正体
ガバッと出入り口の垂れ幕を開けて、横に並んだ二つ先にあるリルのテントへ急いだ。
「なにをしている!?」
俺が叫んで問うと、槍を持った男たちが一様に俺のほうを向く。
「なぜリルを狙う? アランさんの娘だと知らない――ってわけじゃ無さそうだな」
テントの陰から一人、肌の白い男が姿を現せた。
「むしろ私から問いたい。なぜ、どこで気付いた?」
アランさん――。
彼は槍を持っていないが、状況から見て実行犯と首謀者の関係性だろう。
「英雄様の勘ってやつだ。細かい違和感を見逃していたら命取りになるんでな」
「なるほど……」
「まさか実の娘を殺そうとするとは――。さすがに頭で考えたら予測できねえよ」
「それは『スキル』なのか、それとも本当にただの勘か……。興味深いことですね」
「勘だって言ってんだろ」
むしろスキルは邪魔をしていた。
恐ろしいことに、今も彼らの好感度は六十パーセント前後を保っているんだ。とてもじゃないが殺意を秘めた数値ではない。
どうしてこんなことになっているのか。
念のために、釘を刺す。
「リルに槍を向けるんじゃねえぞ」
「困りましたね。英雄の力もわからないことですし、なにより、そちらの小さなお嬢さん――。この状況で攻撃の機会をうかがうような目をしているということは、なにか方策があるということでしょう」
言葉を向けられて、マノンが応じる。
「リルを殺す前に、私があなたたちを――」
「殺す……と? それはおっかない話です。もし私が首を飛ばされたら、あなたの目を見て瞬きをしてあげましょう」
「どこから聞いていたの」
「伝え聞いただけですよ。あなたが人殺しはおろか、動物が絶命する瞬間にすら恐れをなしていた――と」
もう『東半島も同じ国で、敵じゃない』と言える状態ではないな。
いや、最初からそうだったということだ。
俺たちはずっと、敵陣の中心で泳がされていた。
「マノン。無理はするな」
俺は敵へ伝わらないよう、囁く。
「どうしてですか」
「マノンの魔法じゃリルも巻き添えだろ」
「お漏らしの感覚でどうにかします」
「そりゃ頼もしい。――だが、俺たちの出番はまだ先だ」
俺はスッと息を吸って、声を最大限にまで張った。
「サラッ、ドラゴンになれ!!」
ゲーム世界から召喚された彼女が寝ることはない。
後ろのテントが弾ける音が聞こえ、この世界に存在しないはずの超弩級モンスターが姿を現した。




