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if 明治興亡記  作者: 高田 昇
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第五十四話:竜王廟の戦い

 ロシア軍は、秋山支隊の追撃から遠くへは去っていなかった。田家屯から数キロ離れた竜王廟に待ち受けていた。ここに主力を置いて防御線を張っていたのは理由があった。現在地から更に離れた場所に花紅溝と呼ばれる高地がある。そこにロシア軍の砲兵一個中隊が布陣していた。


 暫くして、日本軍が現れた。再び激しい銃撃戦となり、後続の部隊も到着し日本兵の数が増えていった。ロシア砲兵が砲撃を始めたのは、日本軍の機関砲部隊も戦闘に加わり出した時だった。


 頭上から砲弾が降り注ぐ。ピンポイントで日本軍部隊のど真中に着弾しなかったものの、前線部隊は被害を受けた。


 「どこから撃っている?」


 と、秋山好古は馬を止めて近くの者に尋ねた。少しして、地図を持った士官が花紅溝の高地を指差した。秋山支隊にも砲兵一個中隊はあったが、ロシア砲兵に対抗するには時間的にも地理的にも困難だった。


 ロシア軍の砲撃は日本軍に猛威を振るい続けた。苦境に立たされた日本軍に対してロシア軍の士気は高まった。砲撃は二十分程で止み、竜王廟の南部は滅茶苦茶に破壊された。


 次に来るのが歩兵による突撃だ。ロシア軍から『突撃』の信号らっぱが鳴り渡る。すると、前面から歩兵二個中隊ほどが現れた。


 彼らを見た日本側の士官たちは、ロシア兵は日本軍を過小評価しているのか、あるいは指揮官は慎重なのかと考えた。ともかく秋山支隊の死傷者は百名を超えていたが、それでも兵士たちは残った遮蔽物に身を隠し、敵方に銃を構えていた。


 撃て。と、号令が出た。誰もがロシア兵に向けて引き金を引き、銃や機関砲の弾丸が敵兵に浴びせられた。先頭の兵隊はバタバタとなぎ倒され、生き残った者は咄嗟に遮蔽物に逃げ込んだ。


 更に、ロシア軍の防御陣地には三十一年式速射砲が撃ち込まれる。


 再び秋山支隊とロシア軍旅団の戦闘が激化した。銃弾や砲弾が宙を飛び交い、竜王廟の集落で被害を受けなかった安全な場所は無くなっていた。


 どの騎兵も徒歩兵となり戦う。華々しい騎兵戦とは程遠い近代兵器を用いた銃撃戦だ。だが、砲兵の攻撃は常に日本兵を窮地に立たせていた。


 好古はどんな時でも、一歩も引いてはならない。と、事ある毎に言うのみだ。その自身は、銃弾の届くところまで赴き、ブランデー入りの水筒を口に含みながら戦況を観察した。この時には、どの士官も自分達の仕事に手一杯となっており、誰もが旅団長を安全地域まで下げる者がいなかった。


 時刻が午後3時になった頃だった。ロシア側の砲撃がプツリと止み、前線でも銃声の音が少なくなってきた。


 「敵が後退していきます」


 と、ブランデーを飲む好古の下に伝令がやって来たことに、うん。と返事だけをした。ロシア軍は、秋山支隊より先に砲弾が尽きたために退却したのだ。


 追撃を、との進言に対して無用だと好古は言った。支隊の砲兵も弾薬が尽き掛けていた。


 以後、竜王廟を占領して一帯に簡易的な防御陣地を構築し、敵の逆襲に備えながら軍主力の到着を待った。秋山支隊は得利寺までの進路を確保したのだ。

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