憧れるのか?」


「ん~見ていて楽しいよ、ただ、自分で着るのにはね~メイドより執事の方が似合いそうだし」


「自分でそれ言うか?」


「男っぽい外見ってのは認めざるしかないから」


「あれだ、家の中でフリフリしたエプロン着けるとかで楽しんだらどうだ?見るの俺だけだから変な視線はないだろ?」


「裸にエプロンかぁ~」


「ちょっと待て、誰が裸にって言った?服はちゃんと来てろよ」


「あははははっ、だよね」


そう笑いながら隣に座り俺に寄りかかりながらアニメを見入ってしまう。


「重くない?」


しばらくして聞いてくる千陽、


「いや、軽いな~千陽」


「はははっ、食べても太りにくい体質ってのは気に入ってる」


「俺はこのぶよぶよ、お腹」


「触ってて良い?」


そう言う前からお腹の肉を優しく、まるでスライムでも揉むようにぷにゅぷにゅと触っている手、


「下半身に手を下げていって触るのはなしだからな」


「バレたか」


ニンマリ笑った後、俺の太ももの上に頭を乗せると寝っ転がってテレビを見ていた。


貯め録りが五話分あり約二時間が過ぎたところで、母さんが帰ってきた。


太ももの上の千陽はうとうととしている。


「ただい・・・・・・あら、ごめんなさい、おじゃましましたぁ~」


「母さん?」


リビングに荷物を置いたと思うと足早に風呂に行ってしまう。


「うっ、うぅぅぅぅ、ごめん寝ちゃっていたけど、なんかあった?」


「いや?なにもないけど、ほら、遅いから送っていくから」


「うん、ご馳走様でしたって伝えといて」


「今、風呂だよ、母さん」


「あっ、寝ているうちに帰ってきたの?なら、廊下から声かけて帰るよ」


そう言って、母さんが入っている風呂近くまで千陽は行くと、


「おばさん、ご馳走様でした。帰りますね」


「あら、龍輝とお風呂入って泊まっていけば良いのに、自分の家だと思って貰って良いのに」


「ありがとうございます。でも宿題まだ残っているので」


「なら、戸締まりちゃんとしてね、龍輝、ちゃんと隣でも送っていくんだからね」


そう廊下に聞こえていた。


千陽のこと女だと知っているのに、男扱いなのか?いささかの疑問も感じるが、千陽を送り届けて家に戻ると、母さんは、風呂上がりの一杯に梅酒を飲み始めていた。


「龍輝、あんた、夢叶って良かったじゃない」


「はあ?」


「青春ラブコメの現実、良いわねぇ~、私も晩秋ラブコメ来ないかしら」


「何言ってるか理解不能だけど、父さんが聞いたら悲しむぞ」


「ふふふふっ、冗談よ。さぁ~て明日も品出しパートがあるから先寝るわよ」


そう言って小さなぐい飲みに入った梅酒を飲み干すと、寝室に入っていった。


なにが青春ラブコメだよ。


やっと友情物語始まれたのに。


~袋田滝音~


 お兄ちゃんのお友達がイケメン、お兄ちゃんがイケメンとハァハァハァハァ。


確か隣の家に昔いた子って聞いたけど、すっごいイケメン。


お兄ちゃん✕イケメン幼なじみ?ハァハァハァハァすっごい良い。


どっちが攻めでどっちがウケなんだろう?お兄ちゃんはウケって顔ではない。


これ、書かなきゃ。これは小説のネタになるは。

幼なじみとボーイズラブ。ぐふぇぇぇぇぇぇぇ。



妹が壮大な勘違いをしていた。


そして、厨二病を通り越して腐女子化していることは知らなかった。


俺と千陽のボーイズラブ18禁ライトノベルがWEBで投稿されていたなんて知らされるのは、ずっとずっと後の事、滝音がその作品で商業化デビューしてから知る事になる。


なんて言う物を世に送り出してくれたんだよ!と、ツッコミをすることになる。



~二島千陽~


 リュウちゃん良い匂いしてたなぁ。


ちょっと酸っぱくそして、とんかつのように美味しそうな匂い。


抱き心地も脂肪がほどよく付いたお腹が気持ち良い。


私の胸より柔らかいかも。


舐めたらどんな味するんだろ?舐めたい。舐めたい・・・・・・。


私はお風呂に入りながら興奮して、そっと右手を股間に・・・・・・。


リュウちゃん、リュウちゃん、リュウちゃん・・・・・・。


欲望は恐い。私は押さえられなかった。


翌朝、スーピースーピーと寝息を立てているリュウちゃんの部屋に入る。


寝顔は可愛らしく、その唇はいつでも食べられそうな。

だけど、リュウちゃんは約束を守れない友達は友達と呼ばない。


昔はそうだった。


今でもきっとそうなんだろう。


『三つ子の魂百まで』と言われるが、まったく変わらないリュウちゃんが目の前で寝ている。


唇を強引に奪ったとき、私は親友と言ってもらえなくなる。


それは今の私にとってどれだけ辛いことか。なら、首の味だけを。


吸血鬼なったわけではないが、見える首筋をどうしても味わってみたい。


衝動が止められない。ごめんねリュウちゃん・・・・・・。


ペロリと舐めると体が熱くなった。たった一舐めなのに。


私を興奮させる薬でも塗ってあるの?


媚薬でも?リュウちゃんフェロモン?


もう一度舐める。


食べたい吸いたい囓りたい。


抱きたい抱かれたい抱きしめたい。


欲望の暴走族になっている私。


服も下着も脱ぎ捨てリュウちゃんのベットに静かに入り、私はオナニーをした。


リュウちゃんとの約束は絶対。


リュウちゃんに変な事はしない。


だから、匂いだけで。


絶頂に達してしばらくして、リュウちゃんは目を覚ました。


「おはよ」


「うっうん、おはよって、千陽何してるんだよ」


「リュウちゃんの匂い嗅ぎながらオナニーを一発」


「なわっ、んなこと堂々と言うなバカ」


「約束通り何もしてないからね」


そう言うとリュウちゃんはパジャマを確かめ慌てる姿が可愛かった。


「で、お前は裸か?」


「うん、学校行くのにビショビショになっちゃったから見る?朝立ちのおかずにする?」


「するか、バカ、着替えるから部屋から出て行け」


ぷんすかと怒りながらも朝食を済ませると、いつも通りに戻っていた。


スパスパと切り替えが早いリュウちゃん、そんな所も変わらなくて好き。


~二島千陽祖父と袋田龍輝の母~


「袋田さん、お邪魔しますよ」


「あら、こんにちは、千陽ちゃん帰ってきて良かったですね」


「孫が近くにいるってやっぱり良いもんやのぉ、米や野菜も孫が食べると思うと作りがいがあるってもんだ、それで、千陽がこちらでちょくちょくご飯をいただいてるって聞いたんでね、俺の作った物で悪いんだが、貰ってくれ」


「まぁ~こんなに貰って良いんですか?」


「んだ、将来の跡取りの家さだもん、いくらでもあげっぺよ」


「うちとしては、永久就職先仮決定で嬉しいくらいなのに」


「千陽、帰ってきたばかりの時は暗い顔してたのに、今じゃ~笑顔でリュウちゃんのことばかり話してるかんね。千陽にはやっぱリュウちゃんが必要なんだっぺよ」


「あら、それを言うならうちだって友達いなかったのに千陽ちゃんが帰ってきてくれたおかげで、楽しそうに学校行ってるし、少し家が賑やかになって楽しいですわよ」


「若い人達が言うウィンウィンだっぺかな?まぁ~米や野菜はちょくちょく持ってくっから買わねぇで俺に言ってくれな、んじゃまた」


「はい、こちらこそありがとうございます。かえってどうも~」


俺の知らないところで何かが決まっていたのはずっと後になって知る。


~袋田龍輝~

 俺は目覚める前、暖かな夢を見ていた。


とても気持ちが良い夢。安心する夢。


そしてエッチな夢。


このまま見続ければ、きっとパンツはヌルヌルに・・・・・・。


夢精をしてしまうだろう。気合いで起きなければ。


夢と現実の狭間のギリギリの夢。


起きようとすればきっと起きられる、寝続けようとすればそのまままた深い眠りという深海に落ちる。


今は眠りが極度に浅瀬に来ている瞬間。


気合いでなんとか目を開けると、裸の千陽が横に寝て息を荒くして絶頂を迎えていた。


ビクンビクンと体を震えさせて


「ハァハァハァハァ、おハァハァハァハァ、おはようハァハァハァハァ」


俺、犯されてはいない。服はちゃんと来ている。唇にも違和感はない。


気持ち良かったのは服の上から触られていたと言うことなのか?


問い詰めたいが気持ち良かったのは真実。


気持ち良かった。心地よかった。悪い気持ちではない。


怒るに怒れない。今日は許すか。何日も続いてエスカレートするようなら怒ろう。


本当に普通のハグだけなら良いのに。


「千陽、朝っぱらから人の布団でなにやってんだよ」


「勿論、オナニー。本当はリュウちゃんと一つになりたいんだけどね」


「最近読んだラノベで主人公の寝ているうちに、手を借りてオナニーする妹物語読んだけど真似してないだろうな?」


「あっ、その手があったか」


「やめろよな」


「ねぇねぇ、そのライトノベル貸して」

「うっ、絶対ヒロインの真似しないって約束するなら」


「ん?」


「そのヒロイン妹はお兄ちゃんの部屋に監視カメラを何十台も取り付けるような変態なんだよ」


「うわ~流石にそこまでは、だって会いたくなったら入ってくるし」


そう言いながら着替えを済ませて鞄から鍵を取り出す。


「おばさんに貰っちゃった。いつでも使いなさいって、家族と一緒なんだからだって」


「母さん、何考えてんだか。それより、千陽、俺、シーツをセットするの苦手なんだから、洗ってセットしてくれよな。後始末ちゃんと頼むぞ」


「結構濡らしちゃったもんね」


千陽はいそいそとシーツを剥がし取ると洗濯機に持って行った。


もう当たり前のように千陽と朝食を食べ登校する。


学校に着き授業が始まる前にトイレに入ると、またしても美少女が小便をしていた。


ここは男トイレだ。俺は間違っていない。便器もちゃんと男用。


俺が謝って逃げる場所ではない。俺が入って良い場所、隣に並んで小便をしようとすると、


「おはよう、リュウちゃん・・・・・・あっ、ごめん。袋田君。袋田君は逃げないんだね」


か細い声で空耳のごとく聞こえた。


「え?」


振り向くと、その美少女は手を洗って出て行った。


どういう仕組みで美少女は立ちションをしたのだろうか?


なにか、補助器具を使うのだろうか?それとも、腹筋?穴筋肉?を鍛えていて勢いよく飛ばせるのだろうか?勝手な妄想だが、女子が立ちションをすると、足に伝わってズボンがエラいこっちゃになりそうだけど。


千陽に聞いてみるか?風呂では嫌がっていたが千陽に言えば対抗心を燃やして、見せてやる!と言い出すだろう。


百聞は一見にしかず?んな言葉があるから、見ては見たいが、責任を取らないとならなくなりそうだな。


千陽には黙っておくか。


だが、次会ったら今の立ちション美少女にはちゃんと言っておかないと。


男子便所に美少女が入るなど、ライオンの檻に肉を巻いて入るようなものだと忠告しておかないと、始まったばかりの学校で大事件が起きそうだし。


新聞沙汰と言うより、ネットニュース沙汰になったら平和な学校生活は社会から批難の眼差しで見られてしまうだろう。


今やネットニュースは生涯残るデータ、検索すればすぐに記事は出てくる。


一生涯、レイプ事件が起きた●●学校出身のレッテルは付いて回ってしまう。


そんなことは流石に阻止しなくては。


そう考えながら体育の授業に校庭に出ると、その美少女は当たり前に並んで、すぐ後ろの列にいた。


はい?首をひねった所に声が届く。


「僕と組んで貰って良いかな、リュウちゃん・・・・・・あっまた言っちゃった。袋田君」


なぜか俺を知っている風な呼び方を交える美少女と見間違う風体の男性用短パンに真っ平らな胸の1組の子が声を掛けてくれた。


今日の体育は男女別授業、一組二組合同で体育の授業。


男がサッカーで女がバレー、単純にキャパシティオーバーの為、分かれて行う。


俺に声を掛けてきたのは、幻だと思いたかった立ちションをしていた美少女だった。

やっぱり男か?男の娘ってやつか。


美しすぎる男の娘、良くツイッターで見かけるれど、あの人達は可愛い過ぎるって。


この男の娘もツイッターに載せたらきっとバズるだろう。


フォロワー数10万なんてあっという間になりそう。


いや、もうそう言う投稿しているかもしれない。


千陽がイケメン美少女なら、こいつは美少女男の娘だな。


声を掛けてきたのも、その類い?それとも本当に女の子になりたい心身が一致しない子?


だが、それだって『普通』と言えば『普通』、なんら差別して距離を取る相手ではない。


むしろ、ぼっちの俺に声を掛けてきてくれたことはありがたい存在で嬉しい。


ちょっと千陽の顔が頭をよぎるが、別に浮気とかではない。


付き合っているわけでもないし。


「おっ、おう、良いぞ」


好きに二人一組になって準備運動をしろとかって指示する教師は無能。


隣の生徒と組んで準備運動をしろって指示する体育教師の方が、龍輝的にポイントは高いぞ。


勝手に今までの体育教師を俺はそう評価してきた。


「みんな、なんか嫌がるんだよね」


「可愛いからか?」


「僕、男だからね」


声変わりをしていないそのウィーン少年合唱団にでも入れそうな澄んだ声で怒られる。


プクッと膨らました顔が益々可愛い。


だが、男だ。


「わかってるって、立ちション見たし」


「普通におしっこしていただけだよ。でも、みんな逃げていくんだよね、隣でしようとする人なんて珍しいよ。公共のトイレでなんて、見知らぬおじさんに怒られたりするんだから」


寂しげに言う美少女男は、隣でする緊張をわかっていないのだろう。


隣で美少女に見間違う男がオシッコをしていたら男は大概覗きたくなるし、緊張で出す物も出せなくなるだろう。


少年名探偵出番なかったな。立ちション美少女は男だったよ。


校内レイプ事件も問題なく回避だよ。


一緒に組んで柔軟体操をすると意外に筋肉質、きっと脱いだら引き締まった筋肉美なのだろう。


いろいろ聞き出す必要な事もあるのだが、ストレッチを真面目にやらない生徒は校庭三周とか無能すぎる体育教師が言い出したため、無駄口をたたく余裕はなかった。


ストレッチを済ませてサッカーになると、その美少女にはボールが回されず寂しそうにしていた。

周りは遠慮しているのだろう。


回して良い物なのかと。


しかし、なんでこいつ俺の名前知っているんだ?ちょっと考え込んだ瞬間、俺の足下にボールが。


それを勢いよく前に蹴ると、ボールの先にはその男の娘、油断していたのか顔面に直撃して、そのまま後ろに倒れ込んでしまった。


「おっおい、大丈夫か?ごめんごめん、間違って蹴り上げちゃった」


走り寄ると意識はあり、顔の前で軽く左右に手のひらを振って、


「大丈夫、大丈夫、ボールこないんだろうなって油断していた僕が悪いから」


そう言うが、鼻からジワーっと血が流れ出た。


「あ~、鼻血出てるな。袋田、お前、保健室に連れてってやれ」


体育教師に言われたので肩を貸して起きあがせると、


「ごめん、僕が見てなかっただけなのに迷惑掛けちゃったね」


「おら、良いから鼻押さえてろ」


タオルで鼻を押さえさせて、ふらふらしている美少女男を左肩を貸して保健室に連れて行くと、丁度、体育の授業時間を終わらせる鐘がなった。


「ごめんね袋田君」


「良いって、どうせサッカーって言うか団体競技、嫌いだし、いや、体育その物が嫌いだし」


体育が嫌い、特にサッカー、野球、バスケ、バレー、単純に団体競技は嫌いだ。


個人競技のほうが、どれだけ良いか。


団体競技って言うのは、リア充がワイワイする競技だ。


ボッチの俺が混ざると調和を乱す。


「来月からはバトミントン、卓球、テニスが男女4人組で回るようになるって聞いたよ」


「まいったなぁ~そう言う組み分けも苦手なんだよなっとに、俺と組むやつなんて人数調整であぶれたやつだ、可愛そうに」


グループ分けも苦手。何で誰かと誰かを組ませようとするかね?学校は。


そう言う小さな事の積み重ねのストレスが引きこもりを作るって所に気がつこうよ。


ボッチに対する愛情をもう少し見せようよ。


みんながみんな仲良しごっこが出来るわけではないのに。


「大体、学校の体育授業って本当に必要なのかね?運動が好きな者は部活で汗を流せば良いと思うけど」


「ねぇ~良かったら僕と組んでくれないかな?」


両手の指を組んでジッと見つめる目は小動物のようで可愛かった。


「おっ、良いぞ、どうせボッチだ」


「あはははっ、胸を張って言うことかな?でも僕も似たようなものだから、約束だよ」


そう言って冷たい小指で俺の右手の小指を絡めてきた。


こりゃ~男が惚れてしまっても不思議でないぞ。


外見も美少女だが、所作も狙っているかのように可愛い。


「あれ、名前聞いてなかったな、俺は袋田龍輝」


「流石に名前くらいは覚えていると思ったんだけどな、僕、磐城広巳」


「聞いたことあるようなないような名前だな」


「そりゃそうだよ。幼稚園一緒だったし」


「え?そうなのか?」


「そっか、覚えてないんだ。うん、良いんだ。また友達になれるんだから」


「ごめんな。千陽の記憶がほぼ埋め尽くされていて。それに記憶がぽっかりと開いているみたいでな、本当にごめんな」


「あははっ、千陽ちゃん、見た見た。かっこよくなったよね、身長も僕も追い抜かれちゃったし」


「なっ、そう思うだろ?あいつイケメンだろ。だけど、千陽、良い匂いするんだよ。今朝も布団の中でめっちゃ良い匂いしていたんだよ」


あっ、どうも千陽のことになると油断してしまう。


磐城広巳は目をうつむかせ、顔を赤くして指をもじもじとしながら、


「僕はさっ、昔の千陽ちゃんと袋田君の仲を覚えているから気にならないけど、そう言う話はクラスではしない方が良いと思うよ」


口に手を当ててポッと頬を桜色に染めて言う。


「誤解するなよ。何にもしてないからな。あいつの悪戯、朝起こしに来たときの悪戯だからな」


「あはははっ、千陽ちゃん変わってないなぁ」


「良く覚えてるのか?」


「も~覚えていない方が可笑しいよ~僕たち四人組だったじゃん。ほら、時見ちゃんと一緒に」


「ときみ?名前聞いてもな・・・・・・駄目だ思い出せない」


思い出そうと過去の鍵のかかった過去の引き出しを必死に開けようと、考えていると次の授業の予鈴が鳴った。


「袋田君、もう良いよ。鼻血止まってから教室戻るね」


「おう、そうか?なら、先戻るからな」


保健の先生が留守だったので校内内線で職員室に電話をすると、保険の先生もすぐ来ると言う。


俺は磐城をベッドに寝かせ、保健室を後にした。


あいつと保健室に二人っきりは変な気分になりそうで危険だ。


保健室のベッドはイベント発生のフラグが立っている。


悪いが何か起きる前に退散を。


他のクラスメイトから遅れて教室に戻ると千陽が抱きついてくる。


勢いよく飛びかかる千陽は、飼い主に飛びかかってくる尻尾を振っている秋田犬のようだ。


「どこ行ってたんだよ」


「隣のクラスの子にサッカーボールぶつけてしまったから保健室連れて行ってた。ってか、あたかも当たり前のようにくっつくなよ」


制汗剤とふんわりと汗の香りとなにか出ている甘い体臭が脳を臨戦態勢に入れと刺激してくる。


ほんと良い匂いしやがるんだよ。


強引に離れて、


「なぁ~磐城広巳って知ってるか?」


念のため聞いてみると、


「ん?ひろみちゃん?幼稚園一緒の?」


「らしいな。一組にいるぞ」


「へぇ~俺は、トッキー見つけたんだ」


「朱鷺は新潟佐渡だろ?なんで茨城で朱鷺見つけるかな、大ニュースだよ」


「違う違う、リュウちゃん覚えてない?時見ちゃん」


「駄目だ。磐城にも言ったが、幼稚園の記憶など千陽しかない」


バシバシと背中を叩かれる。


千陽は顔を真っ赤にしていた。なりそうな気はしていた。


親戚の五月蠅いおばちゃんも、んなキャラいるよ。


「幼稚園から帰ると俺とばかり遊んでたからだよ」


「だろうな」


近所で同じ歳だったのは千陽くらいで、ほぼ毎日遊んでいた。


家が隣同士だったため、時間も気にしなくて済む。


夕飯が出来れば、どちらかの親が呼びに来る感じだった。


「トッキー後で紹介するよ。面白い子だよ」


「千陽に女友達か?良かったな。少し安心するぜ」


うん、俺の安心を返せ。


放課後、俺は教室の窓を開けて全生徒に叫びたかったよ。


なんだよ、このキャラクター濃いメンバーは!と。


「クックックックックックッ、汝か?我に会いたいと申す者は?くるしゅうない」


放課後、隣のクラスに千陽に無理矢理手を引かれ連れて行かれると、綺麗な顔に傷出来なくて良かったと言いたくなる磐城広巳と、その隣に変なのがいた。


小鳩ちゃん?那月先生具現化?


ゴスロリのふんわりした服に、無理矢理ブレザー?しかも、そのブレザーには黒いレースのフリフが付けられている。


間違いなく絶賛厨二病発症中ですよね?


こじらせて、慢性厨二病症候群になっていますよね?


尻まで長い強いウエーブがかった黒髪が面妖なオーラを出しているようだ。


ストレートにしたら地面に届くんじゃないか?


目はコンタクトで左右違う色をしている。


磐城広巳と並ぶと姉妹に見える。


磐城広巳は俺の泳ぐ目を見て察してあげてって苦笑いするなよ。


「なんだか幼稚園の時、友達だったらしいな」


「汝、だったらしいなとはどういうことだ?我との契約を覚えていないというのか?」


フリフリとした扇子まで出して口元を隠した。


「俺なんか約束したっけ?ってか、時見?も、俺の事覚えているのかよ?」


「覚えているぞ、漆黒の勇者よ」


「誰だよ、それ!」


「汝だ」


俺たちの空間が突如マグロの冷凍庫か?ひたちなか海浜公園にある南極体験極寒アトラクションみたいなのあったよな?そのくらい冷え込んだ。


今、遠足か?


寒さを出すのは名前に反して千陽の視線だった。


お前は暖かな日差しを千人に届けろよ。


「いたいいたいいたい、なんでつねるんだよ千陽」


俺の余っている脇腹の肉をつねる千陽、それを磐城広巳は憧れの眼差しで見ていた。


その視線はなにか間違っているぞ。


「良いなぁ~そうやって友達とじゃれ合うの。僕なかなか出来なくて」


そりゃ~お前がしたら、その男は前屈みになりそうだよ。勘違いして惚れちまうよ。


「クックックックックックッ我とするか?」


「女の子のお肉なんてつかめないよ~」


抵抗を見せる磐城広巳をよそに千陽はニンマリしてゴスロリ女子の脇腹をつまんだ。


「痛い、痛い、痛い、我、下僕の分際でなにをする」


「誰が下僕よ!」


千陽はその言葉でゴスロリ女子の後ろに回って胸をわしづかみにして揉む揉む揉む。


「この憎たらしいおっぱいお化けが、なんでこんなに成長した。俺にも半分よこせ」


ブレザーに隠された胸は大きいらしい、ゴクリ。


「こらなにをする、やめろ・・・・・・やめて・・・・・・だめっ、だめっ、駄目だよチーちゃん、これ以上はだめ、あっ」


「可愛い声で鳴きやがる」


ん???


「ん?な~んか名前だけ思い出してきたぞ?ミーか?なんか、俺はそんな風に呼んでいたお人形抱えた女の子いたよな?」


「そうだと言っておろうに!主の顔を見忘れおって」


「暴れん坊将軍ですか?って、その横にいつもいたヒロか?」


ゴスロリ女子ミーの言葉を借りるなら記憶の奥底に封印されし記憶が今、解き放たれる。


「なんだ、覚えてくれたんじゃん僕のこと」


「あんとき確か隣にいたのは丸坊主小僧だったような?」


お人形を抱えた物静かな女の子ミーと、そのおままごとに付き合わされていた丸坊主の男の子ヒロを思い出す。


「名前と外見くらいだぞ、覚えているのは」


「それでも僕のこと覚えていてくれて嬉しいよ」


女の子っぽく指を組んでうるうるした目で見るのやめて。


それを縄張りを侵され怒る秋田犬のように牙を見せて、うなり声を上げそうにキツい目で見ている千陽が恐い。


「我が勇者よ、よくぞ思い出した」


「なぁ~ずっとこうなのか?」


ヒロに聞くとうんうんと頷く。


「あっ、千陽、こいつが磐城広巳」


「うん、そりゃ~会話聞いてればわかるよ、変わってないよね~」


「変わってないのか?これで?俺の丸坊主ヒロから想像すると高校球児だがな、キャラクター性までは思い出せない」


ミーが息荒く腰砕けになっているのをヒロは見つめていた。


「チーちゃん、もう、やめてあげて、ミーちゃんお漏らししちゃうから」


「うっ・・・・・・それは冗談にならないから、千陽やめてあげろ」


ヒロのうるうるした目が、千陽が犯罪をしているかのように訴えていた。


それを俺も止めてやる。


教室でお漏らしなんて大惨事だからな。


おっぱい揉み揉みは同性同士ならセーフなのか?嫌がればアウトか?


「千陽ほどほどにしとけよ。ってか、電車逃すと一時間後になるから急いで帰るぞ、俺は相棒再放送見たいんだから」


「僕たちは家近いから、歩きだからまたね、リュウちゃん、チーちゃん」


「おう、これで来月からの体育グループも問題なさそうだな」


「だね、じゃ~また明日ね、リュウちゃん、チーちゃん」


ヒロが昔の俺の呼び方をして手を振っていた。


ミーは腰砕けで息を荒くして、床に座り込んでいた。


髪の合間から見える目はどこか艶っぽかった。


昔も俺たちが乗る登園バスを見送る2人、そんな光景を断片的に一枚の写真のように思い出す。


家から少し離れた幼稚園に通っていた俺たちはバスで登園。


その幼稚園には、スイミングスクールも併設されていたため、親がそこを選んだ。


結果的に家から離れた幼稚園のせいで入学時にはグループ形成からハブかれてしまう。


小学校で同じ幼稚園がいなく、そこからボッチ人生が始まっていくんだけど。


時は残酷、9年の空白。


きっと大人にとっての9年と、俺たちの9年は大きく違うんだろうな。


ヒロとミーそして千陽。


千陽のことは鮮明に覚えていたが、ヒロとミーの事は友達だったという事だけが思い出されて、なにかエピソードがあったとかが出てこない。


阿武隈山脈に沈む夕日を背にしていると、俺の前に立っている千陽が、


「な~に黄昏れてるのよ。らしくない」


「そうか?いつも、こんなんだぞ。千陽が帰ってくるまで一日中、家族以外と話さないなんて普通だった。だからよく景色を眺めていたさっ」


「そっか、なんかごめんってか、なんか悩んでいる目だったよ今。隠し事は寂しいな。俺に言えよ。夜のおかずか?わけてやるか?」


「千陽が言うとなんか意味深だな、おい」


「そりゃそうさ、脱ぎたてパステルカラーのシマシマパンツをプレゼントしようか?って言ってるんだから。体育の汗が染みこんだ一日履いた至極の一品のパンツだよ」


「電車で下ネタ禁止。っとに、なんなんだよ、至極の一品のパンツって。そんなことよりさっ、昔、仲良かったやつを覚えていないって覚えている方からしたら寂しいかなって。そう思っただけだよ。ちょっと失礼かなって」


「ヒロミちゃんとトッキーなら気にしていないって。俺の事は覚えてたけどね」


「覚えていたよ、男の親友をな。って、だったはずなのに、なんで女なんだろな?俺の記憶がおかしいのか?」


「そんなのリュウちゃんの記憶力が悪いだけなんじゃん。別に男だろうと女だろうと親友だろ?」


「あぁ、親友だ。ただし、変な事しなければな! って普通はお前が言う台詞だろ、ヒロインが『変な事したら口きいてあげないんだからね』ってツンデレを見せる場面だよ」


「あははっ、なにそれ?なんかのヒロイン?真似してあげるから、題名教えてよ」


大笑いをしたと思うと俺の背に沈みかけている夕日を遠くに見て、一言、


「普通ってなんだろうね。 普通の女の子なら今の台詞言うかもしれないけどね」


先ほどの大笑いは嘘のように目が死んだように落ちた瞬間に気がつく。


「ごめん。俺、普段使わないようにしている言葉なのに、なんでわかっている風に言ってしまったんだか、ごめん」


「脱ぎたてパンツ一枚で許す」


俺のデコに人差し指の爪が食い込むように突き刺してきて言う。


「ばーか」


いつものように返事をした。


夜一人でベッドの上で考えた。


『普通』この言葉って突き詰めると差別用語なんだよな。


『男らしく』『女らしく』『大人は大人らしく』『子供は子供らしく』などは差別用語として定着しては来ている。


なら、『普通らしく』だって差別ではないか?


男っぽい千陽、女っぽいヒロミ、厨二病発症中のミー、そしてオタクどっぷりなうえに派手好きな俺、『普通ではない』と言われれば少数派としての意味で『普通』ではないのだろうけど。


だが、『個性』だと言って『普通』だと受け入れられている社会になりつつある。


時代の変換期。


肌の色、髪の色、瞳の色、人種、国、種族、趣味、嗜好、思考。


みんな何かしら違うのに『普通じゃない』なんて目で見てしまうことがある。


それは人格の否定。文化の否定。


井の中の蛙の所業。


小さな小さな括りで整理整頓して、あいつは『普通』、こいつは『普通じゃない』、そう狭い心が選別したいのかもしれない。


最悪だな。


なんで使ってしまったかな。


ある人は言葉は心のナイフだと言う。


千陽を傷つける事になってないと良いけど。



~二島千陽~


 私だって『普通の女の子』を目指していたときだってある。


憧れ夢見て、雑誌を読んではまねてみた。


でも、根本的に何かが違うと感じた。


似合わないと言う単純な事ではなく、自分を偽っているようで不思議なモヤモヤに包まれた。


女の子ぽっい服を着て、髪を伸ばして、ちょっと化粧して。


そんな鏡に写った自分の姿はまるでコスプレをしている非現実的な世界が鏡の中に写っているのでは?と嫌悪感に近い物を感じた。


気持ち悪い。鏡に映った自分は偽物だと。


髪は切り、着たい動きやすい洋服をただ選んだ。


すると、どうしても男の子っぽくなってしまう。


でも、その姿を鏡で見ると本当の自分として安心した。


外見がそんな風だからって、別に女の子が好きというわけではない。


だからって男の子が好きなのか?そう聞かれると、ちゃんと返事が出来ない。


好きと言うくくりなら、きっと多くの誰かを入れられるだろう。


アイドル、俳優、スポーツ選手、歌の上手い若い男性歌手だって好きだが、それはお手本にしたい好きであって恋愛関係になれたらと夢思う好きとは違った。


だけど『愛』と言う言葉なら一人にはすぐに当てはまった。


ずっとずっとずっと会いたかった、リュウちゃん。 君だけなんだよ。


それにしても、あの時の四人か~、日本帰ってきて良かったなぁ。


リュウちゃんだけ約束覚えていないなんて何だよ。


やっぱ、あの日のせいなのかな。


私たち4人の事くらい覚えていろよな。


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