望んでいた未来
言って、と言われても困る。とても困る。
あんな恥ずかしいこともう言える気がしない。
けど誠くんの正直な気持ちは聞きたい。けど無理。
ここは素直にそう伝えようそうしよう。
「無理、無理、無理!」
大事なことなので3回言ってみる。
「さっき言ってくれたじゃん!澪ならできるはずだ!」
そんなスポ根漫画のような台詞を言われましても!
「無理無理無理!」
「無理じゃない!」
「ムリムリだってば!ムリなの!」
「ムリじゃないんだって!」
無理ってどういう意味だったっけ、なんて考えるくらい連呼している。
お互いまったく譲る気がない。
お願いだから引いてくれ。
「……澪は、俺の気持ち聞きたくない?」
「うぅっ…」
そんな聞き方、ずるい。聞きたいに決まってる!
「じゃあ俺がさっきの台詞を真似するから、澪はそれに続いて言ってな!えーっと、誠くんは私の物語の王子様…」
「ギャーーーーー!!!わかった!!!言うからやめてお願い許して!!!」
大声を出して遮る。
もうご近所迷惑だとか何だとかは忘れてしまってる。
目の前の誠くんはにこにこと笑っていて、それを見て少し楽しい気持ちになる自分が悔しい。
というか、誠くんがこんなに意地悪なんて知らなかった!新発見!そんなところも好き!
「…言うから!約束は守ってね!」
「もちろん!」
大きく深呼吸。
というか、私どんなこと口走ったっけ?
興奮状態だったから記憶があやふやだ。あまり思い出したくないし。
えーっと、要は私の気持ちをそのまま言えばいいわけだから…
「私は誠くんが大好き!彼女にしてください!」
「! さ、さっきと全然台詞が違うぞ!」
「意味はいっしょだから良いでしょ!はい誠くんの番だよ!」
力技で押してやった。みたかこのやろう!!
誠くんはちょっと納得のいかない顔をしてるけど、観念したようにため息をついた。
真っ直ぐに私の目を見つめる。
「澪、さっきはごめんな。真剣な気持ちをぶつけてくれたのに、建前の返事なんかして」
「建前…?」
「そう。なんでだろうな、ガキの頃から漠然と頭の中にあったんだ。俺は澪を陰ながらサポートする役目で、恋愛対象になってはいけないって」
ときめろの役割と一致していることに驚きながら、話の続きを黙って聞く。
「しかも澪の周りにいる男がさ、全然フツーじゃないじゃん。すげーイケメンとか本物の王子様が混じってんだぞ?俺みたいな男が太刀打ちできるわけないって思うのは当たり前だよな」
…た、確かに。口に出しそうになって堪える。
今さらだけど、創作の世界だからこそ違和感なく存在できるキャラなんだよね。
学園のプリンスやらアッチ系の息子はまだしも、一国の王子がこんな普通の高校に来るわけがないし。
そう考えると、二次元ってなんて夢があるんだろう………あのつまらない現実からこっちの世界に来れて本当に良かった………。
…って、そんなことに思いを馳せていい場面ではない。
「…だから、気持ちに蓋をした。澪の恋を応援して、誰かの彼女になるところを見届けようって。そうしたら諦めもつくって、半分意地で…。どうせ叶わないんだから想ってもしょうがないなんて………はは、言えば言うほどカッコ悪ィな……」
「誠くん…」
「澪に告白されても、そんなわけないって。許されるわけないって思った。傷つくのが怖いから、逆に遠ざけようとして……」
「……」
「でも、澪に喝を入れられて自覚したよ。やっぱり、澪の隣にいるのは俺がいい。…すげー平凡な男だし、お姫様みたいな暮らしもさせてあげらんないかもしれないけどさ。澪が俺を王子様だって言ってくれたから」
誠くんが、私の手の甲に手の平を重ねて握った。
「澪」
「はい」
一瞬の静寂。
時が止まったみたいな感覚。
握られた手が温かくて、これは現実なんだって実感させてくれる。
「俺は澪が大好きだ」
夢じゃない。夢じゃない。
ずっと待ち望んでいた瞬間。
「今はまだ澪に釣り合うなんて思えないけど、いつか必ず澪の彼氏として胸を張れるような男になるよ。それをずっと隣で見ていてほしい」
そんなことない。もう充分かっこいいよ。
自慢の彼氏だよ。
私こそ誠くんに相応しい彼女になれるように頑張るから、これからもよろしくね。
……頭の中ではこれだけ喋ってるのに、まったく声になっていない。
さっきとは違う、幸せな涙が溢れて止まらない。
ただ、イエスの意思表示だけはしたくて、コクコクと頭を動かす。
誠くんの手が、私の後頭部に優しく添えられた。
額と額がくっつけられる。




