2.ニホンアマガエル(5)
ところがこの誰もが幸せな世界のもと、ある子供が不機嫌な表情をしているだなんて、残念がら業界の大人にはひとりとして想像ができないだろう。
とにかく、あきらにとってはそんな便利な機能が、邪魔で邪魔で仕方がなかった。
自分でオフのスイッチを押せれば何でもないのに、大人たちはPAの操作を子供に許すことはなかった。
だからお願いしてるのにと、あきらが何度おもったことか。
マコ先生とのやり取りの結末は、いつも決まっている。
「……あ、電話! ごめーん、あきらくん、後でやっておくから!」
後でっていつ? 前回、そんな約束が交わされてから、もう余裕で1週間は経っているじゃないか。
おかげで、彼が手にとって遊ぶどの玩具にも、この憎たらしく皮肉好きなAIとのやり取りが付きまとった。
最近のあきらの機嫌はとても悪かった。特に今日はマコ先生が休みだったので、ぶつける先のない不満がいつもより心の中に溜まっていた。
思い出すと余計に腹がたってきた。あきらは再びカエルに向き直ると、精一杯いやそうな声を作って喋りかけた。
「きょうもカエル? どうせ緑色なら、たまにはカマキリとか出してみろよ」
『そいつは、無理だね』
アマガエルはぴしゃりと言った。
『説明ファイルに書いてあるだろ。カラーペーパーは、使う子供と紙の色の組み合わせで、出てくる生き物が決まるんだ。そんなに見たければ、違う色を選べよ。金とか銀はオススメだぜ』
「ふん」
PAの答えにはくやしいほど反論の余地がなかった。あきらは仕方なく鼻を鳴らしたあと、チラリと部屋の中央を見た。
それと同じぐらいのタイミングで、部屋の中央の方から、子供たちの歓声が上がった。