3.公園(6)
「私はもう誰も、そんな事に気づかないと思っていた。実をいうと、このカラーペーパーのアイディアを考えて、この世に送り出したのは私なんだ。技術者という職業でね。といっても坊やには、わからないよね」
老人は優しく、くしゃっとした顔で笑った。
「思いつきは僕のものだった。だけれど一人の力で作ったなんて自惚れていないよ。私の友達と一生懸命、毎日遅くまで働いて頑張ったのさ」
老人は白い物が混じったぱさぱさの髪の毛に指を通した。
「完成した時はね。未来を変える物を作ったと思った。本当に興奮したんだ。これこそ未来のおもちゃだってね……」
言葉が途切れた。
「会社の最後の承認が通って、いよいよこの紙が世に出ることが決まった。ところが世の中はうまくいかないもんだ。僕の作ったこの紙はね、遠くからやってきた外国のおじさんに、販売する権利を取り上げられてしまったんだ」
また老人の目が苦しそうになった。
「たしかにその後、カラーペーパーは世の中に出た。ちょっと違った形に変えられてね。玩具自体の評価に加え、PAを搭載した画期的な製品として広く普及していった。妙な気分だったよ。私が生んだ子供なのに、別な名前を付けられてデビューして、しかもその子が世界中で活躍しているのを、ただ見ているなんてね。息子がどれだけ認められて、讃えられても、私にとっては偽物が褒められている気分なんだ」
老人の長広舌に、あきらは目をパチパチさせた。ぎじゅつしゃ? しょうにん? はんばいするけんり?
「おじいさんの言っていること……よくわからないや」
あきらは大きな伸びをした。
「あのさ、ママとか保育園の先生に聞いたんだけど、おじいさんは何でからーぺーぱーを僕たちに配っているの? タダで……」
老人はそれを聞いて、少し寂しそうな表情になった。
「それはね……さっきは偽物だなんて言ったけれど、やっぱり子供を愛しているから、この紙をみんなに知って欲しいんだ。どんなに形を変えて遠くに行ったとしてもね。いつか坊やが大きなってパパになったらわかるかもね」
ゆっくりと節くれだった手を伸ばして、老人はあきらの頭を優しく撫でた。
「ふうん。よくわからないけど、おじいさんは子供がすきなんだね」
あきらは素直な感想を伝えた。
「はは、そうだね。君みたいな子供がいてくれて、私は嬉しいよ。だからお礼に教えてあげよう。ひとつはこの紙の本当の使い方さ」
「ほんとうの?」




