2.ニホンアマガエル(4)
言うまでもなく、近年の教育玩具のほとんどは標準でPA機能に対応していた。
一般的に子供は気に入ったおもちゃを見つけると、より念入りにそのひとつと遊びたがる。
ひとりで時間を過ごす事の多い保育園の子には、寂しさのせいか特にその傾向が強くあった。
遊び相手がぬいぐるみなら、子供はまず名前を付ける。昼間はその子とままごとをして遊び、寝る時は脇に置いて怖い夢を見た時にぎゅっと抱く。
ある子供の所では、本当は悪者であるロボットが、いつしか主人公よりも正義感を全面に出しヒーローをやっつけている。
またある所では、武装した戦闘機がまったくの無音で飛び、三姉妹のビニール人形を背に乗せて運ぶ優しいゆりかごになったりもする。
おもちゃと過ごす時間が長ければ長いほど、子どもたちは独自の遊び方を発見したり、自分とおもちゃだけの秘密の会話を楽しんだりするものだ。
そしてそれは、かけがえのない思い出になる。
「個々の子供が育てる遊び方の記憶」こそ、玩具自体の多彩な機能性よりも大事だというのが、今の教育玩具業界の通説になっていた。
その説を受けて誕生したもの、それこそがPAだった。
この画期的な電子の頭脳は、目に見えないぐらい小さく出来ていた。そのおかげで、瞬く間にあらゆる玩具に埋め込まれる事になった。
玩具が子供と会話できるのは昔からの事だが、さらにPAがあれば会話の記憶や子供が表した反応・表情など、あらゆるデータが蓄積され、経験値として積み上がる。
仮におもちゃがすり替わったとしても、子供の遊びの情報は雲の上で生きている。そのおかげで次のおもちゃに載せられたPAへと『記憶』を引き継ぐ事ができた。
だから新しいぬいぐるみを買ってきても、子供は寂しい思いをしない。両親は心配せずにおもちゃ売り場へ足を向けるようになり、玩具業界も売上への貢献を喜ぶのだ。