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if 明治興亡記  作者: 高田 昇
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第五十話:攻撃続行

 総攻撃は午前8時から開始されたが、第2軍は悪戦苦闘を強いられていた。この表現を更に絞れば、最前線で敵の火力によって容赦なく倒されていく歩兵部隊だ。彼らの多くは二十代の若者たちである。敵の強力な火力の前に我が身を守る術もなく無数の凶弾に撃ち抜かれて倒される。


 南山攻略作戦で日本軍の犯した戦術的な失敗は、短期決戦でロシア軍守備隊と勝負を決めようとしたことだった。日清戦争の如く砲撃によって敵守備兵が怯んだ隙に大軍による強襲突撃で制圧を企てた。しかし、機関銃、鉄条網、地雷を組み合わせた防御陣地によって迅速な前進を阻まれ死傷者が続出した。


 帝国陸軍は創設から今日までの歴史は浅くとも日清戦役を経て急激な増強を遂げた。それでも戦歴や経験は列強には及ばない。砲兵力は日本軍がロシア軍を上回っていたが、陣地を人間もろとも粉微塵に破壊するには威力不足だった。敵陣地や要塞を有効に攻略するには戦車や航空機の登場を待たねばならなかったが、今は指揮官の采配しかない。


 軍司令官の奥保鞏(おくやすかた)大将は決断を強いられていた。正午になり前線は未だに決定的な戦果を出せなかった。全軍の犠牲者は二千名に達しようとしており、砲弾も三分の一を消費した。攻め続けるか、一時退却するか。第2軍司令部では意見が二分した。どちらにしろ南山攻略への見通しは無く、人的損失と弾薬の消耗は避けられなかった。しかし、奥の腹の内は固まっていた。


 「攻撃の続行あるのみ」


 と、司令部幕僚に告げた。なるほど、一時撤退をして部隊の再編と砲弾の補給を行い入念に作戦を練り直せば南山攻略は成功するかもしれない。だが、人的損失より戦略目標の達成を優先した。第2軍は速やかに朝鮮から北上する第1軍と合流し、満州平野にてロシア軍主力との決戦を強いられていた。ロシア本国からの増援され強化される前に撃滅するのが帝国陸軍の戦略である。


 前線の部隊の多くは食事を取る間もなく軍司令部の方針に不満を膨らませながらも従った。だが、突撃は砲撃の後と達せられた。


 「気球連隊による空中観測の後、再度攻撃を実施せよ」


  各師団には、気球による空中からの地上観測や砲撃の支援を主任務に気球連隊があった。金州の短期攻略を可能と判断した第2軍司令部の判断から部隊は攻撃作戦から外され北進の準備に取り掛かっていた。しかし、予想外の苦戦から部隊の展開に掛かり、ようやく準備が整った。


 師団気球連隊の気球が高度から南山の空中観測を実施した。陣地内に潜むロシア兵の部隊が丸見えだった。気球の乗員は敵陣地の座標を計算し、砲兵連隊に砲撃目標を指示した。


 砲撃が始まり歩兵部隊の突撃を阻んできた機関銃陣地に砲弾が降り注ぐ。鉄条網や地雷原にも砲弾が降り、散々と苦しめられたロシア軍の防御網は一気に弱体化していく。

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