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if 明治興亡記  作者: 高田 昇
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第六話:西南戦争(三)

四月七日 熊本城

 兒玉十三朗は出撃に際して、少尉以上の指揮官たちを集めて訓示を言い渡した。


 「今日に至るまで我が熊本鎮台は一カ月以上、日本最強の薩摩士族と戦い続けてきた。それは一重に諸君一同並びに、兵士達の賜物である!そして今、東京より賊徒討伐軍が駆け付け、薩摩軍と壮絶な戦いを繰り広げている!が、雌雄を決するまでにはいったておらん!この状況を打開するために我ら熊本鎮台は城から打って出て、討伐軍の救援に向かう!」


 訓示を聞いていた士官達は十三朗の『救援に向かう』という言葉に反応した。救援されるのは自分たちの方であり、討伐軍は薩摩軍に阻まれている状況は城内にいる全ての人間が知っていた。

 兒玉十三朗の訓示は続く。


 「なるほど。諸君等が不思議がるのも無理はない。我が鎮台は数で勝る数万の薩軍に包囲され、孤立無縁の状況だ。国民から見て我々は『来援を待つ弱き味方』と女々しく見られ、官軍本隊の活動を期待している。が、その官軍本隊は薩軍と一進一退を続けているのが現状だ。今こそ我が立ち上がり敵味方に我々の勇猛振りを見せ付けてやるのだ!

 なお、この決定は将校の無能無策によるものでも、背水の陣でも決してない。戊辰の戦を第一線に立ち戦ってきた指揮官等と、百二十の兵で官軍数万と互角以上に渡り合ったわしの指揮の下、貴官等に大勝利を与えてみせる!」


 そこにいた士官達は兒玉十三朗の迫力に魅せられた。兒玉十三朗は軍刀を抜き挙げ掲げ叫んだ。


 「勝利は我等の奮闘に有りだ!」


 士官達も自らの軍刀を抜き上に挙げ雄叫びを揚げた。


*****


 熊本鎮台の攻撃は歩兵第13連隊隷下砲兵小隊の砲撃から始まった。


 兒玉十三朗の作戦は、まず、砲撃で敵砲を沈黙させ、後に歩兵部隊を前進させ、味方砲の射程範囲内の一部占領、占領後、防御陣地を構築、薩軍の逆襲に備える。


 砲撃後、歩兵戦となる。最初はどちらも銃撃戦から始まり、しばらくして薩軍が抜刀白兵のため飛び出して来た。鎮台兵は銃やガトリングを浴びせ辺りを薩摩士族の屍の山を築かせ、血の川を流させるも出撃した鎮台側のガトリングは数挺しかなく、段々とその距離が縮まっていき、鎮台側もガトリング砲の援護下で白兵戦に移った。


 作戦遂行中に予想外の事態は起こるものだ。想定しうる事態に備え、第二、第三の策え十三朗は用意していたが、それでも、不安は消えずに『不測の事態』を気にしながらも十三朗は軍刀の一本片手持ち、誰よりも先頭にたって戦った。


 「連隊長殿!御一人での深入りは危険です!下がって下さい」薩摩士族との乱戦の中、兵等が兒玉十三朗の暴れ振りに不安を感じて、兒玉十三朗を囲むようにして自重を促した。


 「おぉ、それよりも、貴様等のそれは返り血か!?」兒玉十三朗は側に寄って来た兵士達に指を指して訪ねた。兵士達は返り血であると首を立てに振って応えた。


「そうか!」十三朗は笑顔で兵士等の肩を叩いた。


 もちろん、十三朗の顔も軍服も返り血で濡れ、真っ赤だ。軍刀はいつの間にか薩摩士族達が所持している刀に変わっていた。その刀の剣先から血が垂れて刃が所々で欠けている。


 辺りから悲鳴や銃声等が響き渡り、会話が聞き取りにくい中で兒玉十三朗は胸に息吸い込んで、周りの騒音に負けない程の声を出して叫んだ。


 「聞けや!鎮台兵!この戦!勝ったぞ!城にいる残りの三個大隊一千がやって来る!それまで一歩も退かず踏み止まって頑張れぇいぃ!!!」


 増援は嘘であるが、鎮台兵は『増援』と『勝ち』を信じて奮起し、薩軍には動揺が起きた。


 辺りにいた兵士達は目をキョトンとさせていた。


 「おい、貴様等、今わしが叫んだ事をそのまま辺りに言いふらせ!はよ行け!はよ!」


 鎮台と薩摩軍の乱戦は戦った者達にとっては長く続いたと感じているが実際は十分程で終わった。


 薩摩軍は退いた。辺りには両軍兵の屍が重ね合い様々な破片が散らばり、土は赤く染まっていた。


 兒玉十三朗は部隊を整えさせて後方陣地に引いた。


 後方陣地に着いて部隊の損害が思った程少なく、不測の事態も発生せず、思った以上に作戦の第一段階が達成された。


 「流石は、兒玉だ」と後方陣地で兒玉十三朗を迎えたのは同鎮台の川上操六少佐であった。


 「いよぉ、川上ぃ。全く、返り血と汗で着物がグチャグチャでいかんわ。はよに着替えんと風邪をひくわ。」十三朗は手拭いで顔に付いている返り血を拭き取りながら返事をした。


 「おはんはよく暴れもうしたなぁ、着物が全部真っ赤で、おいにはとても真似は出来なか。」川上はあきれ返るように、十三朗の軍服を見ながら言う。


 「ん、なぁに、兵達は皆わしと同じだ。それよっか、たいした陣地をこしょおた(作る)なぁ。わしが思った通りの出来栄えだわ。」と十三朗は陣地に潜り込んだが、彼の言う『陣地』とは『塹壕』のことを指す。


 見張り台、ガトリング砲が各方面を向き、相互に援護射撃ができ、通信機も備え付いている。二人は見張り台に上がり外を眺めた。


 「村上よぉ、わしゃぁ、薩軍を買いかぶり過ぎとったんかもしれん。」


 「うん?」


 「所詮薩摩士族は刀を持つだけの侍の集団にすぎん。先の戦で横たわっていたんわ、殆んどが薩軍だった。確かに向こうさんは刀にかけては強かった、しかし、切り合う前で、向こうさんは負けていた。殆んどが突っ込む前に銃撃で倒れた。」



 十三朗はここで間を挟んで、自身の身なりを整えてから話しの続きを話し始めた。


 「薩軍は弱いでいいが、その弱い薩軍にてこづり、多大な犠牲と物資、時間を費やす官軍本隊は更に弱い。何故か分かるか?将や兵に問題は無い。有るの士官の質だ。」


 「連隊長殿!」後ろから士官が現れた。


 「ん、どうした。」


 「谷閣下が御越しになりました。」


 「ん、分かった。」


 十三朗と川上はその場を後にした。


 熊本鎮台の出撃により戦争は大きな機転を迎えた。熊本鎮台はその後も進撃を続け、半月後には官軍本隊と合流を遂げた。その後の戦闘は敵軍掃倒に以降し、全ての戦いは六月二十八日をもって終結した。



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