2.ニホンアマガエル(7)
「わあ、あきらくんのアマガエル、かわいいね」
ヒナの褒める声は、驚くあきらの肩の後ろから、覗き込むように届いた。
カラーペーパーに表示された緑のカエルを見る少女の目がキラキラしている。心底羨ましそうだった。
声の正体がわかると、少年はまたすぐに不機嫌なモードになる。あきらはヒナをちらりと見たが応じなかった。
代わりにあきらのカエルが、照れたように言った。
『へへ、ありがとう。ひなちゃんは、何をもらったんだい?』
「ヒナはお花。オシロイバナ、だって」
嬉しそうに笑い、手もとのカラーペーパーを開いて、2人に見せた。
緑の葉とラッパのような形をした花びらを持つ植物が、紙の上でくるくると回っていた。
『へぇ、赤色の紙に花か。女の子らしくて、いいね。そうだろ、あきらくん』
「……ああ、そうだね」
カエルにうながされて、あきらはしぶしぶ返事をした。
そんな浮かない様子の友達を見て、ヒナは何か言いたげな素振りを見せた。けれどいったんやめて、少し考えてから再度口を開く。
「ヒナ、ほんとうは、金とか銀の紙が欲しいの。なのに、いつもあの子たち2人が、先に取っちゃうでしょう?」
少女は腕を組んで、怒ったポーズを取った。
「だからこんど先生に言おうと思ってるの。私たちにも、ちょうだいって。もしもらえたら、あきらくんにもあげるね」
実際ひなにとっては、どんな色のカラーペーパーでも良かった。
けれどその台詞は、早熟な女の子が素直じゃないあきらの気持ちを考えて作り上げたもので、お姉さんらしい優しさにあふれていた。
ただ残念なことに、あきらにはひなの真心が通じていなかった。
「いらないよ。僕はあんな色の紙に、興味ないんだから」
あきらは立ち上がった。そして自分の色紙を持つこともせず、そこから立ち去っていった。
「あきらくん、また怒らせちゃた」
あきらのイロガミと共に取り残されたヒナが、ぽつりと言った。少女はどうしていいか分からず、とても悲しそうな顔をするしかなかった。
『馬鹿だな、本当は欲しいくせに……頑固なやつ』
主人に聞こえないよう、ぼそりとつぶやいた後、カエルは喉を膨らませ、コロロと鳴いた。
(2.ニホンアマガエル おわり)