頭の中は大騒ぎ
家に帰る足取りは意外にもしっかりしている。
いつの間にか空は真っ暗になっていて、星がきらきらと輝いていた。
星に興味があるわけでもないけど、なんとなく見上げながら歩く。
興奮状態、なのかな。
なんとなくそわそわして、いてもたってもいられない気分。
早く誠くんに会いたい。なんなら今からでも。
でももう20時過ぎちゃってるもんなあ…ご飯もお風呂も済ませてゆっくりしている頃かな。
……湯上がりの誠くん……ゲーム中でも見たことないな。
色気が凄まじいんだろうな。
見た瞬間古典的に鼻血を吹いて倒れそう。
いや、むしろ今のテンションのままそんなシーン見たら押し倒してしまいそうだ。そこから先はどうしたらいいかわからないけど。ええ喪女ですとも。
…あんまりネガティブなのもよくないな。
こんなパーフェクト美少女に生まれ変わったのに。
このモテっぷりで喪女を名乗るのも、謙遜通り越して嫌味だ。
元喪女と名乗るべきだな、うん。
別に誰に言うわけでもないけどね。
思考が散らかって、頭の悪いことばかり考えている。
けれど頭を空っぽになんてできない。
3人から告白されて、1人振って、あと2人も断る予定で、そして今度は私自身が告白しようとしている。
もう邪魔が入らないように、誠くんの家に直接行くべきだろうか。それとも私の部屋に呼ぶ?部屋はピンクすぎるけど散らかってはいないから、呼んでも恥ずかしく……………いや恥ずかしいよ。なんだあのメルヘンな部屋………模様替えしようかな………。
やっぱり誠くんの部屋にお邪魔させてもらったほうが色々と良い気がするなあ。部屋も見たいし。
お付き合いが始まる場所が彼の部屋からなんて憧れのシチュエーションだし……
…なんてまた思考が逸れていく中、気付く。
気付いてしまった。
私は、一度も誠くんの口から私のことを好きだと聞いていないこと。
好きだという匂わせがあった…と私が思っているだけで、公式からも明言されてはいないこと。
無意識に足が止まった。
空を見上げたまま、放心する。
そうだ。私、誠くんに振られるなんて想定してない。
ずっと支えてくれて、ずっと優しかった誠くん。
それが、本当に幼馴染としてだったら?
他の男の子と付き合うように促してたのも、本心だったら?
私のことを異性として見ていなかったら?
振られた上に気まずくなって、この関係すら破綻してしまったら?
心臓が引き裂かれるような、そんな感覚がした。
この想いを否定される、想像だけでこんなにも辛い。
薬座先輩にも同じ気持ちを味わわせたんだ。そして池綿くんとミロくんにも、これから…。
またうじうじとした私に戻りかけて、考えを打ち消すように頭を振る。
私は誠くんが好きで、誠くんの気持ちはわからない。けれど、恋人になりたいと思ってる。だから私から告白する以外の選択はない。
それで最悪の結果になったとしても、私が勇気を出した結果なら仕方がない。
関係がこじれたって、また再構築したらいいんだ。悪くなった、終了!ではない!
生きている限り、いくらでも可能性はあるんだから。
誠くん以外の人の気持ちには応えられないから、池綿くんとミロくんには付き合えないと正直に断る。これも当然のこと。
返事を保留して私に縛りつける方がよっぽど残酷だ。
そう、誰も傷つけない選択なんてない。
気にしていたらキリがない。
進むしかないんだ。
ぶれかけた決意を固め、真っ直ぐ前を向く。
そして、しっかりとした足取りで再び家を目指した。




