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第七章 学園のアイドル☆知ってた?彼女と僕を

   1


 美舞が瞬く間に脚光を浴びてから、一年が経過した。

 日菜子と共に難しい進級試験にも合格し、無事に二年生になった。

 余談だが、徳川学園高等部の進級テストは所属するクラブやアルバイト等で優秀な成績を示したり、目立った活躍をみせたり、とにかく、進級を決定する教師の興味を買えば良い。

 美舞と日菜子が、登校しながら話している。

 この二人は、実は学園にとって特別な二人だ。


「美舞は、高校女子空手大会で優勝して、日本一になったから、進級を許されて良かったわね」


 日菜子も高校女子空手大会に応援に行ったので、想い出に浸っていた。


「ひなちゃんは、マメに僕の事応援してくれて、本当にありがたいよ」


 日菜子の話もしないとフェアではないと思い、美舞は話題を変える。


「ひなちゃんは、別ルートだよね。徳川学園の家政の事ならナンバーワンになったのだもの。料理、洗濯、掃除、裁縫。エトセトラ……」


 ちょっと興奮気味の美舞も愛らしいのか、日菜子がくすりと笑う。


「それだけじゃないよ! 編み物も凄いよね。芸術を感じたよ。後、愛情。『日菜子の編み物ハイジちゃん福袋』をありがとうね! 大切にするよ、ずっと。ずっとだよ」


 美舞は、にこにこして両手を広げている。


「いや、いや、いや、いや」


 謙虚な日菜子だ。

 顔の前で右手を左右に振る。


「ひなちゃん、凄いよね。家事全般得意にしちゃって。僕は、羨ましいぞ」


 美舞は、いーって笑顔を作って日菜子に向けた。

 そして、放課後になると、二人は男子空手部に行く。

 空手部には新入生が入って賑やかになっていた。 


「三浦、上級生として一年生の指導をして行かなくてはならないぞ。しっかりやれ」


 先輩達の声が、美舞に刺さる。


「勘弁してくださいよ。僕は、今迄、人に教えた事がなかったんですよ。一年生なのだから、一緒に練習する事はあっても、誰かに指導する事なんて、おこがましいと思います」


 元々、美舞の闘い方は親から習った我流だ。

 人に教えられたものでもない。

 今迄、基本の型の練習は、自由な部活の方針で、そんなにはやっていない。

 だから、美舞は不安を感じている。

 目の前の新入生に馬鹿にされないか。

 後日、それは要らぬ心配だと分かるのだが、この時の美舞にとっては、重要な問題だった。


   2


 男子空手部で挨拶をした後、女子空手部の更衣室を借りて、美舞は道着に着替える。

 勿論、日菜子も一緒だ。


「ねえ、ひなちゃん。僕、一年生になめられないかなあ」


「何で?」


 芳川日菜子はずっと美舞と仲が良く、男子空手部のマネージャーで“守ってあげたいタイプ”の美少女だ。

 美舞と二人で“徳川学園のアイドル”と呼ばれている。

 美舞は、“守って欲しいアイドル”の様だ。


「だってさ、僕って、女なのに男子空手部員だし、小柄だし、弱そうだし、型破りだし……」


 何かぶちぶちと言う美舞に、日菜子が突っ込む。


「それで?」


 美舞のこうした面も日菜子は知っていた。


「だから、その」


 未だ、ぶちぶちと言っている。


「大丈夫よ。美舞はそういう面を実力でカバーして来たんだから。馬鹿にする奴には一撃食らわせれば良いのよ。そうすれば、女の子で小柄な所も型破りな所も全部認めざるを得なくなるんだから」


 手をパーにして美舞の背中は叩かれた。


「ひなちゃんって、結構過激な所あったんだね」


 あんぐりとして返信とさせていただきました。


「意外かな」


 日菜子の口を尖らせるおどけ方は、癖だ。


「まあね。だって、ひなちゃんは“守ってあげたい女の子ナンバーワン”だもの。僕なんか“守られたい女の子ナンバーワン”だもの。あはは……」


 乾いた笑いを重ねたのを日菜子は聞き逃さなかった。


「それって、自慢? それとも卑下してるの?」


 日菜子は優しく訊く。


「半分自慢で半分卑下かな。可愛いって言われるのは嬉しいんだけどね」


 美舞は小さいのでよく頭を撫でられる。

 日菜子にも又くしゃくしゃとやられてしまった。


「守られたいの?」


 念の為、訊いた。


「まさか。自分より弱い男には興味ないよ。僕が好きになるとしたら、僕より強い男じゃなくちゃ」


 至極の事だと、日菜子も頷く。


「美舞より強い男の子なんて、なかなかいないと思うけどな」


 それも又至極だろうと思われた。


「だからこそ、いい男だと思うよ」


 ぐっと美舞が力を入れる。


「そうかしらねえ。まあ、私も強い男の子の方が好きだな」


 さらりと日菜子も言ったが、美舞の言う強い男が、(つよ)さも兼ね備えていると言う意味だとは思わなかった。

 美舞は、暫く考える。


   3


「守られたいから? ひなちゃん」


「そうね。私の前で無様な格好を見せなければ良いわ。喧嘩に弱くても、何ものにも負けない気持ちを見せられれば、強いって事だと思うのよ、私は」


「うん。幾らやられても立ち上がろうとする。そんな姿を見せられる人だったら、喧嘩に弱くても良いよね」


 わくわくとして答えた。

 それも毅さであると思ったからだ。


「へえ、美舞もそんな風に考えてたんだ」


 日菜子には意外だった。


「僕もそうだよ」


 こちらも意外だ。


「じゃあ、新入生の中からそんな人が出て来るといいね」


「うん」


 美舞の冷や汗を日菜子は見つめていた。

 こうしてみると美舞も普通の女の子だ。

 友達とボーイフレンドの話もするし、芸能人の話もする。

 一緒に写真も撮るし、スマホも持っている。

 それでも美舞の特殊さは群を抜いていたが。

 入学式から数日間、校庭はクラブ勧誘で賑やかになった。

 文化部、運動部、応援団等様々なクラブが新入生を獲得するために躍起になる。

 美舞の所属する空手部は新入生歓迎大会と銘打って大会が開かれる事になっていた。

 昨年同様に、新入部員と二、三年生の空手部員がトーナメント方式で闘う。

 各々の実力を測ると共に、先輩としての威厳を示す目的もあった。

 先年は美舞が優勝したが、それは余りにも特殊で、普通は先輩側が優勝するらしい。


「よーし、今年は少し遊ばせて貰おうかな」


 手を組んで伸びをした。


「大丈夫なの。そんな事言って、美舞」


「そうだね。まあ、僕が本気を出してやろうと思う人はいないでしょう」


 美舞はおどけて言う。

 事実、今の空手部の先輩と同学年には美舞より強い者がいないと思われた。

 昨年、三年生に何人か美舞を満足させる者がいたが、それも卒業と共にいなくなってしまった。


「そうか。まあ、お手柔らかにね」


 日菜子は心配している。

 二人は、二、三言話した後、第一体育館へ入った。

 ここで、新入生歓迎大会が開かれるのだ。

 美舞は、この大会で新たな洗礼を受けるのか。

 新入生に陰りと光が見えた。

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