表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
if 明治興亡記  作者: 高田 昇
6/83

第五話:西南戦争(二)

東京

 鹿児島逆徒追討軍が編成され鹿児島逆徒征討総督-総司令官であるが実際は大義名分上の飾り-に有栖川宮熾仁親王ありすがわのみやたるひとしんのうが、参軍-副司令官であるが事実上の最高指揮官-には陸軍から山県有朋中将、海軍から川村純義中将が任命された。隷下に


第1旅団


第2旅団


第3旅団


第4旅団


別動第1旅団


別動第2旅団


警視庁警視隊(別動第3旅団)


 別動第5旅団


警察官となった士族より臨時徴募巡査から成る新撰旅団と、総勢六万の大軍が順次鹿児島に向けて出動した。


九州 熊本

 一方、薩摩軍は大きな誤算をしていた。当初は熊本城を短期間に陥落させる予定であったが、政府軍兵士の抵抗は激しく、下手に攻撃させると一方的な損害を受け、薩摩軍は長期戦に持ち込み、主力による熊本城包囲網を敷くこととなった。


 熊本城にたてこもる政府軍の状況は以前と変わらず防戦一方であった。しかし、谷干城たにたてき少将、樺山資紀かばやますけのり中佐、兒玉十三朗少佐、児玉源太郎少佐、川村操六少佐、奥保鞏少佐等の指揮官、参謀指揮のもと善戦し続け、士気も衰えない。 


 中でも兒玉十三朗の活躍は華々しかった。毎夜自ら一個中隊を指揮して薩摩軍に夜襲をかけ物資を奪い、薬瓶に火薬を仕込ませた即席爆弾を投げつけ薩摩軍の陣地を燃やし暴れ、その結果、薩摩軍の将兵は無駄な警戒感を抱き疲労を溜まらせ、味方の将兵の士気を鼓舞させた。 


 二月二十四日、九州に到着し南下中の追討軍―熊本鎮台隷下がった歩兵第十四連隊もこの傘下に入る―は薩摩軍とが高瀬付近で戦い攻防の末にこれを破る。


 続いて三月一日、田原坂と吉次峠にて激突。政府軍は早期決着を謀るため軍を主力と別動隊に分け、主力の任務は田原坂・吉次峠の薩摩軍防衛線正面突破のため、別動隊は薩摩の援軍部隊の封じ込めであった。


 作戦は三月十一日に決行された。しかし、ガトリング砲を大量に支給されていた政府軍は地の利を利用して防衛線を張った薩摩軍を破る事が出来ず、銃撃と抜刀白兵に手を焼いた。 政府軍は正面突破を諦め田原坂の西側、横平山を占領してから田原坂・吉次峠の攻略に乗り出した。また、薩摩軍の抜刀白兵の対抗策として『毒をもって毒を制する』要領で政府軍内の士族出身者五十名からなる『抜刀隊』を組織して試験的に薩摩軍と交戦させたが、戦死十三名、負傷者三十六名に及んで敗退した。しかし、薩摩軍に対しての効果が実証され、三月十三日、新たに警視隊から剣術に優れた者達、九百名が選抜され『警視抜刀隊』が編制された。


 政府軍の再攻撃は一四日に行われ、警視抜刀隊は薩摩軍の抜刀白兵に有効に対処出来、彼等の中には旧幕府側の人間が大勢おり先の戊辰戦争での逆賊の汚名をそそぎ、今度は大義名分の下でかつての敵であった薩摩と戦えるのであって『戊辰の仇!』と叫んで切り込む者もいた。だが、意気込んで敵陣に深入りしすぎ全滅した部隊も続出した。しかし、薩摩軍の防衛線は依然と強固で、田原坂・吉次峠の防衛線突破は三月三十一日まで及んだ。


 また、田原坂攻略を前後して、各方面の薩摩軍の防衛線は突破されつつあり、戦局は政府軍側に傾きつつあるも戦争終結には程遠い道のりであった。


四月五日 熊本城

 熊本鎮台司令官谷干城少将を始め、参謀、主要部隊の指揮官が集まり今後の善後策を協議した。殆んどの将校は救援到着まで籠城戦継続を主張するも兒玉十三朗は出撃を主張した事で物議を呼んだ。特に兒玉源太郎との議論は今にも腰に吊した軍刀を抜いて切り合いになるか、良くて殴り合いを起こす具合で周りにいる者を困らせた。


 「薩軍主力をこの城に釘付けにする事で征討軍来援をもって挟撃をすれば良いと何度も言えば分かる!」

 兒玉源太郎は自分の席の正面に座る兒玉十三朗に指をさして籠城戦の有効性を訴えた。二人は年の差を問わない仲の良さは誰もが知っていたが、戦略戦術に関しては自分の主張を譲らず彼等の仲など無かったかの様であった。


 「確かに籠城戦は最もな策だが、それはあくまで戦術上の事であって戦略上役に立たん!遅かれ早かれ戦は我が方が勝つ。しかし、遅く勝ってはいかん!戦争が長引けば金の無い国家は疲弊する。この事態に列強が我が国に謀略を仕掛けてくる事も考えられる!それとも何か源太郎?貴様は前線で戦う事が恐っかねぇんか!」


 「なぁにぃ!?」

この言葉に兒玉源太郎は腹を立てて、椅子を蹴り飛ばし席から立ち上がり腰に吊した軍刀に手を伸ばそうとした。兒玉十三朗は兒玉源太郎を睨んだまま微動さにしない。兒玉源太郎は軍刀を抜こうとせずそのままの姿勢を保ち、少ししてから静かに席に着いた。


 「では、兒玉十三朗少佐は出撃を主張することは何か策があるのか?」

 十三朗に問掛けたのは谷少将だった。


 「はい、我が鎮台兵は四千弱であり、正面から一万の薩軍とぶつかれば負けます。そこでロシア式戦術をもって戦うのです」

と、十三朗は顔を谷に向けて『ロシア式戦術』について簡単に説明を始めた。


 「防御陣地を構成して前進して行くのです。戦闘になった際も我々は防御陣地で防戦、敵戦力を消耗させます。いざとなれば、後方陣地に撤退して防戦して同じことをします。かつて、ヨーロッパの大半を手中に納めたフランスのナポレオンもロシア遠征のさい、この戦術により敗れてその地位を失う原因にもなっています」


 「ふぅむ」

谷は腕を組んで考え込んだ。兒玉十三朗の考えは申し分ない。しかし、事が上手く行く保障はない。


 その後も議論は続いたが、結局は籠城戦派全てを兒玉十三朗は言い負かせてしまい、熊本鎮台は熊本城より出撃することとなってしまった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ