その娘は幸せを求める
一歩前へ出てアランさんの正面に立ったリルが、自らの口で真実を明かす。
「あの……。実は」
「どうしたんだい?」
「私――――、いえ、『リル・ティシエール』という名に心当たりはございませんか?」
「リル……。ある、が――」
なるほど。名前はアランさんが一緒に付けたか、それとも知らされていたか。
「まさか、リル……なのか?」
「――はい」
「本当に? …………いや、しかし言われてみると、面影がある」
「その――。お、お父さん」
そう口にした瞬間、アランさんはリルをそっと抱きしめた。
「こんなに大きくなっていたのか……。すまなかった、母さんとリルを置いていって……。本当にすまなかった…………っ」
彼の声は感傷的で、リルも泣きそうな顔をしている。
これはもう、他人が割って入れることではないだろう。
十八年ぶりの親子の対面。
俺だって、ウルッとする。
「ハヤトさん、泣いているのですか?」
そこへマノンが寄って、問うてきた。
「うるせえ。俺はこういうのに弱いんだよ……っ」
「よくわかりません。娘を置いて国を出たなんて、悪い人ではないのですか」
「人には色んな事情があるんだよ。一つのできごとをもって善人か悪人かなんて、決められやしないんだ」
「そういうものですかねぇ」
「当時は仕方がなかったとしても、あとになって悔やむことだってある。悩みもあったんだろう。そういうのを想像すると、泣けるんだ」
「うーん…………」
マノンはクエスチョンマークを貼り付けたような顔で小首を傾げた。
まあ十四歳だもんな。反抗期まっただ中だ。理解するにはまだまだ早いだろう。
「あの――。お父さん、苦しい」
「あ……っ、すまない。つい」
「ううん。よかった、お父さんが私のこと、恨んでいなくて」
「恨む?」
「だって……」
「さっきも言っただろう? 神の与えてくれた機会だと思っている。誰も恨んだりはしていないよ。――――母さんは、元気かい?」
「お母さんは、もう……」
「………………そう、か。彼女は小さな頃から少し病弱なところがあったんだ。長く生きることは難しかった――か」
小さな頃から?
「ひょっとして、お父さんとお母さんって小さな頃から一緒に育ったの?」
「ああ、そうだよ」
寝取られの価値とやらで測るならば、相当に高いだろうな。
……それだけにショックは大きかったのだろう。
「リルは母さんが亡くなったあと、どうしていたんだい?」
「私はその…………」
寝取った人に育てられていましたなんて、そりゃ言いづらいわな。
「王城の中で育てられました」
少し遠回しな言いかたをしているが、これが正解だろう。なんでもかんでも真っ正面から正直に語ることが正義とは限らない。
しかしそれでもアランさんは、目を見開いて驚いた
「王族でもないのに、よく許してくれたものだ」
「いえ……。私は王族として育てられ、今でも王族です」
「…………そんなことが、ありえるのか?」
「はい。かなりの無理を通したようですが……」
リルが生い立ちを語るには、育ての父親や国王の話を抜くことができない。
でもアランさんに語る上で、それらの要素はできるだけ排除したい。
中々に複雑な関係になっているな。
「リル――と、呼んでもいいかな?」
「も、もちろんです! その――あなたの、娘なんですから」
「では、リル。私に気を使う必要はないよ。さっきも言ったとおり、恨みなんて抱いていないんだ。普通に話してくれると嬉しい」
色々と難しいところはあっても、アランさんは良い人のようだ。
ま、リルの父親だし、納得かな。
むしろ妻を寝取られた被害者の側だから、リルから寝取られ属性を抜いた状態はむしろこの人のほうが近いのかもしれない。
お母さんには会ったことがないから、憶測に過ぎないけれども。
それから俺たちは、親子が長い空白の時を埋める姿を微笑ましく眺めて、嬉しそうな声をずっと聞いていた。




