情熱と犯罪は紙一重になることもあるけれど、彼女は受け入れようとする。
テントの入り口手前で、左右に首を振って人の目が無いかを確認した。
…………よし、大丈夫だ。
「マノン、ちょっと来い。静かにしろよ」
「うぇ!? ちょっ、そこは私のテントでは――」
強引に腕を引っ張って、自分のテントへマノンを連れ込んだ。
「悪い、強引なことをして」
「い――いえ、それはその、別に」
ん? マノンの頬がものすっごい赤いぞ。
酒の匂いだけで酔っ払ってしまったのかな。
潤んだ目で俺を見詰め、妙に艶っぽい唇をゆっくり開いて、まるで愛の告白でもするかのようにマノンは語った。
「こ……子供じゃ無くなるのは、ちょっと怖い、です……。けれど。でも、ハヤトさんになら、私、なにをされても――――っ!」
まさかここで『あなたになら私、なにをされても良いわ!』みたいな憧れの台詞を聞かされるとは思わなかった。
さーて、なにをしてやろうか。あんなことやこんなこと、いっぱいできたらいいな…………。いかん。相手は十四歳のロリっこだ。
違う。
相手が誰であれ、今はそういう状況じゃない。
「勘違いしてるところを悪いんだが、盗撮魔法を使って欲しい」
「…………は?」
「できればリーフローバー村で見た、水晶占いの感じで頼む」
「――――おい」
「あと、できるだけ小さく表示してほしい。できれば、地面へ」
「おいっ」
「どうした」
説明を終えて顔を見遣ると、プルプルと眉を顰めて怒っているロリっこがいた。
彼女はキレる。
「可愛い女の子が性的な勘違いをしたのに、そうやってスルーするのが正しい大人なのですか!?」
「いや……、だってほら」
「だってじゃないですよ!? こっちは真剣だったのに。お酒の勢いで押し倒されたって文句を言わない覚悟をくくったのに!」
「声がデカい! 頼む、本当に周りに知られるとまずいんだ」
「犯罪だからですか!?」
「そうだけど違うんだ!」
真剣に伝えたからか、まだ納得を得ている表情ではないものの、マノンは手を団扇代わりにして軽く火照ったことを隠したいのかアピールしたいのかよくわからない仕草をする。
どうにか落ち着きを取り戻してから、「わかりましたよ……」と言ってくれた。
更に少しの間を置いて、静かに二の句を継ぐ。
「でも、小さく光の量を落として――というのは、難しいかもしれません」
「小さく使うほうが難しい……か」
大賢者や大魔法使いとでも呼べば良いのだろうか。魔力が強すぎて調整ができないなんて、彼女ならではの悩みだろう。
ここでクリアする手段が思いつけば良いのだが……。
「――――そういやマノンって、魔法を『使うぞ!』って感じで使ってるよな。詠唱していたこともあったし」
「そりゃまあ。魔法とはそういうものでしょう。イメージが大切なんですから」
「でも確か、国王が召喚術を使ってるときは、吸い取られるように魔力を使われたんだよな」
「ええ。その……」
「お漏らしみたいな感じで」
「ハッキリ言わないでください」
「その漏らす感じで使えば良いんじゃないのか?」
「ここで漏らせと!? 変態! 酔っ払うとクズな大人じゃないですか!」
なんでそこまで言って、こいつの好感度は微動だにしないのだろうか。
ひょっとして恋愛感情ってこういうもので、むしろ一度落ちたら底まで一瞬なのかな。女心と秋の空なんて言葉もあるぐらいだし。
その瞬間を想像するだけでも寒気がしてくる。恋はジェットコースターかよ。
「お漏らししろとは言ってないだろ。こう、漏らすような感覚で、だ」
「十分に変態チックじゃないですか! ――――……まあ、でも、顔が真剣だからいいです。やりますよ、お漏らし!」
なんだろう、この会話。
誰かに聞かれていたら誤解しかされないだろうな。
マノンは妙に色艶の乗った顔で魔法を行使しはじめ、ゆっくりと地面に黄金色の光を広げていった。
「おう、できてるぞ。漏れてる漏れてる!」
「漏れてる言うなぁぁぁぁぁっ!!」
静かに叫ぶとは、案外と器用な奴だな。
「で、映し出してほしい場所なんだが。――城下町に酒場があるのは知っているな?」
「美人の人妻店主がいるところですよね。ハヤトさんがこっそり出かけて通っているのを何度も透視しているので、もちろんです!」
俺にプライベートな時間は無いのか?
パティと言いマノンと言い、二重に見張られていたんじゃ何もできない。夜のお店でひゃっほーいもできない。
「酒場に行っているのにジュース一杯と水だけでやり過ごす姿は、中々に泣けるものがありましたよ。店主さんの困った顔が印象的でした」
「やめてくれ、マジで……」
「ああいう男性を哀愁が漂う人と呼ぶのでしょうか」
「違うと思うぞ」
「では愛執ならどうでしょう」
「どうでしょうって言われてもな……」
それも違うと思う。別に愛情とか恋愛じゃないし。
というかこいつ、絶対わかってて言っているよな……。本気で店主さんに愛執を抱いているように見えていたら、こんな風に軽口を叩けないだろうし。
――縦横三十センチあるかないかという光の中に、酒場の様子が描かれた。
店主さんは深夜近くになるといつも、休憩を取るために一旦仕事を抜けるらしい。
「今はまだ、いるな」
「そんなに店主さんが好きですか?」
「そういう意味じゃなくてだな……、あっ、動いたぞ。追ってくれ」
マノンは頬を膨らませて「ぶぅ……」と不満を表した。
リルに比べると厳しい奥さんになりそうだ。随分収まってきているけれど、ヤンデレ化までしたぐらいだから当然か。
商家で評判の美人店主は店の裏へ下がると、そのまま勝手口から外へ出た。
休憩ならば裏で取っても良いと思うのだが、さて。
「――ビンゴ、だな」
「誰でしょうか? 随分太った男性と会っていますね。それに取り巻き……でしょうか」
「平民にここまで太る余裕はない」
「では、貴族か王族と、その護衛でしょう」
さて、あとはこの男性の正体がわかれば良いのだが――。
どこかで見た覚えもある。最近ではないように思えるが、いつの話だろうか。
「マノン、取り巻きの中の一人――っ」
「あっ、どうしてゴルツさんが……?」
武術の名家、ミューレン家の当代であるゴルツさん。
彼の仕える相手は…………。
「いよいよ焦臭くなってきたぞ。――もういい、マノン。今度はこの場所を上からの視点で頼む」
「はいっ」
そして四つのテントを上空から見た映像が映し出された。
リルのテントの周りに、槍を持った男が三人、集結している。
――――テントの中は、墓場だ。




