2.ニホンアマガエル(6)
「クワガタだ!」
「カッコいい!」
「ひろくん、すごい!」
ほとんどの園児たちが集まっているのではないか? それぐらいの声のボリュームだった。そして聞こえてくるのは、称賛の声ばかり。
中心にいる、ひろくんと呼ばれた背の高い男の子は、とにかく得意げだった。その手には、金色に輝くカラーペーパーを持っている。
彼はサービス精神を発揮するのを忘れない。手に入れた映像を仲間の園児たちにみ見えるよう頭の上に掲げていた。
金色の紙の上には、かつて南の国に生息していた、金色に輝く美しい昆虫の映像が映し出されていた。
『オウゴンオニクワガタ。クワガタの仲間です。20XX年に地球上より絶滅』
さらにもうひとつ、別の黄色い歓声が聞こえてきた。気移りの早い子どもたちの目は、次に現れた男の子に注がれていた。
「大きい! それにキレイ!」
「タカくん! みんなに見せて」
太い腕と広い肩幅を持つ男の子が、集団の中心へと進み出た。
彼もカラーペーパーを持っていた。今度は銀色の紙だ。周りの子がますます大きな声をあげた。少年が太い腕を伸ばして、紙の上に浮かんでいる映像を差し出したからだ。
その昆虫はひときわ立派な成虫の体を持っていた。尾の付け根あたりに水色の筋があり、濃い体の色に映えとても美しかった。
『ヤンマの仲間、ギンヤンマ。トンボです。20XX年に絶滅種に指定』
クラスの大半の子供が集まるなか、あきらはぽつんとひとり、ロッカーのそばに座り込んで、その様子を表情無く見つめていた。
『あーあ、だから言ったのに。今回もあいつらに、いい色を取られちまった』
アマガエルの冷やかしに、あきらはもうそれ以上応戦しようとしなかった。
拍子抜けしたカエルは、四本の指のついた右の前足で、自分の目の回りを拭き始めた。
あきらとカエルのPAは気づかなかったが、背後から昼寝の時に声をかけた子が、ゆっくりと近づいて来ていた。
同じたいよう組の女の子のヒナだった。