1.カラーペーパー(2)
寝癖で大げさに跳ね上がった髪の一束が、頭頂部でフルフルと揺れる。
彼は大きな欠伸と伸びをして、不機嫌にまわりを見回した。彼を起こした原因の級友たちは、誰もいなかった。
つまらなさそうな顔のまま、彼はしばらくぼうっとしていた。
ふと入り口の引き戸がゆっくりと開いた。
まあるい頭と後頭部から伸びる一房の髪がセットになった、影。
「あきらくん?」
小さく高い声が訊いた。
「あきらくんは行かないの?」
女の子だ。優しくて心配そうで、そして少しつまらなさそうな声だった。
「からーぺーぱー、欲しいのなくなっちゃうよ?」
そう尋ねた後、声の主はちらっと視線をそらし、保育士と子供たちが集まっている奥の方を見つめる。彼女自身もその集団に加わりたいのだろう。けれど女の子は誘惑に打ち勝って、辛抱強くそこで足を留めていた。
「いらない」
あきらと呼ばれた男の子は、冷たく一言だけ言葉を返した。
そしてそれ以後の返事はもう無いのだと言う代わりに、ぱたりと布団の上に倒れ、動かなくなった。
にべのない言葉に、女の子はしゅんとして下を向いた。
「ヒナちゃーん」
保育士が女の子の名を呼んでいた。
幼女は小さな息を吐くと、もう子どもたちの取り合いが終わりかけている教室の奥へ、とぼとぼ歩いていった。
横になって憂鬱そうに目を閉じていた男の子。彼は眠っていはいなかった。
もぞもぞと手を動かし、ポケットの中に手を入れる。そこから色のついた紙片を取り出した。
寝転がりながら、持ち上げた紙を部屋のLEDランプの光に透かしてみる。
「新しいのなんて、いらないよ。僕にはまだこれがあるから」
そう独り言をつぶやく少年の顔は、言葉に反して暗く、どこかつまらなさそうだった。
(1.カラーペーパー おわり)