第十三章 彼氏風景☆弄らないで
1
翌朝、美舞と玲は一緒に登校した。
その途中、日菜子と合流し、三人で学校に向かう。
日菜子は美舞が玲と一緒にいる事に些か驚きはしたが、二人から理由を聞き、納得した。
「でも、美舞」
「何?」
小柄な美舞は日菜子を振り仰いだ。
「玲君って格好いいよね」
「そうだね」
社交辞令程度としか聞こえない。
「その上、強い」
「僕よりは弱いけどね」
負けじ心が激しいのは母親似かも知れない。
「美舞より強い人は少ないわよ」
「まあね」
ちょっと、両親に鼻っ柱を折られそうな発言であった。
「どう?」
日菜子の変な笑顔。
「何が?」
美舞は素っ頓狂だ。
「彼氏にしたら?」
「昨日会ったばっかりなんだけど!」
そりゃそうだとは日菜子も思って、てへっと頭に手を当てた。
「でも、美舞の護衛役なんでしょう。それなら、今の内にツバつけといた方がいいんじゃない」
「そんなに、焦らなくても……」
美舞は日菜子が色事に煩いので少々辟易している。
「あまーい。玲君ならモテモテよ」
「死語だね……」
美舞は切り捨てた。
「それはともかく、気合入れて行かなくちゃね」
「えー」
二人の会話の聞こえない所に玲はいたから、まさか会話の内容が自分の事だとは思っていなかった。
玲が二人の方をちらりと見た時、日菜子は微笑み、美舞は微かに赤面した。
その様子を不思議そうに眺めていた玲に、日菜子は近付き美舞の心配をよそに話し始めた。
2
「ねえ、玲君」
日菜子は小股でちょこちょこと動いた。
「何だい?」
不意に近付いて来た少女を玲は美舞の友達と言う分類にしか入れていない。
「美舞の事をどう思う?」
いきなりの図星な質問のつもりであった。
「うーん。とにかく凄いよ、彼女は。女にさせておくには勿体ない」
玲の正直な感想か、かわされてしまった。
「そうじゃなくって。女の子としてよ。可愛いでしょう、美舞」
両目を瞬いてみせる。
「そうだね」
美舞といい、玲といい、構造がシンプルなのだろうか。
「あれでも、学園内でも五指に入るわよ。勿論、私もね」
日菜子はしれっとする。
「凄い自信だね」
自信家は兵のみで結構と言うのが、玲の考えだ。
「美舞には自覚がないけどね。それでどう?」
お勧め度百二十パーセントの美舞は自慢の親友だ。
「そうだね。後、五年もすれば――」
しかして、美舞は好みのタイプだから、困ったもの。
いけしゃあしゃあと言えたものではない。
「今の内に手を付けて置かない?」
そんな深い意味はない。
女の子の噂話程度だった。
「でも、彼女は?」
その美舞自身の気持ちが心配なのは、思い遣りの表れだろう。
「美舞はああだから、なかなかね」
日菜子は溜息をつきながら美舞の方を見た。
そして再び玲の方を向くと玲の胸を拳で叩き、微笑みかける。
「まあ、頑張ってね。美舞はいい子だから」
「知ってるよ。まあ、これからどうなるかは神のみぞ知るところだろうな」
玲はそう言うと、美舞と並んで歩いて行った。
その後を日菜子が付いて行く。
玲の言葉が「深淵に臨んで薄氷を踏むが如し」であるとも知らずに。




