表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/130

飲食代で通りませんか?

 いつの間にか夕刻。

 城に帰って、再び王座の間に入る。



「ちーっす」



 もう国王を敬う気はこれっぽっちもない。

 重い(とびら)(この)()(へい)に開けてもらい堂々と、そのまま王座の周りまで歩く。

 まあ、すでに先客がいるようだが。



「あなたは王族なのですから、この国に(とど)まれば良いんです」


「あんたこそ、一生小屋に引きこもっていれば良いのよ」



 (かの)(じよ)(たち)(いが)()っている理由がわからない。

 いや百歩(ゆず)って、日本での引きこもり生活を目標に(かか)げるマノンの事情を理解したとしよう。

 だがリルは、意地になって張り合う必要はないと思うのだが。


 (おれ)がどこか他人事のように二人を(なが)めていると、ドンッ、と鳴らして、国王が馬鹿でかい宝石付きの(つえ)を厚い(じゆう)(たん)()き下ろした。



(せい)(しゆく)に! リルは王族じゃろう。一国民を相手に()(ゆう)を失うでない」



 急に()(げん)を発揮して(こわ)()を低くした国王を、俺は目を半眼に細め、冷めた感情でジーッと見る。



「マノンちゃんも、ライフラインを止めるぞ!」


「……くっ」



 マノンの弱点はライフラインの停止か。

 確かに、引きこもることを前提としているならば――。仮に()()けた()(ほう)の才が国を(ほろ)ぼすレベルだとしても、滅ぼした後にライフラインを再開させるには多大な労力と()(せい)(はら)うことになりそうだ。

 (めん)(どう)くさいことに変わりはない。



「――して、(えい)(ゆう)ハヤトよ」


「なんだ」



 だが俺に(おど)される要素はない。

 ライフラインなんかいくらでも止めてもらって結構。

 各所の町に(たい)(ざい)している間を除けば、旅路にそんなものはなかった。サバイバルにだけはやたら強くなったんだ。

 第一――、



「すぐには日本へ帰らないとして――。()(なた)は、どうやってこの国で生活するつもりじゃ?」


「生活? そんなもん、国の金で……」



 俺はこれまでの五年間、国王の(ゆる)しを得て、国の金を自在に動かしてきた。

 個人の(さい)()などという小さな価値観は、とっくにない。



「なぜ統一を果たした後まで、其方に国費を使わせねばならん?」


「――なっ、ジジイ! 汚えぞそれは!」



 そんなことをされては、個人の財布を持ち合わせていない俺は本気で生活が成り立たなくなる。

 大体、英雄をぞんざいに(あつか)うなんて――。



「聞くところによると其方、諸国統一の最中に(ずい)(ぶん)と派手な遊びへ金を(つい)やしたそうじゃな。キャバクラ……正確にはコスパブ、ランパブ」


「な、なぬなななんのことでしょうか!?」



 マズい。何故(なぜ)そんな情報が()れた!?

 なぜか、夜のお店へ遊びに出向いていたことが国王にバレている。

 俺はハッと気付いて、国王の(そば)()(じゆう)のように(かしこ)まって()()くすパティを(にら)んだ。



「パティ、お前ぇ……」



 この中でそれを知っているのは、こいつだけだ。

 パティはふいと視線を()らして、わかりやすい態度で知らない()りをしている。

 長い旅路には(いき)()きも必要だ――と言えば理解してくれたから、『なんだこいつチョロいじゃん』って思ってたのに。



「パトリシアは権力に弱いからのう。あっさり供述してくれたわい」



 国王から見てもチョロいとは考えていなかった。

 一応こいつ(けん)(じや)だし、俺の言い分にも正当性はあるわけで、ついでに言えば店内での出来事なんて知るわけがない。

 じゃあ少しは気を()かせるだろう――って、(おも)()んでいた。



「特に十八になってからの三年間は、立ち寄る町々で女性に金をばらまいて(ごう)(ゆう)二十歳(はたち)になってからのここ一年は酒に()うと、おさわり禁止の店で金を見せ付けて(ごう)(いん)()きつき女性の胸に顔を――」



「ぬぁぁぁぁぁっ! もういい! わかったからそれ以上は言うなぁぁぁっ!!」



 なんで事細かに伝わっている!?

 パティか? まさか俺が楽しむ姿をどこかから見ていたのか!?



「――――ふむ。しかしの、税金の不正使用、横領――――()(つう)なら、ギロチン台で()ね首じゃよ?」



 この中世めええええっ!

 心の中で(さけ)んだ(しゆん)(かん)、俺はあることに気付いた。

 リルとマノンの……、特にマノンの好感度が目に見えて減少している。


 ――汚い大人は(きら)い。



「ちょ、マノン? これは(ちが)うんだ! その――っ」


「は? なぜ私に(あやま)るのですか? 私は引きこもるためなら多少(うす)(よご)れた大人が相手でも()(まん)しますよ」


「ぐふぅ――」



 十四(さい)に言われると心に(こた)えるものがある。



「私は別に、お店ぐらい好きに行けばいいと思うけれど。……お店と寝取られは、ちょっと違うのよね」



 リルは論点がずれている気がする。

 こいつの好感度を回復させる気が起こらないのは何故だろうか。一応命が()かっているというのに。

 まあ大して減ってもいないし、放って置いてもいいだろう。

 ほんとネトラレ願望さえなければ良い(おく)さんだったかもな、こいつ。



「――し、しかし国王、俺、いや私は大陸(せい)()を果たし――その…………だって、だって五年ですよ!? たまには息抜きも必要じゃないですか!」



 俺は自己を正当化し、声を張って主張した。

 ()(ちが)ってはいないはずだ。



「うむ。其方の主張は簡単に否定できぬものじゃ。息が()まって大陸制覇に失敗されたほうが、国の損失は大きいからの」


「そうです! つまりこれは必要経費と呼べるわけで、福利(こう)(せい)というか、その――――っ」


「内容の問題じゃ」


「はい……」



 そこを()(てき)されると立場がない。

 しかしパティは何故、店内での出来事を知っているのだろうか。

 一度も連れて行った覚えはない――というか()(しゆつ)多めの女の子と楽しく会話しながら酒を飲む店に、多感な(とし)(ごろ)の女の子を連れて行くわけがない。

 ()(ぱら)ってうっかり話しちゃったのかな……。



「大陸制覇の英雄がこの()()いでは、評判が下がる一方じゃ。今後、国費の個人利用は禁止とさせてもらう」


「で……でも俺は、まだヒロインを――。それじゃ生活は……」



 更に俺の言葉を無視して、二の句を()ぎ始めた。



「――しかし其方がすぐに日本へ帰ると()んで、その程度の(うわさ)なら()()せると高を(くく)()(のが)していたことも事実。(さら)に其方を帰れない(じよう)(きよう)にしてしまったことに関しては、ワシにも落ち度がある」



 おっ、ようやく国中の美女をネトラレ属性に変えたことが間違いだと気付いたか?



「日本に帰れば(よめ)となる者をすぐに選べ、というのも無理がある。まだ若いのじゃ。せめてもう少し(たが)いを知り、互いの良さに気付いてからでも(おそ)くはないじゃろう」


「は、はあ……」



 説法のように言われているし、その言葉自体に反論はないのだけれど、お前も論点ずれてるよ?

 そもそもリルにネトラレ属性が(たた)()まれていなかったら、(そつ)(こう)で連れ帰っていたという話なわけで。


 まあ、その場合リルの素の性格に気付けず日本で苦労しただろうから、結果的にはこれで助かったのかもしれないけれど。



「そこで其方達には、生活を共にしてもらおうと考えておる」



 国王が放った言葉に、俺だけではなくリルやマノンも(おどろ)いた。



「ちょっ、お祖父(じい)さま!? ネトラレを理解しない者となど――」


「引きこもれないなら、城もろとも粉々にするよ?」



 うーん。今の発言だけを聞いても、こいつらと生活を共にしたところで互いの良さなんてわかり合えない気がする。どっちも(かん)(べん)願いたい!



「リル、これは国王命令じゃ」


「そんな……」



 威厳を効かせた国王に対してリルは承服しがたいという表情を見せたが、すぐにシュンとして(うつむ)き、それ以上は反論しなかった。

 ほんと王政って……。



「そしてマノンちゃん。……城にはいくらでも引きこもれる部屋がある。新居を(こしら)えるまではそこに居着いてもらって、構わんのじゃよ」


「三食(ひる)()付き?」


「当然じゃ」


「なら(だい)(じよう)()。――城と命は大切に、ね?」



 (こわ)いわ!

 マノンは一々脅しを入れるところがある気がする。この子、本当に十四歳なのかな。



「第一じゃな、二人の()()けた魔法の結果でハヤトに死なれると、(けい)(やく)不履行でワシまで死ぬ可能性があるのじゃ。それは困る」



 あー、なるほど。最終的にはそこに行き着いたわけか。


 ネトラレを叩き込んだ国王は契約不履行で死にたくない。


 ネトラレを叩き込まれたリルは国王命令に逆らえないようだし、俺に選ばれなかったことへ反感を持つ程度にはプライドも高そうだ。


 日本で引きこもりたいマノンに(あきら)める気配はない。


 俺は死なない程度に二人の好感度を上げつつ、できれば――、いや、絶対に二人以外のヒロインを見つけ出したい。



「……(みよう)な利害関係が(いつ)()してんなあ」



 一言だけ(つぶや)いて、俺は諦めの境地に達した。

 この際だ、日本に連れ帰る一人を厳選するという一点以外は()(きよう)するしかない。


 王族の(れい)(じよう)と国を()(かい)できる()(ほう)使(つか)い。そして英雄。

 大人しくしていれば悪いようにはされないだろう。…………多分。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] すみません、質問なのですが、リルやヒロイン達の寝取られ属性っていうのは自分が他の男に抱かれるのか、ハヤトくんが他の女を抱くのか、どちらが好きということなのでしょうか?上手く理解出来てな…
[良い点] この英雄、死んでもいいンジャナイカナ(掌返し [気になる点] NTRれる側って、考えてみれば 『肉体の快楽をきっかけに心変わりする』だけだから 強〇じゃなくて合意スタート(浮気?)なら何の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ