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2.ニホンアマガエル(2)


 あきらは静かに命令(コマンドワード)をつぶやいた。


 言葉は確かに届いたらしい。カラーペーパーが風もないのにふわりと揺れた。まもなく紙の中央に小さな波紋が現れた。波は四角い紙の角めがけて均等に広がり、端まで伝わって消えた。


 その変化のあと、カラーペーパーの中心に光の粒子(パーティクル)が浮かび上がった。星の形をした光子が最初は1つ、次に2つと増えていき、やがて人の目では数えられなくなった。くるくると回る星たちは渦を作り始め、まぶしく光りだした。


 この小さなショーが引き起こす光は、あきらの瞳や頬にも反射していた。けれど彼の表情に驚きや感動の兆しはなかった。


 ぐるぐる回る粒子の軌跡がひとつに重なり、いまやそれはこぶしぐらいの球体になっていた。丸い塊は意思を持つように変形しながら、何かを形作っていく。その行程が終わりに近づくにつれ、明るかった光は徐々に消え失せていった。


 ショーは終わった。そして先ほどまで何もなかったカラーペーパーの上に、黄緑色の物体の姿が浮かび上がっていた。


『ケロケロ』


 それ(・・)がけたたましく、鳴いた。


 あきらはうんざりとした様子で、その『生きていない生き物』を見て、ため息を漏らした。


『カラーペーパーの世界へようこそ』


 荘厳なファンファーレが鳴り響く。


『この映像および音声素材は、子供の未来を創造するマデル社がお届けします』


 空中に投影された生き物の姿が、水平にゆっくりと回り出した。あわせて大人の女性の声で生態の解説が始まった。


『ニホンアマガエル。20XX年に絶滅。大きさは2センチから4センチぐらい。オスよりもメスのほうが大きく……』


「すきっぷ」


 あきらが解説を途中でぶっきらぼうに遮った。女性の声が消えた。ゆっくりと回っていたカエルの映像は、あきらに背を向けて止まった。


 なにせ少年はその解説を聞き飽きていた――内容を暗記して言えてしまう程に。


 その時、不愉快そうな声が聞こえた。カラーペーパーからの方からだった。


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