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マノン⑯ にく!!

 俺が肉を(さば)きマノンが味付けを仕上げたシンプルな料理を、まずはすぐ近くにいた料理人に味見してもらう。

 味の濃いソースを使うのは中央と西、北半島風の味付け。対して東と南は香辛料の文化だから、マノンの香辛料で素材を活かす料理は口に合う公算だ。

 とはいえ育った(かん)(きよう)(ちが)えば味覚ももちろん違うから、確認をしてもらったほうがいい。

 警戒を解かれているから、毒味の意味は大して無いだろう。


「どうですか?」


 俺が問うと、料理人さんは「ふむ――」と(いつ)(たん)(かんが)()んだ。

 味付けが合わなかったのかと不安に思ったのだが。


「美味しい。肉の持つ雑味を見事なまでに消していますね。店で出しても問題のない水準でしょう」

「じゃあ、これで出しても?」


 それにしては厳しい表情だ。


「だが、この場所で出すには無難すぎます」

「……え?」


 頑張って無難な方向を目指したのだけれど。


「たとえば英雄様は、戦時で気が張り詰めているときに、どういう味付けを好みましたか?」

「俺は――」


 五年にわたる大陸統一の旅。

 何度も訪れた試練を命からがら生き抜いて、食事に味なんて求められない状況も沢山経験した。

 その中であえて思い出に残っている味と言えば……。


「作戦前夜や、勝利の(うたげ)――。前夜では味付けの()い、貴重な肉を。宴では少し()(ゆう)のある手の込んだ料理を食べました。その味は今でも覚えています」

「ここにいる連中は、みんな死を(かく)()しています。無難にまとめられた味よりも、多少の()(きら)いは出てもみんなであーだこーだと感想を言い合えるほうが、より好まれますよ」

「なるほど……」


 もちろん俺は、この機会を()かしてここにいる人たちと精神的な(きよ)()を縮めたいと考えている。

 食事の席というのは、心が打ち解けるにはベストなものだ。

 そこにプラスアルファの要素としてマノンの手料理をと考えたわけだが――。(きら)われては(かな)わないと、少し(しん)(ちよう)になりすぎていたかもしれない。


「マノン。ここから味付けを変えることはできるか?」

「もちろんなのですっ」


 料理が得意ということもあって、マノンにも(めずら)しく気合いが乗っている。

 以前だったら『こんな(やつ)ら毒殺してしまえば事態は丸く収まりますよ……ふえふえふえふ』となっていたかもしれないところだが、やはり成長が見られるな。


「せっかくだ。二種類に分けてみよう」

「中央風のソースと、(ひがし)(ふう)のスパイスマシマシですね!」

「おう!」


 それから再び調理に取りかかって、俺たちは二種類の鳥料理を仕上げた。

 直接的な魔法を使わずに人の役に立つ。

 妹のように思えるマノンが一歩、大人に近づいた気がする。

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