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4.発表会(2)



 ヒナの後ろにはあきらが座っていた。


 もういちど、嘘であればいいと思い振り向いてみる。


 駄目だ。やっぱり変わらない。体育座りで膝に手を組むあきら。彼の揃ったつま先の前に置かれているのは彼の宿題のカラーペーパー。


 もちろん先生からもらった時と同じ薄い緑で、紙の色は変わっていない。しかし変わっていないのは、それだけでは無かった。


 カラーペーパーには地の色以外、まったく飾り付けられていなかった。宿題としては白紙の状態だったのだ。


 それなのに本人はまるで動じていない。そんなあきらの無関心な様子がますます、ヒナをドキドキさせる。


 ヒナはまるで自分が宿題を忘れた本人かのように、ぎゅっと手を握った。普段は優しいけれど、先生は怒ると怖かった。


 普段は優しい先生は怒ると怖かった。叱られながら、あきらがうつむく場面を想像すると、何だか心が苦しくなる。少女はその事態が起こることを本気で心配していた。


 そこまであきらを気にしてしまう理由を、ヒナはまだ理解していなかった。気づくにはもう少しかかるかもしれない。


 友達を心配する優しさと、小さな胸に芽生えていた幼い恋心のせいだと言うことに。


「あれ、あきらくんの……」


 恐れていたことがおきた! ヒナ以外の子が異変に気づいたのだ。


 おさげの子はまじまじとあきらのカラーペーパーを見つめた。


「せんせー、あきらくん宿題を忘れていまーす」


 本人は気づいていないが、どんな子供でも遠慮のない残酷さを持っているものだ。


 小さな悪魔はあきらの失態を先生だけでなく、大きな声で教室のみんなに暴露した。


「えー!」


 途端に騒ぎがおこった。あきらの周りに子供の輪ができ、口々に非難を始める。


「まじかよー」


「信じられないよねー。色塗るだけで、簡単なのに!」


 騒動の中心にいるあきらだったが、まるで動じた様子がない。そのまま膝の前で手をつなぎ、前の一点を見つめ、素知らぬ顔を続けていた。


 ついに大人がやってきて、子どもたちの騒動の輪に割って入った。男の保育士は手を振り、周りの子供達を手慣れた様子で解散させる。誰もいなくなったのを確認してから、あきらの前にしゃがんで肩に手を乗せ、小さな声で言った。


「なあ、あきらくん。大丈夫だよ。色や飾りがなくたって、言葉を言えば絵は出てくるんだから。動物の名前を言うだけでいいんだよ」


 慰めのつもだったのだろう。けれど先生はあきらに「宿題をやってきたの?」とは聞かず、決めつけでそう言っていた。


 僕はちゃんと宿題をやってきたよ、先生。


 あきらは声に出さず、胸の中で返事をかえした。


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