健全なら大丈夫です
リルとアランさんの会話がしばらく続いたあと、話を本題に戻す。
昼あとに出立。それからリーフローバー村へ立ち寄ってからここを訪れたこともあって、すでに日が沈んだ。
まあサラのおかげで常識外の高速移動はできているのだが……。
「アランさん。まずは中央へ向かう足を止めてはくれませんか?」
「それは難しいでしょう。足を止めれば戦地が東寄りになってしまいます。こちらは中央のことを信用していませんから、攻撃に向かうと言うよりもどれだけ向こう側に防衛戦を張れるかということが重要になるのです」
「理解はしています。しかし中央の側でも次期教皇が足止めをしているはずです」
「ならばこちらが向かえば、より有利になる。話し合いならば顔を突き付けて直接すれば良い。――私はともかくとして、全体の意思はそうなるでしょう」
アランさんは別に権力者というわけではなさそうだ。あくまで周囲に慕われて、その信頼感から中心人物となっているだけで。
命令ができる立場ではないだろう。
……ならば。
「ではアランさんが、その目で確かめるというのはどうでしょうか」
「どうやって……?」
「遠隔地の状況を見ることができる魔法があります。それを使って――」
「生憎ですが、アステカ教は魔法の使用を固く禁じております。更に言わせて頂ければ、いかに英雄様と言えどあくまで中央の人間です。魔法で見せられたものを簡単に信じるわけにもいきません」
「そう――ですね」
言われたとおりだ。この人は冷静に状況を客観視できる上に、弁も立つ。
そうでなければ信頼は得られない――か。
俺への好感度は微動だにしない。これも精神に強く芯がある故だろう。
正に寝取られが生み出した強敵……っ。
迷惑な話だ。
……しかしまあ、少し博奕ではあるがアランさんはリルの父親でもあるわけで。それならばある程度の信頼を置いた上で、危険を冒すしかないか。
「では、直接その目でご覧になっては如何でしょうか?」
「それこそ方法がありません」
「俺たちが中央の信者よりも圧倒的に早くここへ訊ねることができた。もちろん、それなりの理由があります」
「魔法というわけでは?」
「直接の魔法行使ではありません。安全と混乱を避けるための魔法は使う必要がありますが――」
落ちないようにするためと、周囲から見えないようにするため。
サラの背中に乗ってもらうとしても、マノンに魔法を使ってもらう必要がある。
隠し通したいドラゴンの存在を曝け出すことにはなるが、衝突回避のために必要ならば――。
だがアランさんは首を横に振った。
「……難しいと思います」
「そうですか……」
「しかし私だって衝突は回避したい。少し、話を預からせてください。今日はここでお休みになると良いでしょう。できるだけ良い寝床を用意させます。……ああ、もちろんリルとは別に寝てもらいますよ? そういう関係では無さそうなので」
うわぁ。いきなり父親特有の持病みたいなものを発症しているな……。
まあ娘のこととなれば、誰でもそうなるのかな。他にも女の子が二人も帯同しているわけで。
「構いません――が、よくわかりましたね」
「勘です。娘からは異性とベッドを共にしている雰囲気が一つもありません」
奥さんを寝取られたことで、そういうことに敏感になっているのかな。
正解だから凄い。
アランさんは言葉を続ける。
「もっとも。英雄様を特別に好いてはいるようですが」
「あー……。はい、まあ」
「健全な恋愛をしているのなら、喜ばしいことです」
まあ最近は寝取られ云々も一切口にしなくなったし、一つ屋根の下に住むようになっても健全感は増しているぐらいか。
俺の理性はもっと褒め称えられても良いような気がするな。結構耐えているのだよ?
「まだその、付き合っているというわけでは」
「まだ、ですか――。ははっ、それはもう時間の問題でしょう」
寝る場所を分ける程度には父親らしいところもあるけれど、健全な恋愛は認めている――ってことか。良いお父さんだな。
それから外へ出ると、すぐに四人分のテントが張られて、中には簡易な寝床とガス灯が用意された。
設営を手伝おうと思ったのだが、手際が良い。
「夕食の用意ができているようです。どうぞこちらへ」
それから俺たちは、東半島の人々と共に夕食を口にすることとなった。




