始まりの一歩
これがときめろの澪ちゃんの部屋なら。
2階の窓を開け、下を向く。
そこに、彼は居た。
私がずっと現実で会いたいと願っていた、付き合えるなら死んでもいいとさえ思っていた、彼が。
「ったく、いい加減俺が居なくても起きられるようになれよなー!」
呆れたような顔で、だけどどこか楽しそうに笑う彼は、やっぱり私の大好きな誠くんだ。
すごい、ちゃんと立体化してる。動いてる。というか私と同じ人間だ。絵じゃない。え、リアルだとすごい、数倍かっこいい、顔がいい、声もいい、あ、だめだ、頭変になる。
「まままま誠く……誠くん…」
「どもりすぎだろ!どーした?てか早く準備しろーー!置いてくぞーー!」
ああそうだ、澪ちゃんは朝が苦手でいつも誠くんに迎えにきてもらってて、週に1回攻略対象の澪ちゃんへの感情とか、デートスポットはここがオススメとかの情報をもらって…
って考えてる場合じゃない!
「あーー!ごめーーん!10分で用意するから待っててーーーー!」
澪ちゃんのお決まりの台詞を言いながら、慣れた動作で制服を着て顔を洗い、バタバタと玄関を飛び出す。漫画みたいに食パンをくわえながら。
「やっと来たかー、ほら、行くぞ!パン落とすなよ」
笑いながら、緩く握った拳で頭をこつんとされる。
ああ、もしかしたら私は転生したんじゃなく都合の良い夢を見ているのかもしれない。
現実の私は事故で昏睡しているだけなのかも。
でも、もうそれでも構わない。
ここより幸せな場所はない。だから私はこちらを現実にする。
パンをくわえたままだから、誠くんを見ながらこくりとうなずく。
それだけで、誠くんは少し顔を赤くした。
初めて異性から、それも好きな人から向けられる明確な好意に、私も顔が赤くなるのがわかった。
二人、並んで学校へと歩いていく。
なんだかふわふわして体が浮いているような、不思議な感覚がしていた。