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第四章 美舞は女子高生☆乙女の武道をきわめたい

   1


 三浦美舞は既に十五歳。

 徳川(とくがわ)学園高等部一年生にもなる。

 美舞は、とびきりの美少女に成長していた。

 左の吸い込まれそうな黒い瞳に、右は父親譲りの海の様な碧眼と日独ハーフのせいか、ヘテロクロミアが目立つ。

 違和感を覚える者もあったが、元気なその性格に、概ね友好的だった。

 翠髪は美しさを失わないまま長く伸び、美舞は高く結い上げている。

 低身長で生まれ育ち、百三十五センチと小柄でウエストがキュッと細い。


「おはようー」


 元気よく登校した美舞に声を掛ける者がいた。


「おはよう、美舞」


「おはよう、ひなちゃん」


 芳川(よしかわ)日菜子(ひなこ)と入学式で仲良くなった。

 日菜子は、美舞よりは透き通る様ではないが、白い肌に、くりっとした黒い(まなこ)が映えている。

 細い黒髪は肩に触れない程の長さに綺麗に切り揃えられていた。

 背丈は百五十六センチでバストは結構ある。

 二人のクラス、D組の座席も近かったし、何とはなしに馬が合った。

 この美舞の入学した徳川学園は変わった学校で、入学試験が学術試験ではない。

 では何かというと、面接において各自の特技を披露し、水準以上であると認められれば合格が決まる。

 随分と風変わりなものだ。


   2


「入学できて、よかったね」


「僕も同意だよ」


 美舞は、試験を振り返っていた。

 あれは、一月のこと。

 先ず行われた一次の面接試験では、中等部の姿で凛々しく対応した。

 黒のセーラー服に赤いスカーフを結い、車ひだの細かいスカート姿だ。


「はい。では、百三十番、三浦美舞さん」


 二秒後に立ち上がる。


「はい」


 きびきびと試験官に答えた。

 幾つかの質問を受ける。


「当校への志望動機は何ですか?」


「はい。自由な校風です。自分もここで伸び伸びと格闘する力をつけたいと思ったからです」


 徳川学園は、希望すれば寮もあり、大きな学園都市に、学校や図書館や美術館等、様々な施設がある。

 まるで、ひとつの町の様だ。

 学園内では、普通の高校ではあり得ない事が行われていた。

 高校生が、弁護士、警察官、教師や医師等、色々な職業に就いている。

 当然、法に触れない部分だけではあるが、れっきとした仕事として、相応の単位を取得可能だ。

 各々の分野で卓越した才能を持つ者に、早い内から習練する機会を与え、優れた職業人をつくる事を目的としている。

 更には、一般に認められていない職業、例えばスパイや特殊工作員に忍者でも、各才能ありと認められた時は、学園から多大な援助が出る例もあった。

 個人を尊重する事に長けた学校は、世界中を探しても徳川学園しかないだろう。


「徳川学園の広い世界で、様々な人と出会い、友達を作りたいと思います。一生仲良くできる友達ができたら、本当に嬉しく思うからです」


 美舞は、びしっと答えた後、柔和に笑った。


「よろしいでしょう。いい心掛けだと思います」


 黒縁眼鏡から返答が来た。


「ありがとうございます」


 次に行われた二次の実技試験の時間が来た。


「よし。僕の着替も間に合った」


 美舞は、更衣室へ行っっていた。

 中学のセーラー服から、動き易い白い道着になり、表情も引き締まる。

 両親から習った護身術を披露した。


「はい。では、百三十番、三浦美舞さん」


「よろしくお願い致します」


 深く礼をする。

 腰を落として、構えた。


「はああー! はっはっはあー!」


 気合いを込めて演武を見せた。

 秘密だが、もう一つ特技がある。

 けれども、他の人に見せてはいけないと、マリアとウルフに厳しく管理された。


「百三十番、三浦美舞さん。武芸に長ける所あり」


 こうして、美舞はあっさりと入学を許された。


   3


 美舞も特化した徳川学園で、特別な事をしたいと入学したものだ。


「ねえ、ひなちゃん」


 入学式の後で、肩を寄せた。


「ん? なあに」


 日菜子は、隣へ振り向いた。


「僕、護身術で空手部に潜り込もうと思っているんだ。徳川学園の空手部は、高校空手界のみならず、実戦空手界でも屈指の強者揃いだしね」


「うん、そうなんだ」


 日菜子が相槌は、美舞を饒舌にする。


「僕は、自分の実力を試してみたいんだよ。今迄は、両親が稽古相手だった。けれども、他の実力者と闘ってみたいからなんだ」


「中々、興味深い話ね」


 日菜子が促すと、舌が止まらないようだ。


「稽古が閉鎖的だったから、僕が、どの位強いのか不明なんだ。高校一年生にもなれば、気になって当然だろう」


「そうなのかな。強さって比べて知りたいものなの」


 日菜子は武芸に縁がなかったものだから、質問位、許されるだろう。


「多少ね。だって、僕の両親は護身術として教えてくれたのであって、大会に出るために教えてくれた訳ではなかったしね」


   4


 振り返ってみても、何度か両親に大会に出る事を許可して貰おうとしていた。


「あのさ、徳川杯中等部って面白いバトル大会があるんだよね」


「美舞は、まだダメだよ」


 優しく諭すのは、いつもウルフだ。

 ゆっくりと口説く様に、未熟さを指摘され、許されなかった。


「ダーメ、ダメ、ダメ」


 只、ダメ出しをするのは、マリアだった。

 こんな事が繰り返されたものだ。


「一生、ダメなのかな。しかし、高等部に合格したら、思い切って話そう」


 美舞は、幾夜となく考えていた。


「はーい。ケーキが焼けました」


 まだ涼しい二月のことだった。

 自宅のリビングにて、ウルフのととのえたケーキパーティーが開かれようとしている。

 ケーキはウルフのお手製でとても美味しい筈だけれども、それが地獄だった。

 美舞は甘いものが好きではない。


「お腹が給食で一杯なんだ。申し訳ないけれども、レモンティーだけをいただいてもいいかな」


「遠慮はするなよ、美舞」


 暫く、歓談していた。

 美舞は、空気を破って立ち上がる。

 レモンティーをぐっと飲み干した。


「ね、徳川学園高等部に受かったよ! 空手部に入ってもいいかな」


 ウルフが、顎に剃り残した髭を触っていた。


「そう来ると思ったよ。な、マリア。どんぴしゃで、空手部」


 振られて、美舞のキラキラとした瞳を見つめ、マリアも流石に頷く。


「ええ」


「わかったよ。只、条件は守ってくれよな」


 ウルフは、マリアと良く考えた上で、既に話し合っていた。


「条件とは、護身術と一緒に教わった例の技は使わないという事だけだ」


「はい」


 背筋を伸ばしてきちんとお返事をした。


「その技は、普通の人には出来ない事だから、他人には見せてはいけないよ。小四の時、一度、痴漢退治に使った事があったけれども、その被害は散々たるものだったろう」


「はい、僕に違いありません。以来、力の絶大さを認識しつつ習練して来ました。いずれ使う時迄は、技に磨きをかけるのが筋だと思っています」


 他人に話すかの様に、美舞がギクシャクしている。


「ウオッホン。分かっていればよろしいよ。空手部でも、がんばってな」


 ウルフは、まだまだ可愛いと思った。

 美舞の新しいベージュのブレザー姿、箱ひだのスカートにピンクのリボンが乙女らしく似合っていて眩しい。

 こうして、美舞はこの学園で新たな一歩を踏み出す事になった。


   5


「ひなちゃん、空手部に行って来るよ」


 美舞は、ギラリとダンディーに笑う。


「そう来ましたか」


 日菜子は、ギラリと笑い返した。


「うん。女子高生になったら、男子空手部だよね!」


 美舞に二言はない。


「なーるほど。私もお邪魔致しますよ、男子空手部に」


 怯まない日菜子。


「え、そうなの?」


 ちょっと慌てる美舞に、日菜子が続く。


「美舞とは仲良くして行きたいし、興味がありますのよ。美舞を応援するよ」


 ニヤニヤしながら妄想を膨らませている様だ。


「でね、自分の事もする。本学園でできそうよ。私ね、羊飼いになりたいの。羊毛目的ね。羊でハイジよおー!」


「はあ。いいね、ハイジ! うん、いいよ。うん、がんばだね」


 日菜子の事も応援しないとフェアじゃない。

 美舞は思った。

 あれこれと話していたら、男子空手部もある部活の会館に着いた。

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