3.公園(5)
おじいさんは、きょとんとして黙ってしまった。やがて無言のまま、のろのろとカラーペーパーを鞄にしまう。両手を膝にのせ、ふるふると体を震わせ始めた。
この大人は具合が悪いのだろうか。あきらは少し心配になってきた。だがそんな園児の心配を跳ねのけるように、老人はいきなり皺だらけの手で膝を叩き、大声で笑い始めた。
「ははは! これは愉快だ!! PAが生意気で嫌いだなんて言う子を初めて見たよ! これはおかしい!」
あきらはキョトンとしていた。もしかして悪いのは体ではなく、頭の方だったのだろうか?
「あの子たちの性格と、口が悪いことについては、謝らねばならないね。あれには私のひねくれた性分が、少しだけ混ざっているんでね……」
老人の言葉はいちいちあきらには伝わらない。ヒヒヒと笑いの余韻を楽しんでいたおじいさんも、やがて落ち着いてきたようだ。大きな深呼吸をする。
「ふぅ。さてさて、少し息をさせてもらうよ……さあ、おじいさんに質問をさせてくれないか? 君はなぜカラーペーパーを欲しがらないのかな?」
「だってもう僕は持ってるし」
どうしてそんな事を聞いてくるのかわからなかった。目がよく見えないのかもしれない。あきらは自分の色紙を、老人の前にさし出した。
老人は目をこらして、その数枚を右から左に眺めた。
「ほうほう、でもありふれた色ばかりじゃないか。しかも、だいぶ古くなっているし」
「これでいいんだよ」
どうして老人がそんな事を言うのか理解できない。少年は愛おしそうにその紙の表面を指で撫でた。
「僕にはみんながピカピカの紙ばかり欲しがる理由が、良くわからないんだ。僕の持ってる色紙だって、とってもキレイなのに。それに――」
あきらは立ち上がって、再び自分の紙を空にかざしてみた。
「金とか銀の色紙はキレイだよ? でもキレイなのは新しくて、誰にも触られてない時だけ。あいつらは少しでも触るとシワになって、ピカピカ光る表面がグシャグシャになっちゃうでしょ?
でも僕の色紙は違うよ。何回折れても、よじれても、色はキレイなままなんだ。それに何だか古くなった方が、手でさわると気持ちよくって……だから僕は、この普通の色の紙が、すごく好きなんだ」
あきらはここが公園で、隣りに他人がいる事も忘れているようだった。そんな場所なのに、少年は心から自分の言葉をつぶやいていた。
老人もまるで、そこにいないかのように静かだった。年にして何倍も離れた子供の言うことを、押し黙って、噛みしめるように聞いていた。
あきらが自分の語りから戻った時、老人も口を開いた。
「なるほど、なるほど……」
深くうなずくと、老人は遠くを見て、再び語りだした。




