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if 明治興亡記  作者: 高田 昇
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第五十八話:得利寺の戦い

 普蘭店にまで前進していた第2軍は北上を開始する。しかし、その足取りは重いものであった。本土からの補給を受けたとはいえ、金州攻略以前の戦闘力を満たしてはいなかった。


 原因は幾つかある。一つは、日本から大陸へ物資を運ぶ輸送船の数が不足していた。開戦に伴い、日本中の海運業の船が軍に徴用された。だが、陸上における二つの戦線を両立させるだけでなく、新たな大部隊を送り出さねばならない。


 例えば、一個歩兵連隊の定員は約2,919名である。この連隊を一ヶ月以上戦闘能力を維持するために補充兵に武器・弾薬、食糧や被服、軍馬等々と膨大な人や物資を常に必要なる。また、砲兵ならば何万発の砲弾、騎兵ならば軍馬用の物資も必要となる。


 更には、海上補給路に神出鬼没するロシア海軍ウラジオストク艦隊が日本の輸送船を脅かした。連合艦隊第2艦隊が対応に当たっているが、今だに成果は上がっていない。こうした都合のため、第2軍の補給が完全に整うまでに相当な時間を必要とした。


 そして、前線のロシア軍の動向であった。ロシア満州軍総司令官のクロパトキン大将は、隷下のシベリア第1軍団を遼東半島へ南下させ、その先遣部隊が秋山支隊と曲家店で交戦している。


 第2軍は、満州平野への道を切り開くために目の前の敵を倒す必要があった。しかし、このロシア軍への攻勢計画は、軍司令官の奥大将の独断出はない。


 「ロシア軍が仕掛けて来る前に攻撃をかけろ」


 と、東京の大本営は現地の野戦軍よりも前線からの情報に敏感に反応していた。参謀総長の山県有朋も奥に催促を入れる。


 第2軍の補給を十分に蓄えてから北進を開始する奥の戦略は、ロシア軍の同行よりも味方からの圧力により不本意な作戦行動を起こさねばならなかったのだ。


 秋山支隊は、5月30日から半月の間、曲家店に陣営を構えて得利寺のロシア軍と対峙していた。幾度かの小競り合いはあったものの、目立つほどの衝突は無く、膠着したままだった。そこへ到着した第2軍が戦闘に加わり、布陣が大きく動いた。


 曲家店に第3師団が展開し、その左翼に第5師団と第4師団が右翼を秋山支隊が布陣した。対峙するのが東部シベリア狙撃兵第1師団と第9師団、1個混成旅団だ。


 千山山脈の山中にある得利寺周辺の地形は隘路あいろとなっており、一部を除き殆どの部隊も山岳戦を余儀なくされた。そのため、部隊の軌道が複数個所での大部隊同士にによる会敵が発生することがなかった。


 第3師団と秋山支隊の中間には龍王廟高地とよばれる丘陵が聳えており、そこにロシア軍砲兵部隊が高所から日本軍の行く手を阻んでいる。


 これに挑んだのが第2軍師団隷下の各野砲兵連隊で、多方面から半日掛かりで攻撃を加えた。日露砲兵の戦力比が二対一だったことに加え、金州攻略で一大砲撃戦を繰り広げた後だけに、日本軍砲兵はロシア軍陣地に着実に砲弾を命中させていく。


 午後には龍王廟高地に日本軍の観測所を設けられた。更には、放棄された敵の野砲も用いられ、前線のロシア軍は日本軍砲兵によって損害を被った。


 砲兵の沈黙と前線の崩壊は、日本軍の攻勢を促した。師団長達は好機を見逃さず、軍司令部の命令を待たず攻撃命令を出したのだ。戦闘に先立ち、予め各師団長は自分達の担当地区を振り分けられ、どの師団がどの方面の攻略を受け持つのか。


 ロシア軍は戦局悪しと見るや、たちどころに部隊を熊岳城まで撤退させた。日本軍が得利寺に入った時には、得利寺駅は焼かれ使用不能となっていた。日本の軍事利用の阻止するためであるが、孤立した旅順要塞への輸送はおろか、救援さえ不可能となった。

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