4.発表会(3)
発表会は、終盤を迎えていた。
「はーい、タカくんの作品でした。立派なトンボさんに、大きな空が描いてあって、とても素敵でしたねー」
男の子は拍手に送られ、満足げな表情を見せた。自分の椅子に帰る途中で、仲間の男の子たちに、ガッツポーズをして見せる。
「次は最後の発表者になります。あきらくんです。どうぞー」
保育士の呼び出しがあり、あきらが簡易的に作られた舞台袖から出てきた。親と先生、そして子供たちのまばらな拍手が鳴る。
あきらは練習したとおり一礼をすると、舞台の中央まで歩いてきた。手には丸めたカラーペーパーを持っていた。そこに描かれている内容を知っている同じ組の子供たちが、客席でクスクスと笑っている。
大半が冷たい視線を送る中で、ひとりだけヒナが不安そうな顔をしていた。だんだん見ているのが辛くなり、ついにはうつむいてしまった。
「では、あきらくんの作品を見てみましょう」
本当は子供本人に題名や工夫した点などの感想を言わせるのだが、司会の先生は事情を伝えられており、なるべく早めに終わらそうと進行を省略した。
「お題は『ニホンアマガエル』です!」
皆の態度が示すとおり、その発表は失望で終わるはずだった。
しかしあきらは、この会場の誰もが予想しない行動を取った。
彼はいきなりその場にしゃがみこんだ。正座の姿勢のまま、カラーペーパーを自分の前の床に置いて、前かがみになった。
そしてその紙を、おもむろに折りたたみ始めた。
親も子供も先生も、全員が固まった。司会すら声が出ない。何が始まって、どうなろうとしているのか、誰にも分からなかった。
すぐに各席でざわつきが始まり、混乱の度合いが皆の会話にあらわれる。
「あきら、何してるんだ?」
「おい! あんなに何回も紙を折って……からーぺーぱーが駄目になっちゃうぜ!」
「宿題を忘れたせいで、おかしくなったのか?」
「あきらくん、玩具を壊してまーす!」
「せんせー、おしっこー」
会場中で、困惑と疑惑とが入り乱れていた。
予想と違う騒ぎを聞き、顔を伏せていたヒナはぱっと顔をあげた。
「あきらくん……」
少女にもあきらの意図は全くわからなかった。けれど、舞台にいるあきらの顔は決して不貞腐れているわけでも、動揺しているわけでもない。
むしろここ最近見たことがないぐらい、真剣に見えた。




